2015年7月11日(土)には初の日比谷野外大音楽堂も
待っている! ありったけの愛が炸裂したSAの
アルバム『BRING IT ON!』リリースツアー
大阪・梅田Shangri-laで迎えたファイナルをレポート!
「絶景です!!!」。
この日、NAOKI(g)とTAISEI(vo)の口から何度この言葉を聞いたか分からない。ぎゅうぎゅうに詰ったフロアに無数の拳があふれ、誰もが声を上げ“SA!SA!”とコールする。泣いているのか、笑っているのか分からないぐらい汗にまみれた顔で愛おしそうにフロアを眺めながら、大きく両手を広げ、彼らは何度も何度もそう言った。絶景とは、なんと最高の褒め言葉だろう。
会心の一撃となったアルバム『BRING IT ON!』を携え4月11日、TAISEIの地元・岐阜から始まったツアーも、後は7月11日(土)のSAにとって初の日比谷野外音楽堂ライブを残すのみとなった。その最後を飾ったのはNAOKIのホームである大阪、6月14日、梅田Shangri-laだ。チケットはソールドアウト。「大阪、ぶちかまそうぜ!」(TAISEI)の一言を合図に、『RISE TO ACTION』でライブがスタート。とともにステージ前方へ押し寄せダイブする人、拳を突き上げ曲に合わせ声を上げる人。誰もが“この日を待っていた!”という思いをいきなり、遠慮なく爆発させる。その気持ちを掬い上げるように、ステージとフロアのギリギリのところまでやってきたTAISEIは、自分の拳をお客さんの拳ひとつひとつに合わせながら声を張り上げる。
「みんなでツイスト踊っちゃおうぜ!」と放った『CALL YOUR NUMBER』から、ハードなブギーの『破滅型ダンディー』は、目を見張るようなカッコよさ。この日はあと4日後に50歳を迎えるNAOKIの40代最後のステージでもあった。「ジョー・ストラマーは50歳で亡くなったけど、俺はあと4日で50歳になります。まだまだSAは上へ上へ行くから!」と。クラッシュがそうだったように、SAの4人もまたパンクに留まらないさまざまな音楽との長くて豊かな時間を過ごした果てに、今ここで爆音を鳴り響かせている。SAが現在の布陣になって14年。その14年間のありったけを彼らはこの夜、ここで見せようとしているのが分かった。大げさな仕掛けは何もないし、いつも通りのライブだったのかもしれない。ハッキリとうまくは説明出来ないけれど、単に全力で演奏するとか、最新の曲からSAで一番最初に作ったという曲まで幅広く網羅したセットリストだけには収まりきらない気迫や、情熱のようなものがそれを教えてくれた。
髪も衣装も全身汗びっしょりのKEN(b)が、ツヤッツヤのテカテカに輝いたとびきりの笑顔でコーラスを聴かせてくれる。こんなハジけた表情をしながら歌っているなんて、CDを聴いているだけじゃ分からなかった。「14歳の時にロックンロールとパンクロックにバキューンと頭を撃ち抜かれちゃったんだよ。俺の好きだったロックやパンクは、上にいるヤツを妬んで引きずりおろすようなゲスな音楽じゃない。もっと光り輝いてさ、希望にあふれて背中を押してくれる、そんなのが俺の大好きなロックンロールだったよ」(TAISEI)と語り、「上にいるヤツを引きずりおろすんじゃなく、超えて行こうぜ! まだやれるぜ!」と言葉を継ぎ、彼らの曲には珍しくマイナー調のイントロに導かれる『雄叫び』を。さらにゴスペルやR&Bのルーツが浮き彫りになった『YOUR DOOR』。グッと聴かせる場面から一転して、「14年前、SAはこのスローガンから始まったんだよ!」と言い放ち、『DON`T DENY,GIVE IT A TRY』を。さっきのMCでTAISEIが話していたことも、この曲にある“否定するな、受け入れろ”というメッセージに通じている。彼らの器はそんなにちっぽけじゃないんだ。
「SAで一番最初に作った曲です。この曲をやるとチンピラになるんで(笑)」(TAISEI)と紹介した『SA』が始まった瞬間の光景は、ちょっと忘れられない。“日比谷野音まであと26日”と描かれた旗が人の波の間に翻り、肩車された姿勢からステージに向かってダイブする人。フロアとステージぎりぎりの最前線で拳を突き上げ、大声で歌いながらモッシュする人たち。その勢いをさらに加速させるように、TAISEIが煽る。ふだんはきっちり鍵をかけている本能の扉が、演奏に触れて思いっきり開け放たれたかのように、歯止めがきかない。TAISEIが最初に言った“ぶちかます”ってこういうことか。ありのままってこういうことを言うのか?ぶつかり合ったり、ステージに駆け上がろうとする人までいるけれど、どんなにフロアがめちゃくちゃにひっくり返ろうと、ステージから見つめる4人のまなざしはとても温かかった。
NAOKIが「ライブに来てくれるお客さんや仲間のビッグスマイルを見たら移動の疲れなんて吹き飛ぶよ」と言っていたけれど、NAOKIもKENもTAISEIも、そしてステージの一番後ろでドシャメシャにドラムを叩きまくっているSHOHEIも、最初っから最後までずっととびきりの笑顔。彼らの歌やそこに込めた思いとともに、そこで起こっていることすべてを受け容れる覚悟を持った4人のビッグスマイルは、SAを応援する人たち=コムレイズにとって大きな大きな力になっているのは間違いない。ステージの4人とフロアが、表面的ではなく人間同士の芯の部分でつながりあっている手応えみたいなものを感じる。こんな瞬間を知ってしまったら、もうなかったことには出来ない。「SAを知って、出会えたらもう損はさせないから」と彼らが言っていたのは、きっとこのことなんだろう。
いつまでも鳴りやまないSAコールに応えてこの日はダブルアンコールをプレゼントしてくれた。そして野音でのライブに向け、「勝負は勝たなきゃ。勝ちに行こう!」(TAISEI)と気持ちを込めつつ「最後は楽しくいこうぜ!」と本当にラストの『RALLY-HO!』を。「野音よりも先に今日ここで、この絶景が見れて本当にうれしいよ。ありがとう!本当にありがとう」と言ったNAOKIの声はもうハスキーどころじゃないぐらいにカスれていて、思わず『声、カスカスやん!(笑)』とTAISEIも苦笑いするほどだった。
梅雨入りしたにもかかわらず、北海道から九州まで一度も雨に降られることなく完走したツアーを終えて、いよいよ7月11日(土)には初の日比谷野音ワンマン。NAOKIがライブの途中、こんな話をしてくれた。「みんなも結構知っている人がいっぱいいるけど、俺にとって野音はいろんな意味合いがあります。でもお前たちとだったら、すーーごいたくさんの笑顔にあふれた野音が出来そう」と。COBRA、ラフィン・ノーズの頃から彼を応援している人にとっても、野音には様々な思いがある。この日のライブでも披露された、SAを見事に表している曲『あったけぇうるせぇR&Rバンド』に“over the rainbow”という一節が出てくる。晴れ男ぞろいのSAだけれど、野音は雨が降っても素晴らしいロケーションで、事実、会場の照明と雨とが混じってぼんやりと虹がかかったようなステージを何度か観たことがある。明日のことは分からないし、人生には何が待っているか分からないけれど、どんな逆境にあっても光り輝いて、希望にあふれて、聴く人の背中を押してくれるSAの音楽と、彼らを愛する人たちと一緒に、虹の向こうまで行ってみたい。行ける気がすると、この夜思った。
取材・文/梶原有紀子
撮影/河上良(bit Direction lab.)
(2015年6月21日更新)
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