「自分としては突破口だと思ってるんですよね、この世界観が」
三十代の焦燥も痛みも情熱も美しくかき鳴らす
アナログフィッシュ佐々木健太郎が初のソロアルバムで導かれた
AORとバンドとソロの未来を語るインタビュー&動画コメント
(2/2)
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“どこを切っても佐々木健太郎である”
――選曲は、基本アナログフィッシュの活動の中でこぼれ落ちた曲を入れた感じ?
「アナログフィッシュは曲を書く人間が2人いるから、お蔵入りになった曲がお互いに結構あって。『STAY GOLD』と『クリスマス・イヴ』は新しく書いた曲なんですけど、それ以外は昔のアナログ用に作った曲ですね」
――初のソロアルバムを作るうえでビジョンみたいなものはあった?
「“どこを切っても佐々木健太郎である”ことですね。ドラムも含めて演奏も全部自分でやったんですけど、ポール・マッカートニーが全部演奏しちゃうみたいな、シンガーソングライターとして濃いアルバムを作りたいっていうのが、何となくのイメージとしてはあって」
――ドラムとか叩けたんやね。
「高校のとき、軽音楽部でずっとドラムを叩いてて。そもそも中学は下岡と同じで最初はギターだったんですけど、クラスでギターが流行ってみんなで弾いてるみたいな感じでしたね。鍵盤だけは出来ないんですけど」
――それこそさっき“どこを切っても佐々木健太郎である”と言ってたけど、聴いていて改めて思ったのは、節回しというか、言葉の乗せ方がちょっと独特よね。『Band Wagon』(M-6)なんかは特に顕著だけど、メロディに対して言葉がちょっと後ノリのあの感じは、俗に言うところの“佐々木健太郎節”みたいなものなのかなと。
「そこはメロディ作るときに大事にしているところかもしれないですね。結構意図的にやってる部分もあるし。『クリスマス・イヴ』もそうですけど、最近は先に詞を作ることが多くて。昔はギターを弾きながら鼻歌を歌ってそこに詞を乗せていくパターンだったんですけど、メロディが先にあってそこに自分の言いたいことを乗せていくのって、すごく難しいことだなと思って」
――メロディという1つの制約が生まれた状態やからね。言葉という観点で言えば。
「そうなんですよ。なので、先に言いたいことを書いてそれにメロディをつけていくことにトライしてみたら、メロディから作った曲とそんなに印象が変わらなかったんですよね。じゃあこっちの方がいいなって」
――あと、今回はソロアルバムと言いながらも下岡くんが書いた曲が入ってるのは?
「晃もリリースしてない名曲がまだ結構あるんですけど、あいつにはあいつの基準があって、僕がすごくいい曲だと思ってるのに引っ込めちゃったりすることもあって」
――そうやんね。だって『Alternative Girlfriend』(M-3)もめっちゃいいよね。
「こういう曲がまだ結構あるんですよね。詞もすごい好きだし、『Alternative Girlfriend』『おとぎ話』(M-7)の2曲は弾き語りでよく歌わせてもらってて、割とすんなり自分の曲のように出来ましたね」
――作業的には楽しかった? しんどかった?
「結構しんどかったですね(笑)。バンドだとメンバーが録ってるときは休めたりするじゃないですか。でも1人だと、歌が終わったら次はギターとか、ずーっと動いてるんで。スタジオもそんなに安くないし、休憩してるわけにもいかないじゃないですか(笑)」
――全部自分でやるって決めたの自分やもんね(笑)。
「そうなんですよ。何てこと言っちゃったんだろうって(笑)。だからドラムを叩いているときも途中で腕が痛くなってきて、シップしながら続けたりとか(笑)」
――全部自分でやるハードさはあるけど、全部自分でやったからこそのよさもあるよね。
「ありますね。隅から隅まで自分で把握してる感じが」
――あと、いろんな佐々木健太郎が見えるアルバムよね。20代後半~30半ばくらいまでって、年齢的にも価値観もすごく変わる時期というか。
「そういう気持ちは『STAY GOLD』に結構込めたと思うんですけど、20代みたいに選択肢が無限にあるわけじゃなくなってきて、でも逆にそれが少なくなった分、自分の持ってるものがもっと大事になってくる感覚がすごくあって。そういう気持ちを『STAY GOLD』では歌ったんですけど」
――『あいのうた』(M-10)なんかはどう?
「これはまだメジャーでやってるときに、確か“ラブソングを書け”ってお題を出されて、多分この曲が初めて詞先で作った曲なんですよ。7~8年前かな」
――7~8年前に書いた曲を、今ってみて違うなとはならなかったんやね。
「ならなかったですね。ようやく出せるって。この曲たちに日の目を当てられる感じがして嬉しかったですね」
――それだけエバーグリーンな、時代を問わずちゃんと自分の感じたことを書けてるんだろうね。今回のアルバムを聴いて、佐々木健太郎はロマンチストだなと思いました(笑)。
「本当ですか(笑)。それは結構意外ですね。初めて言われたかも」
――去年の『OTODAMA’13~音泉魂~』の宴会場テントでトークコーナーがあったやん。あのときに、諸先輩方がめちゃくちゃ上手いこと喋る中で口を挟めない健太郎みたいな絵があったけど(笑)、そのときに音楽を諦められない話があって、あれがすごく印象的で。
「もうそういう先輩方でしたもんね(笑)。僕が目標とする人たちばかりですよ。さっき言ったこととも繋がるんですけど、どんどん身体は歳をとってくるけど、研ぎ澄まされてくる部分もすごくあって。“これしかないんだ”っていう気持ちも年々強くなってくるし、後戻り出来ない気持ちも結構ある。5年前は5年前なりに思ってたんですけど、どんどんこれしかないって思ってきてますね」
――フォーカスが定まっていくというか、ある意味捨てていくというか。いろんなものをね。
シンガーソングライターの1stアルバムとして
本当に胸を張れるものが作れた
――今作が出来上がったときはどう思いました?
「シンガーソングライターの1stアルバムとして、本当に胸を張れるものが作れた充実感がすごくありましたね」
――タイトルも『佐々木健太郎』やもんね。バンド名でセルフタイトルやったらあまり何も思わないけど、人の名前やとインパクトすごいね(笑)。ツアーもあって、こちらは盟友EGも一緒に廻って。自分の音楽を持っていろんなところに旅が出来るっていいよね。そこから生まれる曲とかもあったりする?
「旅先では…」
――飲んでるだけ?(笑)
「飲んでるだけですね(笑)」
――アハハハハ!(笑) まぁ2014年はリリースにツアーにと今後も楽しくなりそうやね。
「そうですね。今まではアナログフィッシュの佐々木健太郎としてソロ活動してたんですけど、これを出すことによって本当に“佐々木健太郎です”っていう気持ちで音楽が出来るのが、すごく嬉しいなって」
――ソロアーティスト・佐々木健太郎として目指していきたいところはある?
「結局、これを作って戻る場所はアナログフィッシュなので、このアルバムをいかにアナログフィッシュにフィードバック出来るか、ここでやったことをいかにあの2人に提示出来るかをすごく考えていて。今年はアナログフィッシュが15周年なので、これから本腰入れて曲を作るんですけど、僕はアナログフィッシュでプレイするのも本当に大好きだし、どんな曲を作ろうかなって楽しみにしつつ。それに、僕は自分の身体が大丈夫な限り音楽はやり続けたいから、このアルバムはその出発点でもあるし。今はとにかくやるしかないなっていう気持ちなんですけどね」
――35歳にして出発点、楽しみやね。
「そうですね、楽しみです!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2014年3月12日更新)
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