SAKANAMON製ポップ・フレーバーに幸福な中毒者続出!?
音楽との出会い、結成のいきさつ、メジャー1stアルバム『na』
要注目新人のヒストリーと楽曲の成分を解析する入門編
藤森元生(vo&g)インタビュー&動画コメント
日本語のスクラップ&ビルドを繰り返しながらポップでクセになるメロディをフルドライヴさせる、高性能で奔放な3ピース・ギターロックバンド、SAKANAMON。’11年に発表した1stミニアルバム『浮遊ギミック』が、いきなりタワーレコードのプッシュアイテム“タワレコメン”に抜擢されて以来、全国各地のライブサーキットで軒並み入場規制をかける追い風をそのままに、怒涛の快進撃で昨年12月に1stフルアルバム『na』でメジャーデビューを果たした彼ら。同作は、バンド名の由来である「聴く人の生活の“肴”になるような音楽を作りたい」という志を下味に、やみつきのポップ・フレーバーが全編にまぶされた、聴くほどに発見と浸透のある1枚だ。そこで、バンドのフロントマンである藤森元生(vo&g)に、音楽との出会いと愉しみ、SAKANAMON結成のいきさつ、独特の言語感覚で予測不能の展開を繰り広げるパズルのような詞世界をはじめ、ソングライティングの核となる想いをインタビュー。アルバムツアーは全ヵ所ソールドアウト、4月17日(水)には1stシングル『シグナルマン』のリリースとそのツアーも後に控えるなど、ロックシーン期待のニューカマーの歴史を紐解く入門編。ブレイク前に頭に叩き込んでおきましょう!?
藤森元生(vo&g)からのクリクリサラツヤ動画コメント!
――バイオグラフィを見ていたら、音楽を始めたのが早いですよね。小学校ぐらいからもうギターを持って。
「まあ僕、典型的なB型なんで、スゴい個性に飢えてたんですよ。クラスで何かしらで目立っていたかったというか。当時から図工とかだけは得意で、そっちを極めて必ず5は取って、それでみんなに“藤森くんはオモシロいな”と思われることでちょっと優越感を抱けるというか(笑)。兄が中学生ぐらいで音楽を聴き始めて、僕は小5とかで、“まだギターには誰も手を付けてないな”と思って。もうただの目立ちたがり屋でしたね」
――勉強でもなく運動でもなく、小学生で“みんながまだ触ってないモノを”っていう視点は早いし大人(笑)。
「そうですね。どっちもダメだったんで別の道を(笑)」
――目立ちたい気持ちから始めた音楽ですけど、今や10年以上音楽をやってるわけじゃないですか。それにはやっぱり何かしら自分の中でのやり甲斐とかオモシロさを感じていたからだと思うんですけど。
「やっぱちゃんと曲を作り始めてから、音楽が楽しくなりましたね。だから不思議と続きました。それぐらいしかもう逆に取り柄がなくなった(笑)。最終的にはもう、目立たなくてもいいから音楽続けられればいいやって、そういう学生になってましたね」
――目的と手段が逆転するほどの魅力があったと。
「まあ僕は子供の頃からモノ作りが好きだったんで、自分で曲を作って、自画自賛じゃないですけど100回ぐらい聴いて(笑)」
――最近取材していて、特に女性のシンガーソングライターに多いんですけど、歌いたいっていう衝動の方が結構強い。カバーばっかりじゃライブに出られないから曲を書いてるけど、実際は歌えたらそれでいい、歌うのが1番好き、みたいな人が多いんですけど、藤森さんはそれとは違いますよね。
「そうですね。僕は曲を作るのが好きですね。もう全然歌わなくてもいい(笑)」
――アハハハハ!(笑) 曲はいつ書き始めたんですか?
「最初はただの遊びですけど、小6ぐらいから作ってましたね。当時はゆずっ子だったんでフォークっぽい感じで、アホみたいな歌詞とアホみたいなメロディで歌ってました(笑)。中学校のときにはもう文化祭でバンドやろうって」
――中学校とかでバンドやってたら、結構人気出ますよね。
「いやぁ~僕もそんな気がしてたんですけど、そうでもなかったんですよね、何か(笑)。まあギターが弾けることに関してはちょっと違う目で見てくれたかもしれないですけど、だからといってモテるとかではなかったですね。普通に部活で県大会行ってるヤツの方がモテる(笑)」
――マジか(笑)。でも、ゆずっ子なのに弾き語りじゃなくてバンドだったんですね。
「BUMP OF CHICKENとかが出てきた頃からバンドにスゴい興味を持ち始めて、4人でバンドやりたいなと思って。そんな軽いキッカケでしたね」
――それで高校でもバンドを組んだものの、人間関係がウマくいかずに解散と(笑)。
「そうですねぇ。最初は和気あいあいとやってたんですけど、だんだんバンドがイキってきたというか(笑)、ちょっと周りにチヤホヤされて調子乗ってたんですかね。僕はそんなつもりはないんですけど、ヘンにプロ志向というか。練習もスゴく険悪な感じで。ちょっとテンポがズレたら蹴り入れられるみたいな(笑)」
――シビアやなぁ(笑)。
「それがスゴい嫌で、全然楽しくなかったんですね。音を楽しんでこそ音楽なのに、楽しめてなかったらバンドをやる意味ないじゃないか!と思って、解散したんですよね」
――それでも結局は、このSAKANAMONにたどり着くわけですよね。中高で音楽やってても、その後にいろんな夢や目標がまた出てくるじゃないですか。なのに、バンドを、音楽をやるところは変わらなかったんですね。
「とにかく音楽だけは続けていたかったですね。もう一生バイトでも全然いいから、音楽をやって誰かに聴かせることが出来ればいいなって思ってた。何も高望みはしないで、ただそういう精神を持って1人で黙々と東京で暮らしてましたね」
――そんな気持ちにさせてくれるってスゴいですね、何か。
「コレぐらいしかやることがホントにないんですよねぇ…」
――案外その1つの“コレ”が見付からずに大人になって、ずっと見付からずに死ぬ人も多いと思いますよ。でも、バイトしながらでもいいから音楽を続けられたらって言ってたのが、今では職業となったのはスゴく嬉しいですよね。
「まさか、まさかですよホント。考えもしなかったんで。分かる人にだけ分かって、打ち上げで楽しく呑めればいいやって(笑)、ホントにそれを欲してましたから。それがたくさんの人に聴いてもらえるって、それは気持ちが汚れる前の夢というか(笑)、小学生中学生の頃に描いていた夢が、逆にそっちが叶うのかと。だから、少し前の藤森元生は結構ウロたえてましたね(笑)。そっちか~!って」
楽しければいいや、楽しく音楽を作ろうって
もうバンドやっちゃおうっていう気持ちにさせてくれたんですよね
――上京後、音楽専門学校でメンバーの2人に出会うわけですけど、この2人ならと思えたのは何だったんでしょう。
「いや、でも最初は疑心暗鬼でしたね。元々は他のドラムがいて、森野さんをベースに引っ張ってきた形だったんですけど、そのときも正直森野さんのことは全然分からなくて、ムズカしい人だったら嫌だなぁとか思いつつも、なるべく楽しく和気あいあいと盛り上げながら探りつつ、森野さんがヘンな方向に行かないように、面倒くさくならないようにと(笑)、スゴい頑張ってましたね。結果的にドラムは就職でいなくなったんですけど、キムさん(=ds・木村)が前々から友達で、森野さんってキムさんと話してるとき、何かすっごいいい雰囲気でスゲェ楽しそうなんですよ。森野さんを楽しませるためにもキムさんを連れてこなければと、この2人になりましたね(笑)」
――めっちゃ森野さんのこと考えてますね(笑)。
「なんだかんだこの3人の中では一番気難しい方なんで(笑)。もうとにかく楽しく、ヘンな空気にならないように!っていう人間関係の恐怖だけが、僕をそういう方向に持っていってましたね(笑)」
――アハハハハ!(笑)。それってやっぱり、楽しくてやり始めたバンドが全然楽しくなくなった辛さを知ってたからでしょうね。
「でも、結果的にそんなことしなくても2人は全然大人というか、いい人たちでした(笑)」
――それぞれの第一印象はどうだったんですか?
「森野さんに関しては、同じクラスでいわゆる前の方の席に座って、友達がイッパイいて、学校も休まない。正統派で真面目な人だったんですよ。卒業するまで縁がないんだろうなって思ってたんですけど、クラスの1人1人が日替わりで書く日誌を見てたら、森野さんが“羊毛とおはなのライブを観に行った”って書いてて。前々からベースをやってるのは何となく知ってたんですけど、そこから興味を示して。キムさんと僕は遊びでバンドをやってて、そのライブを森野さんが観に来てくれてたりして。少しずつ仲良くなって、最終的にベースに誘おうという形になりましたね」
――ということは木村さんの方が先に出会ってたと。
「これが結構重要で。僕は上京して2年間ずっと1人で活動してたんですけど、まぁ正直面倒くさがり屋なんで、全然曲が出来なかったんですよ。お酒を覚えてからはもうそっちが楽しくなっちゃって(笑)」
――スゴく解ります(笑)。
「実際1人では何も進まないなってことに気付きつつも、でもバンドはもう面倒くさいしやりたくない。でも、ある人がゲストボーカルとして僕を誘ってくれて、そのバンドにキムさんがいたんですよ。それでバンドをまた始めたんですけど、もう楽しくて。久々のバンドだったし、打ち上げで話したりするのがやっぱスゴい楽しくて。当時はめちゃくちゃ高い理想を持って、ストイックな、完成された曲を作ろうとしてたんですけど、もういいやって。楽しければいいや、楽しく音楽を作ろうって。もうバンドやっちゃおうって気持ちにさせてくれたんですよね。そのキッカケを作ってくれた人は何か不思議な人でしたね。曲にもたまたま出てくてるんですけど、『便乗鴎の世界』(M-5)の便乗鴎って人が」
――その音楽の恩人なんや。
「そうなんです! この人のお陰で意識革命も出来て、今のSAKANAMONがあるんで」
――ちなみにその方は今何してるんですか?
「分かんないです(笑)。でも、ずーっと詩は書いてますね。趣味で」
――あと、森野さんが最初に藤森さんの曲を聴いたとき、“出会ってしまった。これは広めなければ”と思ってくれたみたいで。
「何か恥ずかしいですね(笑)。もちろん自分の曲には自信があったんですけど、今の時代ではちょっと遅いだろう、売れはしないだろうってずーっと思ってました(笑)。ただ、バンドが出来て楽しかった。それだけで幸せだった」
音楽は抽象的に聴いて欲しいという面もありつつ
それを解読する楽しみというか
――そんな3人が集まってSAKANAMONになったわけですけど、バンドの大きな特徴として、やっぱりこの歌詞は他にはいないなぁと。この世界感、言葉使い、おおよそ歌詞では見ることのなかった単語がまぁポロポロ出てくる。これ、めっちゃ歌い辛くも感じるんですけど(笑)。
「そう、ルビ振んないとなって感じですよね(笑)。これはもう何ですかね、それこそ捻くれ精神といいますか、やってやりたいんですよね、こういうことを」
――ストレートに物事を表現するんじゃなくて。
「そうですねぇ。濁したがるというか。音楽は抽象的に聴いて欲しいという面もありつつ、それを解読する楽しみというか」
――鴎(かもめ)って最初読めなかったもん。
「そうですね。僕も最初鴨(かも)って書いてました(笑)」
――なかなかこういう難しい単語がたくさん出てくるのって珍しいですよね。
「これはもう完全に辞書フル活用で書いてますね」
――英詞でもいんだけど、それに漢字を当てるみたいな感覚?
「響きとかは大事にしますね。そこから何かモヤモヤと、その言葉でやっと何かテーマを探し始めるというか」
――メロディの響きに当たる単語がいろんなところに出て来て、それをストーリーとしてつなげていく。でも、この曲展開に言葉を乗せるのってムズかしくないですか?
「言葉を考えるのは大変ですね。最初の3~4回目はちょっと間違えますけど(笑)」
――アハハハハ!(笑) そんな中で逆に『かくれんぼ』(M-8)みたいにストレートな曲があるとドキッとしますね。
「スゴいシンプルでね。コレは元々SAKANAMONでやるつもりはなかったんですよ。趣味でこういう曲もオモシロいかなって作ったら、意外とみんなが気に入ってくれて。だから自分の中でもちょっと特殊な曲ですね。僕なりの童謡ちっくなイメージです」
――子供の声も入って童謡感は出てるけど、音はバキバキ(笑)。あと、ライブを観てて思いますけど、みんな上手いですよね。
「ホントですか!? それがちょっと意外で。そうなんだ…って。嬉しいんですけど、そんなことないとしか言えないです僕は(笑)」
――すでに3人でゴンッ!っていう塊の音が出てるというか。演奏が上手いのはマストじゃないけど=説得力だと思うんで。
何も考えなくても僕ららしいアルバムになる確信があった
この1枚を聴けばSAKANAMONのことが分かる
――メジャー1stアルバムとなった『na』は、ホントにドライブ感のある楽曲が一気に雪崩込むようなアルバムで。
「そうですね。でもあまりどういうアルバムにしようとかは考えず、ただある曲をとりあえず録っていって、それをほぼ入れた感じですね。それだけでもう、何も考えなくても僕ららしいアルバムになる確信があった。この1枚を聴けばSAKANAMONのことが分かる。昔の曲も新しい曲も、高校時代に作った曲から、レコーディング直前まで作ってなかった曲も入ってるんで」
「アレ、何なんでしょうね(笑)。誰でもすぐ乗れるようになるんですよ、絶対に落ちないし。僕はああいうシュールなのが大好きなんで。オモシロおかしくやってましたけど(笑)」
――あと、スピッツらを手掛けているプロデューサーの竹内修さんの存在って、どう効いてると思います?
「どっちの目でも見てくれる人というか、対等な立場で相談に乗ってくれる。言葉に説得力があってなるほどって思うし、先生みたいな感じですね。竹内さんがいなかったら出来なかったアレンジもたくさんあるんで感謝しつつ、まぁ意見もぶつけ合ったり」
――こうしなさいとか押し付けがましいことじゃなくて、言い合える環境を作ってくれる。見えない扉の存在を教えてくれるような感じですね。ここもあるんだよ、開けてみたらというか。
「なるほどな~って思います。でも、みんな竹内さん信者なんで、多数決とかになると絶対に負けるんですよ(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「説得力が全然違うんですよ。僕、伝えるのがヘタクソなんで、ダメなんですよねぇ…いつかは勝ちたいなぁ(笑)」
女子高生がホームで電車を待ってるとき
ヘッドフォンに流れる音楽であって欲しかった
――あと、SAKANAMONというバンド名の由来は、“聴く人の肴になるような音楽を作りたい”とのことだと。
「当時、僕が1番楽しかったのが、自分の部屋に閉じこもって暗くして、iTunesをスピーカーで爆音で鳴らして、座ってお酒を飲むこと(笑)。あと、PCサイトビューアーでキラキラした映像を流してね。もうホントに楽しくて。僕は好きな音楽しか聴かないから自分のプレイリストを作ってるわけですけど、そのプレイリストに入ってる曲全部が、1つのバンドのものだったらいいなって思ったんです。それがきっかけでSAKANAMONを作りましたね。だから、本当に最初は酒の肴にするためにバンドをやろうとしてました。だけど、お酒飲まない高校生とかにも聴いて欲しいんで、生活の肴ということにして」
――あとアルバムタイトルの『na』もね。
「こうきたかった感じですね、僕としても(笑)。肴っていう字も、魚っていう字も、菜っ葉の菜っていう字も、実は全部に“おかず”という意味があって、総称して“な”って読むらしいんですよ。だからまあ、ストレートに“SAKANAMONのおかず”的なことですね。特に深い意味はありません(笑)」
――それこそ、日本のどこかの薄暗い部屋で、このCDを爆音で流しながらお酒を飲んでくれることが起こりうる。
「そうなんです! 念願叶いそうで。あと、9曲目『僕の登下校』は、僕がそうだったように、音楽を聴きながら登下校する時間が楽しいっていう高校生に聴いて欲しいんです。女子高生がホームで電車を待ってるとき、ヘッドフォンに流れる音楽であって欲しかったんで。憧れですね」
――隣に座ってる女子高生のヘッドフォンから漏れてくる音が、SAMKANAMONだったら。
「もうヤバいっすね。興奮しますね」
――このアルバムが出来上がったとき、今までと違う感覚ってありました?
「10曲入ってるんで、たくさんの曲を聴いてもらえる時点で嬉しかったんですけど、10曲じゃないとそれこそ『かくれんぼ』(M-8)みたいな曲は出来ないんで、コレを聴いてみんなが唖然としてくれたらいいなぁと想像しながら(笑)、ワクワクしつつリリースを待ってましたね」
――曲を作ることは楽しい。それをライブで表現することは、自分にとってどういう効用があるのか。
「ちょっと独特ですね。歌ってるときはちょっと無に近い。みんなが楽しんでくれてるのがその場で分かれば、もう僕はそれだけで楽しいんですけど」
――曲を作るのが好きから始まって、今ではやっぱり自分で歌うことの意味も楽しさも感じてると思うんですが。
「何だかんだで好きなんでしょうねぇ。あと、このご時世ってあまりガナる人がいないのかなって。みんな甘いのが好きなのかなぁ。だからちょっとしょっぱいボーカル系では、イケてる気がします(笑)」
――やっぱね、酒を飲んだときはしょっぱいモンが欲しくなりますから(笑)。これからどうバンドが前進していくか、楽しみにしてますよ。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年3月22日更新)
Check