「はい。その時点では曲も何もなかったですけどね。自分で何が出来るのかが見たかったし、24時間マラソンみたいに、あらかじめゴールを設定してそこから逆算する演出というか、“12月10日におそらく僕はあなたの元にアルバムを届けるでしょう。その中身を今から作ります”っていうドキュメントをやってみたくて。それは僕自身が自分に一番興味があったからなんですね。こんなことは滅多にあるもんじゃないというか、もうあって欲しくないですけど(苦笑)、本当に受け入れるのも辛いようなショッキングなことが、同時に創作意欲を駆り立てるものでもあったと。ひと口に“悲しい出来事”と言ってもいろいろあるでしょうし、“今は音楽なんてイヤだ”となることもあるでしょうけど、9月の時点で自分の中にはいろんな感情があって、それを音楽にすべきやなぁと思ったので、その感情が冷めない内にやり始めようと。Twitterも始めて、リアルタイムで報告しながら」
「すごく特別なアルバムですし、今はまだちょっと自分でもよく分かってないんですよ。おそらくそれは、このアルバムの13曲…インストの『Reprise』(M-12)を除けば12曲の内まだ生演奏したことが、人前で歌ったことがない曲もあるからかなと思うんですね。例えばバンドで曲を作る場合、スタジオでリハーサルを重ねてレコーディングに臨むんですけど、今回は僕1人で誰もいないし、レコーディングのマイクの前で2~3回歌ったことしかない曲ばかりで、まだ距離感があって、僕のものだという感じがしないというか。今まで出してきた僕の作品の中でも圧倒的に僕のものであるクセして、今までで一番他人行儀な作品というか」
「何て言うか、レコーディングって不思議な作業ですからね。何回でもやり直せますし、誰も見ていないところでこっそり行われることだし。すごく現実味のない作業なんですね。しかも1人で多重録音となると、僕の目から自分の姿は見えないし、僕は機械しか見ていない(笑)。演奏しているベースやドラマーを見ながら歌うとか、みんなと話をしながら作ることに慣れ過ぎていて。今回、僕がレコーディングで見た景色って、機械ばっかり(笑)。人の目を見て歌ってないんですね」
――『アニメみたいな』(M-6)にはペトロールズの長岡亮介さん(g)が参加されています。志磨さん、長岡さんと色気のある男性2人の共演となりましたが。
「多分全ての日本人が“いつか長岡さんとご一緒したい”と思っているんじゃないかっていうぐらい、あの方はモテモテですよね(笑)。同時に今回は映像作品を作る企画がありまして、NAZ(※SEKAI NO OWARIのFukaseをフィーチャーしたlivetuneの『Take Your Way』や、ファレル・ウィリアムスの『It Girl』などのミュージックビデオを手掛けた映像制作チーム)とタッグを組んで、僕の大好きなマンガ家の中村明日美子さんに描いていただいたキャラクターを3Dアニメーションにしたミュージックビデオを作りまして。もうこの曲だけは人との作業でやってみようということになって、アレンジも任せてしまえと」
――この1曲だけでも、すごいコラボレーションが繰り広げられてるんですね。
「この曲だけでいくらお金使ったんやろう?(笑) クオリティももちろんですけど、この1曲だけ跳び抜けてエンゲル係数が高いんですよ(笑)」
――長岡さんのアレンジは思った通りの出来上がりでしたか?
「全然思ってもみなかった出来でビックリしました。タワーレコードでお買い上げいただいた方は、予約特典のCDにこの曲の弾き語りバージョンを収録してるんですが、僕が1人で歌っているバージョンと、長岡さんがアレンジしたバージョンを聴き比べるとすごくおもしろいですよ。曲ってアレンジでこんなに変わるんだなぁと。僕のバージョンは自分でギター1本で録っていて、めちゃめちゃ暗いんですよ。アレンジメントの大切さを学びますよ(笑)」
――そこから次の『みずいろ』(M-7)の流れが絶妙で、何とも思わせぶりなギターの音が艶っぽくもあり、曲自体が歌謡曲っぽい世界を醸し出しているようで。志磨さんの中には、そういう血がありますか?
「ありありですね。そういうのってバンドでは醸し出すのが難しいムードがありますから、故意に封印してましたね。そういうのをカッコよくやるバンドをほとんど見たことがないし、実際に自分がやってカッコ悪い側に加わるのだけはイヤだったんで。昔はそういう曲をいっぱい作ってたんですけどね。昭和の歌謡曲とかグループサウンズとか、何て言うの? ムード歌謡? ポール・モーリアみたいなものとかもすごく好きで」
――『妄想でバンドをやる(Band in my own head)』(M-10)もその流れですかね? グループサウンズっぽい。
「ですね。さっきのドキュメントの話も一緒なんですけど、今はバンドの実態がないじゃないですか? そういうものをわざとやりたかったんでしょうね。骨太なロックサウンドみたいなものじゃなくて、骨がないフニャフニャの、でも自分の中にしかなくて、他の人からは見えない。僕にしか見えないおばけみたいなバンド。最近、そのテーマが多いんですよ。おばけとか、ゴースト、ゾンビとか」
――『Hippies E.P.』には『GHOST』という曲が、『バンド・デシネ』には『Zombie』という曲がありましたね。
「どうしたんやろ(笑)」
――ゾンビは復活しますよね。
「そうですね! 『復活の日』(M-1)やからいいか」
――『愛に気をつけてね』(M-13)は、耳で聴くのと目で見るのは大違いというか、歌詞を見ながら聴いたら“こんなことを歌ってたんかい”っていう。ひと言で言えばめちゃめちゃ自由ですね(笑)。
「期待して損したでしょ?(笑) 歌詞はそんな程度なんです」
――歌詞に関して、バンド時代は“こうあらねばならない”という自分の中の理想のようなものがありましたか?
「ドレスコーズは僕が曲を書いて歌うときに、最初に聴くのがあの3人だから、彼らに聴かせる言葉であったり、あの3人が呑み込める言葉である必要が絶対にあったと思うんです。だからすごく個人的なことを歌うべきか、そうではないのかは、今回はすごく悩みましたね。例えば“戦争反対”という詞を書いたとして、全員が同じイメージを共有するわけではないし、その言葉がはらむシビアな問題もいろいろあるわけですよね。自分の発言には責任が持てるけど、バンドで歌うとなると4人の総意と取られますから。ただ、昔はそんなことで悩んだことはなかったんですけどね。言葉は僕のものやと思ってましたから」
――今回はドレスコーズという名前で出す作品ですが、最初っから最後まで全部志磨遼平でございます、と。
「はい。そうでございます。何か恥ずかしいですね。こんなヤツです。僕は」
――『スーパー、スーパーサッド』のミュージックビデオを見ていて、志磨さんは一度全てを自分1人でやる必要があったのかなと思いました。
「なるほど…そうなのかも。僕もまだ、自分が何を作ったのかよく分かってないんですけどね…」
僕にとって音楽は、“何をやっても怒らない人”みたいなもんですよ
――例えば1人になって、音楽を辞めるという選択はなかったですか?
「ないですね。音楽が僕から離れていくことはないじゃないですか? 僕にとって音楽は、“何をやっても怒らない人”みたいなもんですよ。僕を嫌わないし、ケンカもしないし、僕の言うことを分かってくれるし、放っておいても怒らない。僕の都合のいいときにだけ呼び出して、気持ちも全部聞いてもらえる。今回はきっと、あの3人と一緒に出来なくなったことに対して現実逃避してるだけなんですよ。3人がいない事実を受け止められなくて、すぐレコーディングを始めたんだと思う。そういう風に、音楽は自分を許してくれる唯一のものなんでしょうね。抱き枕みたいなもんですよ(笑)」
――思わず勘ぐってしまうぐらい赤裸々な歌詞もあれば、『この悪魔め』(M-4)の“口紅から機関車まで”のフレーズや、『愛に気をつけてね』の“LOVE IS A LIE”がTレックスの『テレグラム・サム』の“Bobby’s alright”に聴こえるとか、アルバムのあちこちに散らばっている、志磨遼平を構成するパーツや要素を見付けるのも楽しいです。
「フフフ。無意識に並んでるんですけど、そういう風に読み解いてもらうことが、まるで自分がセラピーを受けてるみたいなんですよね。こういうインタビューで“ここはきっとこういうお考えで?”みたいに聞かれると、“あぁなるほど”って思ったりする。1人で作るってそういうことなのかなと思いました」
――新しいドレスコーズの幕開けを締め括るラストの『愛に気をつけてね』は、全力でやった後の爽快感だけが残るとでもいうような曲で。
「そうですね。あの曲、ライブで早くやりたいですね」
――いよいよツアー『Tour 2015“Don’t Trust Ryohei Shima”』が1月17日(土)の梅田AKASOから始まりますね。
「このタイトルは、“この人は何をしでかすか分からないから、あまり信用しないで”ってことですね。おもしろいことをやろうと思ってますので、皆さんもどうぞ志磨くんをおもしろがってあげてください」
Text by 梶原有紀子