自らの協調性のなさを“どうしようもない”と開き直る『ジリキの迷宮』で幕を開け、つまらない世の中と自分に正面切って“つまんねえよ”と悪態をつきまくるそのものズバリな『TSUMANNE』で潔く幕を閉じるSAKANAMONのニューアルバム『あくたもくた』が痛快でしょうがない。前作ミニアルバム『ARIKANASHIKA』(‘14)から僅か半年。遂にSAKANAMONの3人は持ち得る才能を爆発させるスイッチの在処を突き止めたのか!? 楽曲の多彩さもハンパなく、雪月風花の情趣に富んだピアノに破壊の美学を感じさせる歪んだギターが切り込んでくる『烏兎怱怱』と、モテ男を目指してダイエットに励むがすぐに諦めてラーメンライスをかきこむ悲哀を描いた『肉体改造ビフォーアフター』の華麗なる落差を早くライブで体験して泣きながら大笑いしたい。四つ打ちや高速テンポといった流行りの現象を爽快に皮肉りつつ、世の中の全てがつまらなかったかつての自分を納得させ得るだけの力作を生み出した藤森元生(vo&g)が、ツアーセミファイナルの大阪公演を前に大いに語る。
――前作『ARIKANASHIKA』のインタビューで“自分たちのニュースタンダードを作る”という意識があったと言われていましたが、今作はスタンダードすら飛び越えるすごいアルバムを作っちゃいましたね。
「よかったです! 前作の表題曲にもなった『アリカナシカ』(M-8)が出来たとき、自分たちの中でもすごくいいものが出来た手応えがあって。その流れを止めたくなかったし、その系譜に連なるものを作るために頑張りました」
――『TACHNOMUSIC』(M-4)にはテクノや宅呑みが掛かってるんですよね? 今も、iTunesでお気に入りの曲を爆音で聴きながら、部屋でお酒を呑むのが好きですか?
「最近はあまりやってないですね。近所迷惑を考えるようになったのと、あんまり音楽に夢中になれてないです。って、何を言っているんでしょう、僕は(笑)。ちょっと耳が肥え過ぎて、いいと思う音楽があんまりないんです。中高生の頃は全てが新鮮で何でも楽しかったけど、今はイヤでもいろんなものをたくさん聴くから、自分の好きなものもどんどん狭くなっていくというか。ここ最近はずっと新鮮なものに飢えてますね。だから、今回のアルバムを作るのもすごい大変だったんですよ! 自分が新鮮に感じたり、“これはおもしろい!”って燃えないと曲に出来ないし、出来た曲はどんどん出していくし、出していくほど自分の中には何もなくなっていく。今回は本当に絞り出しました」
――自分の中でもどんどんハードルが上がっていますか?
「みんなが“いいよ”って言ってくれる曲でも、自分では“いやいやいや、これじゃ面白くない”って。でも、その面白さの基準って自分の感覚でしかないんですけどね。歌詞やメロディしかり、構成、展開しかり」
――ご自身のことを書いた『TACHNOMUSIC』のような曲と、『アナログラブ』(M-5)のように詞が男女双方の視点からの物語仕立てになっている曲では、どちらが書いていて楽しいですか?
「自分のことを歌っているものの方が作り慣れているんですけど、今まで散々自分のことを書き過ぎていて、ネタが尽きてきてる(笑)。『スポットライトの男』(M-9)や『アナログラブ』も書きやすいけど、得意ではないので結構時間が掛かるんですよね。まぁ得意じゃない分、自分にとって挑戦にはなってるんですけど」
――『アナログラブ』は最後の“ラブメモリー”で藤森さんの声とゲストボーカルのMINさん(杏窪彌/アンアミン)の声が1つに重なったとき、物語が成就したような幸福感がありました。
「そうなんですよ! 女の子が“愛を重ねるまで止まらない”と歌って、僕が“鐘鳴らすんだ”と歌ってるんですけど、時計の短針と長針が重なって鐘が鳴る瞬間って0時しかないんで。数字の0ってラブとも言いますよね。それをゼロの目盛りっていう意味で、ラブメモリー。0時に針が重なって、時が止まって鐘が鳴るっていう意味なんです。自己満足かもしれないけど、そういうことを考えたりするのも楽しいですね。でもこれ、ちゃんと説明しないと分かんないですよね? 今日初めて言いましたけど(笑)」
――『東京フリーマーケット』(M-3)で“東京は冷たい街ではない”と歌われていますが、東京のことを歌った曲って何となく淋しい曲が多いからとても新鮮で。
「東京をテーマにするからには人と同じことを歌ってもしょうがないと思って、別の視点で書きました。いろんな方が東京について歌っていますけど、僕はそんなにみんなが言うほど悪い街じゃないと思っていて。人が多いのはもちろんめちゃめちゃイヤだし空気も悪いですけど、歌詞にある通り東京出身の人で悪い人に会ったことがないですし」
――ベースの森野さんは東京出身ですよね。
「だから森野さんがすげえ共感してくれて。森野さん曰く、“みんなよその街から勝手に東京に出てきて、東京を悪く言って帰って行きやがって!”って(笑)。街のせいじゃなくて、自分の頑張り次第なんですよ」
――この楽曲の最後では、“まだまだ諦めてないんだ”と歌われていますね。
「普段はあんまり言わないんですけど、たまにはいいかなと。強がってみました(笑)」
本当に学校なんか超つまんなかったですよ
マンガに出来るような青春は一切ないです
――『プロムナード』(M-7)については、“僕なりのデートプランを曲にした”と資料に書かれていましたが、ディズニーランドに行くわけでもなく、映画館も遊園地も登場しない代わりに、具体的な地名が幾つか登場していて、そこをひたすら歩く。これが藤森さんの理想のデートですか?
「そうですね。僕は出来ることなら、人のいないところをめちゃくちゃ歩きたいんですね。別にディズニーランドや映画館に行ってもいいんですけど、とにかく人がたくさんいる場所がイヤで。道を歩くのにも手こずったり、何かをするのに長い時間待ったり、大声で話せなかったりするし、電車の中で酒を飲んでたりすると世間体も悪いじゃないですか?(笑) だから、歩いて歩いて、好きなときに走って、大声で話して。そういうのがいいです。いつでもギューッて出来て、チュー出来るみたいな(笑)」
――重要なのはそこですね(笑)。そういえば『ぱらぱらり』(M-2)で“スティックシュガーを舐めて 凌いだ修学旅行”とありますが、あれも実体験ですか!?
「高校の修学旅行で東京へ行ったんですけど、そのときにもらったおこづかいでギターを買おうと思って、修学旅行にはほんの少ししかお金を持っていかなかったんですよ。ディズニーシーに行ったんですけど、ご飯を食べるお金がなかったんで、砂糖を舐めて栄養補給して。だから実話です(笑)」
――ストイックというのか何というのか(笑)。
「東京でやりたいことなんてないし、お土産なんか買わなくていいし、帰ったら楽器を買うぞと(笑)。とにかく学校とか行事が全部楽しくなくて、早く帰りたかったんですね。つまんないってばかり言ってると高校時代の友達が怒るかもしれないけど、本当に学校なんか超つまんなかったですよ。マンガに出来るような青春は一切ないです」
――まさに『TSUMANNE』(M-12)という曲がありますが、こんなに“つまんねぇよ”と言っている曲が素晴らしくキャッチーでグッと心を捉える曲で。ただ単純に文句や愚痴を言っているだけの曲だったら、何回も聴きたいものにはならないですよね。
「最初に歌詞が出来上がったときは、まさに悪口を書き過ぎていて、今と同じ指摘を受けたんですよ(笑)。“こんなの聴いても誰もおもしろくないよ”って。それで、聴いてくれる人も共感出来るものを作ろうと思って手直しして」
――“つまんねぇ”と毒を吐きながら、そう言いながら現状を打破出来ていない自分を“笑っちゃう程つまんねぇ”と歌っている。自分に対しても皮肉の矢を向けていますね。“何時か一泡吹かせられます様に”ともありますが、その気持ちは昔も今も変わらない?
「いじめられたりとかはなかったけど、“それはおかしいぞ”って人と違うところを指摘されることが、とにかく昔から多かったんですね。違うことは分かっているし、それがおかしいってことに気付けるぐらいの常識は僕も持ってるんですよ。でも、それを分かった上でやっちゃうんです。止められないんです」
――周りに同調出来れば波風立たないんでしょうけど…。
「それでも曲げられないし、やりたくないからやらないんですってことですね」
――自分もつまんねえ10代を過ごしてきたんですが、この曲はそういう境遇の人間が単に共感する域を飛び超えて、“これがSAKANAMONの王道であり武器なんだ”と、正面切って言っているような力強さを感じました。
「僕は基本的に何でも肯定ですから。僕は聴いている人に“変われ”とか“ガンバレ”とかは直接的に言ったことがないし、多分これからも言わない。基本、“今のままでいいじゃん”と思うんです。それで、聴く人が息抜きになれば」
大多数の中のたったひと握りの
スポットライトの当たらない人たちを敢えて選んで
その人たちの歌を作る
――改めて思うんですが、前作で『アリカナシカ』と『幼気な少女』を世に出したことはSAKANAMONにとって大きな挑戦だったと思います。現在の音楽シーンや音楽の聴かれ方も含めて“今のままでいいと思ってるの?”と突きつけるものでもあったと思うし、そういう曲を出すことで、後に引けない状況を自分たちで作ったと思うんです。
「そう考えるとプレッシャーに感じちゃうな(笑)。確かに『幼気な少女』ってめちゃめちゃ意地悪な歌なんですよね。“やいやいやいと野次飛ばして わぁわぁわぁと盛り上がれば笑う 君はまだ幼気な少女”って、下手したら僕らのライブに来るお客さんのことを歌っているとも受け取れるから、バッシングもあるんじゃないかと思ったんですけど、すごく反応が良くて」
――例えば、ナンバーガールの『透明少女』(‘99)は、今でも聴くたびに何か突き動かされるものを感じるんですが、『プロムナード』~『アリカナシカ』の辺り、『烏兎怱怱』(M-11)~『TSUMANNE』の辺りに、その衝動に通じるものを覚えました。“このままじゃ終わらない”というか、シーンなのか世の中なのか分からないけど、自分たちの気に入らないものをひっくり返してやろうという意志が、今まで以上に強く表に出ているんじゃないかと。
「今回はどういうわけだか、そういった面が強く出ましたね。それは僕だけじゃなく、他の2人も共感してくれていたんだと思う。曲を作っているとき、“俺、大丈夫かな? いい曲書けてんのかな?”とか“本当にアルバム出来上がるのかな?”とか“みんな聴いてくれるかな?”とか思いながら書いていると、知らない内に自分に対する応援ソングが出来ちゃったりするんですよね。今回は割とそういう部分もありますね」
――そうやって出来た曲が聴き手を鼓舞するものにもなっているんじゃないでしょうか。今まで以上に達成感だったり、また1つ難題をクリアした手応えがあったんじゃないです?
「結構短い期間で頑張って作ったんで、よく出来たなと思うし自分たちでもすごいなと思いました。最初にリリースの話があって3ヵ月先ぐらいまでのスケジュール帳を見せられたときは、正直“これは無理だ、出来ない”と思ったんです。でも“ハイ、やります”と言って、自分と戦いながらやっていこうと。でも、“もしも出来なくても死ぬわけじゃないし”とか思ってたけど(笑)」
――以前、“SAKANAMONがチャートの1位になる世の中はおかしい”と言われてましたが、今でもそう思います?
「それは実現しないと思います。この世の中が、そんなにセンスのいい人間で溢れかえることはないでしょう(笑)」
――アハハハハ!(笑) 『あくたもくた』という言葉には、ガラクタとか役に立たないものという意味とともに、“悪口を言う”とか“人を揶揄する”という意味もありますが、どちらの意味も込めて付けられている?
「どっちかと言うと、前者の意味で付けました。今までにも聞いた言葉ではあったけど、幾つかタイトル候補を挙げてみた中で、ピンと来たのがこれで。『東京フリーマーケット』で“気付けばもう僕は転がる石だった”って歌っていますけど、そういう大多数の中のたったひと握りのスポットライトの当たらない人たちを敢えて選んで、その人たちの歌を作る。何の解決にもならないようなくだらない人たちの人間味をフィーチャーしたり、そういう人間の美しさを、敢えてこういうタイトルを掲げて一見卑下しているように見せかけて、“でもその藻屑が美しいんだ”っていうことを言いたいんです」
――ドブネズミみたいに美しくなりたい、みたいな。世の中の大半はそういう人たちですよね。
「だと思うんですよね。あくたもくたじゃない人なんて…マイケル・ジャクソンぐらいじゃないですか?(笑)」
――今後のSAKANAMAONの目標みたいなものは何かありますか?
「高校、専門学校時代の僕はただのリスナーだったんですけど、いろんなミュージシャンが作品を出していけばいくほど飽きていったんですね。元々僕は飽き性で、ファンだからといって好きなバンドをずっと追いかけたりしないし、逆に興味がない人でも、曲が良ければ聴く。すごく覚えているのが、明らかにリリースのペースが早いバンドの作品を聴いたときに、案の定、曲も作品もやっつけ仕事と言ったら失礼ですけど、全然いいと思えなくて、“時間がないなら無理矢理アルバムを出すなよ”と思ったんですよね。あの頃、自分が文句を言ってたバンドには絶対なりたくないし、今回も前作から半年しかリリースの間隔が空いてないけど、絶対にいいアルバムを作ってやろうと思っていたんですね。かつての藤森元生に、“俺は曲で選ぶからどんなバンドだって聴くけど、SAKANAMONは好きだからCDを買う”みたいに言わせたい。あの頃の自分が、“SAKANAMONのCDだけは楽しみに待っていられる”と思えるような、SAKANAMONでありたい。そう思ってます」
――これからまだまだガンガン行けそうですね。ライブも楽しみにしています!
「いやぁ、もう今回で出し切っちゃいましたけど…でもまた何とかなるんだろうと思います!(笑) 頑張ります! ライブもいっぱい練習してきますので、楽しみにしていてください!」
Text by 梶原有紀子