“後ろに歩くように俺はできていない”
くじけそうなとき、今日もSIONのメッセージと歌声に鼓舞される
絆と時代を刻んだ2年ぶりのアルバム
『不揃いのステップ』インタビュー&動画コメント
(2/2)
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何か少しでもいい方向に向かうっていうのは、嬉しいですね。歌が報われる
――SIONさんのブログにあった、“ここ数年とくに「これが最後のアルバムかもしれない」な気持ちも強く、今回もその思いで作ったアルバムです”という言葉が、すごく印象的で。デビュー時からのSIONさんの仲間の中でも、レコード会社を引退して田舎に戻られる方とかも出てきて。そういうのも時代の流れを感じるなぁと。
「ありますね、それはやっぱ。『俺の声』(‘01)のイントロを弾いてくれた人は、去年天国に行っちゃったしね。命がなくなる人もいれば、違う街に行く人もいる。一応、田舎に帰るその人に今回のアルバムを送ったら喜んでた。いいじゃないかって」
――自分が歌い続けている限り、別れても消えないものがちゃんとあって。
「そう。だから気持ちをこう、いつもここ(胸に手を当てて)へ持ってね、頑張らなきゃいけないんだけど」
――今回の『不揃いのステップ』に詰まってる言葉…何なんでしょうね、この前に向かおうとする力は。
「それこそデビューして10年ぐらい立ったときかなぁ。今はそれこそ九州に帰っちゃったプロデューサーと一緒に動いてて。1日に何10本とキャンペーンやったって、結果全然ダメじゃんって言ったことがあって。そしたらその人が、“やってこれなんだぞ? やらなかったらもっとダメかもしれない”って。だから、歌も自分に気合いを入れるように強めに書いたりする。こんぐらい書けないとっていう危機感を、すごい自分に課したりする。それで俺はやっと人並みかもしれないって」
――それこそ『後ろに歩くように俺はできていない』(M-2)って、凄まじく突き刺さる言葉だなぁと思っていて。このフレーズは振って湧いたものなんですか? SIONさんはこのとき何を考えていたんですか?
「自分に言い聞かせるように出てきたんでしょうね。こりゃダメだっていう邪悪な時期は、もうホントに下がりそうになるわけだよね。そんときに自分を焚きつけるために、後をなくすために」
――あと、前進するパワーもそうなんですけど、背中を押す強さと優しさというか…今回のアルバムにはすごくそれがあるなって思うんですよ。
「だったら嬉しいですけどね。出発点は自分に問いかけ焚きつけたりすることが、そうやって外の違う個々に降りかかって、何か少しでもいい方向に向かうっていうのは、すごい嬉しいですね。歌が報われる」
――何なんだろう!? この“俺に言ってくれてる感”はって、勝手に思うというか(笑)。
「アハハ!(笑) 俺のこと見てんじゃねぇかお前って」
――だから、SIONさんを好きになった人は離れられない。
ここまで個人的なことになったら
かえって日々生きている人にとって近いものがあるんじゃないかって
――今回のレコーディングでのエピソード的には何かありました?
「『長い間』(M-10)の詞が…最初は全く違ったんですけどね。全く届かない、何なんだろう?って。外の空気を吸って戻って、ギターを弾いたり置いたり、書こうと向かったりしてもどうしてもダメで。でも、何かのきっかけで“俺がお前に いらついてる時は/きっとお前も 同じぐらい俺が嫌いだろう”っていう言葉がパッと浮かんで。多分カミさんとちょっとアレだったのか、30何年付き合ったギタリストと別れたのもここにあったのか、その言葉がスーッと出てきた。この曲が生まれた瞬間はすごかったですね」
――今でも曲を書いていてそういうことがあるんですね。そう考えたら待ってよかったですね。アルバムを締め括る、すごく重要な曲に。
「何かね、捨てなくてよかった。あんまりそうなると、メロディも何もかも何処かにポイってするときがあるから」
――あと、さっきの“俺がお前に いらついてる時は/きっとお前も 同じぐらい俺が嫌いだろう”のくだりもそうですけど、SIONさんの曲って頭の2行の破壊力がすごい。取材に向けて歌詞の気になった部分に赤線を引くんですけど、今回は大半最初の2行です。何かあるんですかね?(笑)
「そう?(笑) (メモされた紙資料を見て)そんな小ちゃいフォントが読めるとは…やるなぁ~」
(一同笑)
「(目を細めて)もう少しだよ、もうすぐこうなる(笑)」
――ヤダなぁ~(笑)。
「アハハハ(笑)」
――『不揃いのステップ』の“絵に描いたような幸せに背を向けてきたくせに/いつもどこかでその場所に憧れる俺がいた”とかも冒頭2行ですし。SIONさんでもこんなことを思うんだなぁって。でも、そこには同時にさっきの“俺に言ってくれてる感”があって。
「みんなこういうことを言って欲しいだろうなぁとか、こういうのが喜ぶだろうなぁって書いて当たる人はすごいんだけど、俺はウルトラ個人的なこと、隣の女とか男とかそれぐらいの距離の話になるから。でも、ここまで個人的なことになったら、かえって日々生きている人にとって近いものがあるんじゃないかって。大きくバァーッて投げられたんじゃなくて、1つポンッと目の前に置かれたような気になって、自分の歌じゃねぇか?って思ったりすることもあるんじゃないかなぁ。みんなに喜んでもらおうとかいうのはないじゃん。やっぱ分かんねぇじゃん。こうやんなきゃダメな人間なんですよ、きっと」
――『お前を信じてる』(M-6)とかもそうですけど、必ずしも報われなかったりする世の中で、“お前を信じてる 俺の仲間だから”ってホントにシンプルに、これ以上ない力強い言葉で言ってもらえるっていうのがもう…。
「書くときはね、“こんなんで潰れる俺か?”であったり、“お前は間違ってねぇのに、ボロボロになっていくな。だけどお前を信じてるぞ”っていう想いもあり。だけどそれをステージで歌うと、みんなの歌になるからね」
もう音楽しかないんだよ、うん。どうにも
――そして、今年も8月16日(土)東京・日比谷野外大音楽堂にて、恒例の野音ワンマン『SION-YAON 2014 with THE MOGAMI』の開催が発表されました。SIONさんの中で、このライブってどんな位置付けになってきてます?
「あそこで歌っていられる自分でいたいっていうのと、完全に俺とTHE MOGAMIっていうバンドのお祭りなんで、そこに日本中から“今年も生きてたぞ”っていう連中が集まって、また来年も会えるようお互い頑張ろうぜって…やっぱり野音は大きいね。一番最初に、デビュー前に出たのがこの野音だったんで。’84年に『アトミック・カフェ・フェスティバル』っていうのがあって、そんときに俺はSMASH(『FUJI ROCK FESTIVAK』等を手掛けるコンサートイベンター)のボスにちょっとお世話になってて。バイトの途中に抜けて行ったんだけど。ステージの横でこれからさぁ出るぞってときに、そのボスが“行け! お前ここでこけたら後はないからな”って。この期に及んでこんなに緊張させるのか…この野郎、殴ってやろうかなって(笑)。3年ぐらい前に久々に会って呑む機会があって、“あのとき俺がこけてたら何て言おうと思ってたの?”って聞いたら、“次は頑張れって言おうと思ったよ”って。“こんの野郎ぉーーー! 涙出ちゃうじゃないか”って、手をつないで帰ったとさ(笑)」
――縁あって出会った人と離れてしまっても、ひょんなきっかけでまた繋がるものがあるもんですね。それじゃあ思い入れは自ずとありますね。それこそ何年か前のインタビューでも、“歌を書いて、作ることが、自分にとって生きてられる1番の喜び”だと言ってましたけど、今のSIONさんにとって歌を書いて、作ることは、どんなものになっていってるんですか?
「もうそれしかないんだよね、ホントに。ダメだろうなぁ。コンビニのレジでも雇ってもらえない(笑)」
――SIONさんが青と白の縦ジマの制服を着て…(笑)。
「温めますか? お箸は何膳? かわいい娘だったらギュッてしたり。ダメダメ、クビクビ(笑)」
――アハハハハ!(笑) じゃあもう音楽しか。
「ないんだよ、うん。どうにも」
――でも、“それしかないんだよ”っていうものが。
「あるってことは幸せなんだよね」
自分たちの大事なアルバムの中に、一点も嫌な要素を入れたくない
――タイトルが『不揃いのステップ』になったのは?
「ここだけの話、いくつか候補があったんだけど、(前述のレーベルのSION担当を見て)“これがいいよ~”って(笑)。だけどね、物事を決めるときって、やっぱり一生懸命押す人が勝つじゃない? だから今回はこれでよかったんじゃないかって。俺はただ横でボ~っと見てて、どっちでもえぇよとか言いながら(笑)」
――僕はホンマに『後ろを歩くように俺はできてない』がタイトルだったら…。
「もちろんそれもありましたよ(笑)」
――でも、それだけSIONさんの歌に思い入れを持って、スタッフもお客さんも集まってくるわけで。あと、SIONさんは、やっぱり好きな人と一緒に何かをした方が良いし、楽しいと。僕も同感です。
「10代20代の頃は、わざと揉めごとがある方へと行ったり、わざと難解な方に行ったりして。その頃はプレイヤーを選ぶのも、どんなに嫌なヤツでもプレイが好きだから構わん、やってもらおうって。それが30を越えたぐらいから、自分の好きなことを、好きなヤツとやる、自分たちの大事なアルバムの中に、一点も嫌な要素を入れたくないって。人との付き合いも、若い頃はいろんな店に呑みに行ってたけども、今は気に入ったお店でずっと呑みたい。ちょっと家から遠いからって店の近くに引っ越したりしてね(笑)。でも、最近その店がなくなってね…」
――ブログにも書いてましたね。なくなっちゃうんですね、30何年続くような店でも…寂しいですね。
「寂しいねぇ。湯豆腐頼んでも豆腐を忘れるような店だったけど(笑)。お前、ネギだけやないかって(笑)。美味い店はいくらでもあるのに、結局は人に会いに行ってんだよね」
――そうですよね。でも、SIONさんの音楽もそうだなって思いました。世の中にいっぱい音楽はあるんだけど、SIONさんに会いに行くというか…ライブとかもまさにそうじゃないですか。
「湯豆腐に豆腐がないようなね(笑)」
(一同爆笑)
――いずれ“SIONさんここ入るところですよ! 歌うところですよ!”とか言われて(笑)。
「背中叩かれて、ハイッ!て(笑)」
――野音に先駆けて、まずはリリースに伴うツアーもありますね。
「The Cat Scratch Comboっていう、藤井一彦に集めてもらったメンバーとね。THE MOGAMIは御大が多過ぎるので、“ピューン!とイベントとかに飛んで行けるような若い連中いないかな?”って一彦に言ったら、清水(義将(b・ex.惑星))と(相澤)大樹(ds・THE YOUTH)を連れて来てくれて。いやいやおもしろいヤツらですよ」
――Ken YokoyamaさんとかBRAHMANのTOSHI-LOWさんとかもそうですけど、SIONさんはゴツい音を出してる人に好かれるという(笑)。
「ね(笑)。TOSHI-LOWはなぁ…たまに使ってる好きな店があったんだけど…行けなくなっちゃったからな(内容は書けません!(笑))。バカ野郎ぉ~!(笑) 昔、泉谷(しげる)さんにクソジジィとか言ってたからか、今ではTOSHI-LOWにそう言われるようになって。こういうのって回ってくるんだなぁって(笑)」
――あと、現在はドキュメンタリー映画の撮影もしていると?
「確か『I DON'T LIKE MYSELF』(‘93)の前後にニューヨークに行ったとき、いろいろ世話してくれたカメラマンがいたんだけど、それが宮本敬文で。ニューヨークで写真の腕を上げようって何の約束もなく日本を出て、会う度に住んでるマンションの階数が高くなっていくような出来る男でね(笑)。そいつが日本に帰ってきたのは聞いてたんだけど、たまたま何かの会で歌いに行ったときに、その下の画廊で展示をやってたみたいで。“映画やりましょうよ”とか突然言い出して、何となく去年の野音ぐらいから撮ってる。まだどうなるか分かんないですけどね」
――不思議なつながりのある方なんですね。今年はアルバムが出て、春にライブがあって、野音があって。来春には映画が公開予定みたいな感じですね。
「いろいろ決まっててめんどくさい!って最初は思うんだけど、やっぱりリハーサルとかしてたら、アコースティックであろうとThe Cat Scratch ComboであろうとTHE MOGAMIであろうと、“うわぁ~こーりゃぁ気持ちいいな”っていうのが今でもあるんで楽しみになって、ステージに出たら、やっぱり楽しい。一彦とかにはしょっちゅう“俺こういうの向いてねぇんだよな。宝くじ当たったらすぐ引退だからな”って言うんだけど(笑)、“そしたらみんなからこんなに拍手をもらえなくなるんですよ。金があっても拍手がもらえないんじゃなぁ~耐えられるかなぁ~?”って言われて、“やります! やらせていただきます!”って(笑)」
――コントロールされてる(笑)。
「そうそう(笑)。今年の野音ぐらいから“ハイ! ここ歌うとこです!”って背中叩かれてるかもしれないけど(笑)」
(一同笑)
――今後のSIONさんの活躍も楽しみです! 本日はありがとうございました!
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2014年4月 8日更新)
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