「両方ですね。それはもう、私次第なところがあって。もっとキャッチーな曲を書きたいのに出来なかったり、進まなかったりしてたのが去年の後半ぐらいなんで。明確にライブがありますとか、収録がありますみたいな具体的なスケジュールがなくて、曲作りだけをする期間がずっとあって、それは結構、キましたね…(笑)。まぁいろんな人と会ったり、友達と呑んだりするのも気晴らしにもインプットにもなるし、あとはライブを観に行ったりとか…そういうのも必要だと頭では分かるんですけど、気持ちが全然着いていかなくて。時間はあるんだけど、心に全く余裕がない。人にはあんまり会いたくないなって、ずっと家にいた時期もあったし。家にいても曲の出来なさと向き合うのが怖くて、アイドルの動画をずっと見てたり(笑)」
――アカンやん!(笑) まぁ全ての事の発端は、曲作りということになってくるのかな。
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「『悲しくなることばかりだ』(‘13)(M-4)をいろんな人にいいと言ってもらえて、じゃあ次はどういうものだったら聴いてもらえるんだろう? 求められてるんだろう?とか…多分頭では分かってるんですけど、実際にそれがアウトプット出来なくてっていう感じですかね」
――家にいてもそのことを考えるし、出たら出たでそれをしていない自分のことを考える(笑)。
「そうそうそう(笑)。もう誰かに会っても、“あ、ヤバい。早く帰ってやらなきゃ”とか思ったりしちゃうから、もう出ない、みたいな」
――で、動画を見て、課金すると(笑)。
「本当にね、ダメでしたね(苦笑)」
――それってどのぐらいの期間? それが打破出来たきっかけは?
「…5ヵ月ぐらいですかね(笑)。あとはもう打破出来たかどうかは分からないですけど、それでも作っていって、『はなむけ』(M-1)『LIFE SONG』(M-3)『愛だろうが 恋だろうが』(M-7)、その後に『わたくしどもが夢の跡』とかが出来たんですけど。それでちょっとずつシングルとかアルバムのことが見えてきて、ちょっとずつ楽になってきて、『バンドマンずるい』(M-6)とか『ガール』(M-9)みたいな曲も書けて」
――もう本当に、コツコツやっていくことでしかなかったと。
「そうですね。突破する!というよりは、ジリジリジリジリ、ちょっとずつちょっとずつっていう感じで。そのときそのときはもちろん精一杯やってきたんですけど、もどかしさとか歯痒さはすごくあって。1回ライブを観てくれたり、1回聴いて耳にしてくれる機会がもっと欲しいなと思ってたし、傷付かないように守っちゃってる部分もあるかもしれないですけど、それでもどこかに道があるんじゃないかってやっぱり思ってたし。それが自分の続けていくモチベーション。根拠なんてないですけど、そう信じるしかないなぁって」
――そもそも1stアルバムへのビジョンはあったんですか?
「いや、なく(笑)。私がもっと器用に、臨機応変に曲を書けてたらテーマがあってもよかったのかもしれないですけど、それに縛られて動けなくなったりするタチなので(笑)、出てくる曲で、とりあえずやってみようと」
――今作で見田村千晴が劇的に変わったとは思わへんけど、ちょっと変わったとは思って。でも、変わることが結構難しい人やと思うので。
(一同笑)
「ヘヘッ(笑)」
――変わりたくても変われない=見田村千晴節なところがあって、基本的には届かない想いを描く。今作では、届かないけど、その次の一手があるというか。それが正解なのか、世に通用するのかは分からないけど、でもやるんだって。『はなむけ』なんかは特に、これが=正攻法だと言ってもいいぐらいの曲だと思いますけど。ずっと変われなかった見田村千晴が、初めてちょっと変われた、みたいな(笑)。
「アハハハハ!(笑) すごい(笑)。ありがとうございます」
――“奇抜であるほどいいだなんて 一瞬だって思っちゃいないわ”って。とは言え、それに憧れている自分と、それになれない自分とがいるからこその1行だと思うし。でも今回は、それすら言っちゃえたところがありますよね。
「そうですね。言い切っちゃうことで、自分の中の揺れもなくしたかった。それでもし頷いてくれる人がいたら、こっちも安心出来るし。もう本当すがるような気持ちというか(笑)」
――ハッタリでもいいから強くあろうと踏ん張る姿というかね(笑)。
「そうそう(笑)。強く書いてないと多分ブレブレになっちゃうから、1回言い切ってしまおうって。そういう風に取られないことも結構ありましたけど(笑)」
――“感じるな 考えろ”とかもね、ブルース・リー批判ですかこれは?(笑) 感じて即行動出来る人への羨ましさもありつつのこの発想は、やっぱり見田村千晴らしいなぁって。アレンジもすごく華やかで、それこそ『悲しくなることばかりだ』以来のこのメジャー感。
「ありがとうございます。嬉しい」
続けてるとご褒美みたいなことがあるんだなって
こういう日のために頑張ろうって
――『LIFE SONG』は、“私には真実ならばいいんだ”、“私が抱きしめるからいいんだ”なんて、 無償の愛というか、 この歌を捧げられる人は本当に幸せ者やなって思うような曲ですけど、こんな曲、どうやって出てくるん?
「フフ(笑)。これは自分のためにも書きましたね。本当に“あ、もうヤバい”っていうときに、未来の自分を救う歌でもあるしって」
――あとね、『youth』(M-5)とかでも思ったけど、この人燃費良過ぎやろって(笑)。
「アハハハハ!(笑) 過去の思い出でずっと生きられる(笑)」
――そうそう。ちょっとの幸せでどこまで走るんだ!っていう(笑)。
「アハハハハ!(笑) そうですね。そうじゃないとやっぱり、ダメになっちゃうから(笑)。そうかもしれないなぁ…去年のヤバかったときに、過去の恋愛をふと思い出して、あの頃はよかったなぁ…とか思う“病み期”がありまして。そのときに書きました(笑)」
――ちなみにこの曲は、憧れのヤイコ(=矢井田瞳)のサポート陣と一緒にやったのもトピックで。
「ヤバかったですね~! レコーディングのとき、別にそんなに一緒に歌う必要もないのに、“仮歌、ちょっと一緒に歌ってもいいですか?”とか言って(笑)。やっぱり思い入れとしては別格にあるから、続けてるとご褒美みたいなことがあるんだなって思った。こういう日のために頑張ろうって思いました」
――ヤイコさんには会えたんですか?
「会えたんですよ、それが! 私がライブにお邪魔して、その後に面識も出来て。ちょっとヤバいですね。辞めないでよかったなぁ…」
――『LIFE SONG』が何年後かの自分にも向けて歌ってるみたいな話で言ったら、『愛だろうが 恋だろうが』もそういうテイストはありますよね。自分を鼓舞するというか。“嫌いな人ばかり成功する/成功するから 嫌いになるのか”とか、めっちゃいい詞やな~。
「フフフ(笑)。ありがとうございます。そう、私も好きです(笑)。言ったった!みたいな(笑)」
――でも逆に、曲だから言えるのかもしれないね。曲というある種のフィルターを通してるから、本気ともフィクションともとも取れるし。
「そうなんですよ! 本当に助かってます(笑)」
もう1回勉強というか、自分の声を最大限に活かさなきゃ
――『バンドマンずるい』のちょっとチープなサウンドもおもしろいし、『悲しくなることばかりだ』もそうですけど、シンガーソングライターの人って周り=同業者をよく見てるよね。こういうことをバンドマンは歌詞にしない。
「だってバンドマンはもう、こっちのことを見てないですから! 多分こっちは1人だから楽屋とかで時間がいっぱいあるんでしょうね。コイバナとかをする相手がいないから、1人で周りを見てる(笑)」
――バンドマンがみんなコイバナしてるわけじゃないんじゃない?(笑) バンドマンをすごい楽しそうなものとして見てるよね。
「いや~何かもうね、メンバー同士で付き合ったりとかね(笑)」
――いやいや、バンド内なんてそんなベタなことはないでしょ、って思っても、やっぱり付き合ってるもんね(笑)。シンガーソングライターはいい思いは出来ないですか?
「出来ないですよ。してる人も、いるのかしら…?(笑)」
――何を求めてるんだ(笑)。そして、『ガール』は見田村千晴のアイドル狂の部分が(笑)。最後の“君の全部が愛しい/変わりゆく瞬間こそ尊い君を見届けたい” のくだりなんかは、かなりヤバい感じがしたけど(笑)。
「アハハハハ!(笑) いやもうこの曲は、いつまでもキラキラしていてっていう願いですから。10代の中高生ぐらいの女の子の感じとかも自分が経験してるし分かるから、より想像しやすいんですよね。今はここ対ここで派閥が出来てるのかなぁ?とか、想像ですけど(笑)。何々ちゃんと何々ちゃんは最近ブログで一緒に写真撮ってないけど、どうなのかしら?とか(笑)。男性アイドルだと、それすらも演じてるのかも?って思っちゃうところがあって」
――それこそ見田村千晴がデビューしてからのこの2年は、アイドルの存在感が増していった時代じゃないですか。そういう人たちと同じ土俵で戦ってると思ったら、おもしろいですね。
「以前、モーニング娘。のシングルと私のミニアルバムの発売日が一緒で、お店で隣に並んでたんですよ! ちょっと感動して、写真撮っちゃいましたよ(笑)」
――『ラブソング』(M-11)に関しては今までも何度か録ってきた曲で、ライナーノーツにも、レコーディングやライブを重ねることで生まれ変わっていくのを感じたと。この曲を改めてこのタイミングで聴いて、見田村千晴は、この声で全てを成立させられる人なんだなって思った。
「ありがとうございます。たまに、インディーズのときの音源がシャッフルで間違って流れてきて聴くと(笑)、“私こんな歌い方してたんだ”とか、“この感じ、ちょっと忘れてるな”とか、逆に気付かされることがあって。今は言葉を立たせたいから強く歌うことが多いんですけど、インディーズの頃はバラードとかミディアムが多くて、そういう幅の広さをもう1回勉強というか、自分の声を最大限に活かさなきゃなって思ったりしてます」
自分のダメさ加減と、でももっとこうしたいのにっていう
理想ばっかりが大きくなって、全然そこに追い付けない自分がいる
でも、もうちょっと頑張ってみたい…みたいな繰り返し
――今作が完成したとき、どう思いました?
「本当に“今の自分”ですね。テーマとかはなく作っていったんですけど、言いたいことというか根底に流れてるものはずっと同じなんじゃないかなって、自分でも思いますね。自分のダメさ加減と、でももっとこうしたいのにっていう理想ばっかりが大きくなって、全然そこに追い付けない自分がいる。でも、もうちょっと頑張ってみたい…みたいな繰り返しなんですけど、結局、全てがそこに集約されてるのかなぁという感じはありますね」
――そして、『正攻法』というタイトルは、この2年の活動の中で見田村千晴がたどり着いた1つの指針というか。このタイトルは最後に付けた感じ?
「最後ですね。もう1ヵ月ぐらい掛かりました。マスタリング前ギリギリ。元々タイトルを付けるのが苦手なんですけど、今回は本当に自分自身だから、何か丸腰で戦ってるとか、素手でいっちゃってるみたいな(笑)、そういうタイトルにしたかったんですけど、うまく言葉に出来なくて。『悲しくなることばかりだ』とか『もう一度会ってはくれませんか』(M-8)とか、今までは長いタイトルも多かったので、ポンッと短いものにしたかったのもあって」
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――今ってシーンの分析も多いし、SNSを駆使して器用に戦っていける人たちも多い中で、『正攻法』ってもしかしたら時代遅れのやり方というか、不利な戦い方かもしれない。でも、自分にはこれしかないという答えに至ったと。
「そうですね。曲作りからして、曲先の方が作るのも早そうだしキャッチーだと思うんですけど、気付いたら自分は詞先になってたから。曲先にトライした時期もあるんですけど全然出来なくて、もう無理! しょうがない!と(笑)」
――ちなみに今の自分のことは好きですか?
「うーん…多分、何周もして好きなんだと思います。でもその根底に、“好きでいてあげなきゃ救われないでしょ?”っていうのがあって、もう幾重にも(笑)。嫌い嫌いって言っててもしょうがないし、誰かに乗り移れるわけじゃない。だから、強引にいかないと」
――だから=言い切っちゃうってことですよね。『正攻法』は、見田村千晴というすごく歪な人間を、ちゃんと自分で受け入れたアルバムだなと思いました。あと、今作の一連の流れにまつわるビジュアルで金髪になりましたね。
「やっぱり何かを打破したいのもあったし、何かを変えたいなと思ってるときに、スタイリストさんから背中押されたのもあって。中途半端に茶色とかにする気は全然なくて、黒髪or金髪みたいな(笑)」
――気持ちは何か変わった?
「変わったと思います。そうも言われるし。ちゃんとしなきゃとか、こんなことを言ったらちょっとヘンかなぁ?とか、そういう危惧から、ちょっとだけ解放された感じは自分でもありますね」
――でも、そこが真面目な人やなって思ったんですよ。金髪にしたら何かが変わっちゃう人、変われちゃう人(笑)。
「アハハハハ!(笑)」
――リリースに伴うライブもありますが、ライブは自分の中で何か変わってきました?
「ちょっとずつ変わってきてますね、自分との向き合い方も。今まではお客さんの反応を伺い過ぎたり、伺い過ぎて負けてしまったりしたんですけど、最近は基本的にはこっちから発信するんだっていう自覚が出てきましたね。ライブは楽しいですね! ピアノは緊張したりとかいろいろありますけど(笑)。でも、ピアノも弾きたいし、ギターも弾きたいし、バイオリンも弾きたい。いろいろと出来ることを増やしていきたいなぁって、思ってます!」
Text by 奥“ボウイ”昌史