ロックンロールを愛する全てのレジスタンスに捧ぐ――
並走する“最低な気分の僕”と背中合わせの憧れをポップに鳴らす
ドレスコーズの2ndアルバム『バンド・デシネ』の世界
志磨遼平(vo)インタビュー&動画コメント
(2/2)
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このバンドは空中分解するか
奇跡的な反応が起こって誰も聴いたことのない音楽が出来上がるかのどっちか
――ちなみに志磨遼平少年とヒロトさんの一番最初の出会いはいつ頃だったんですか?
「14歳。中学2~3年生の頃ですね。ちょうどブルーハーツが解散してハイロウズが結成された年やったと思うんです。自我が芽生えた人じゃないと、ああいう音楽には反応出来ないじゃないですか(笑)。だから小学生ではあの音楽は分かんないですよね。僕も中2、中3でやっと分かって、“うわ! 他と全然違う”って、そこでまたしても神の啓示を受けて(笑)。もう僕にとっての神様が多過ぎて、しょっちゅう啓示を受けるから多神教です(笑)。ハイロウズを観に行ったのが、生まれて初めてのライブでしたね」
――そうだったんですね。
「よく海外のミュージシャンが“クラッシュを聴いて人生が変わった”とか言うのを見ますけど、僕らにはブルーハーツがいるから。イギリスの男の子がクラッシュを聴いて“うわーっ”てなるように、僕らはブルーハーツで同じ経験が出来る幸せがあるんですよ。だって彼らはそれまでに知っていたどんな音楽とも全然違ってましたし、存在そのものが衝撃やった。テレビで“ライブのチケットが売れてないから買ってくれ”なんて言った人、それまでいなかったですよね? カッコいいものとカッコ悪いものを天秤に掛けたら、みんなカッコいい方に行くじゃないですか。怖いから。ブルーハーツはそうじゃなかった」
――その精神性は『ゴッホ』の“右か左か 選ぶ時がおとずれたら めんどうになりそうな方に進め ベイビー”に継承されているんでしょうか?(笑) 『ゴッホ』も今まで聴いたことないような曲ですが。
「この曲を作れてよかったです。『ゴッホ』はアルバムが一旦出来上がった後に、一番最後に付け足した曲で。元々はなかったんですよ」
――えー! 『ゴッホ』があるのとないのでは、アルバムの印象が全く違うと思いますが。
「そうですよね。これはディレクターに感謝なんですけど、『ゴッホ』に限らず今回はその人にブーブー言われながら書いて(笑)。毛皮のマリーズの頃からの付き合いなんですけど、“お前のマスターベーションに付き合う気はない!”ってわざわざスタジオまで言いに来たり、出来たばかりの新曲を聴かせたら“…弱い”とか言われたり(笑)、結構侃々諤々しながら作って。でも、ようやく出来上がっても、向こうもこっちも、何か“アルバム完成! 乾杯!”みたいな気分にならなくて。そしたら、“まだ…あと1週間やったら待てるで”って言われて、“…じゃあ曲作ります”って出来たのが『ゴッホ』です(笑)」
――制作過程は結構スポ根なんですね(笑)。
「今回は結構スポ根でやりましたね。毛皮のマリーズのときは1人でワーッとやっていて、ヘンな言い方ですけど、1人やとラクなんですよね。そういうのも好きやけど、“これは無理でしょ?”みたいな難題をクリアするのも、すごい好きなんです。“明日までにもう1曲書ける?”“楽勝っす~”とかやるのがすごい好き(笑)。“楽勝”って言ってしまうと本当に楽勝なもんですよ。『ゴッホ』は久しぶりにそういう感じで作りましたね。でも、今はメンバーみんなで作ってるから、そこが難しかった。やっぱりね、ちゃんとみんなで悩むと、時間はかかりますね」
――歌詞の世界などは今までで一番っていうぐらい志磨さんをダイレクトに感じるのに、作品はすごくバンドっぽい、ドレスコーズの音楽になっていますよね。
「それも経験則の1つですね。去年ぐらいは、自分のことを歌わない=4人を活かすことって単純に思ってましたから。パーソナルな言葉を使わず、ドレスコーズに一番相応しい言葉は何だろうっていう書き方をしてました。だから“コンビニでケーキも買おうよ”なんてフレーズは絶対に出てこなかったし、必要じゃないとも思ってたけど、さっきのディレクターの存在や自分の直感もそうなんですけど、もっと“本当のこと”を書けと。それは自分の中にしかないわけで、そうすると言葉はどんどんパーソナルになっていく。でも、結果それがバンドっぽく聴こえてるなら、すごく嬉しいです。僕も最初は書きながら怖かったですから。客観視出来ないというか、“これは自分のための音楽になってないかな?”って。多分メンバーも似たようなことを感じてたと思うんですけど、だんだんアルバムを客観的に聴けるようになってきて、取材のときとかに褒められると“頑張ってよかったねー”とか、お互い言ってます(笑)」
――そもそもドレスコーズの4人はどんな出会いから始まったんでしたっけ?
「僕がそれぞれをナンパしたんですよ(笑)。丸山康太(g)は僕が23~24歳ぐらいの頃から知ってて、10年近い付き合いで。彼は見た目もプレイもどのギタリストよりもズバ抜けて特別だったんですね。山中治雄(b)は、彼がQomolangma Tomatoっていうバンドにいたときに毛皮のマリーズと一緒にツアーも行っていて。菅(大智)(ds)さんは3人の中では一番僕と出身コミュニティが近くて、あんなドラマーはそれまでテレビでしか見たことなかったですね。それこそザ・フーとかの古いロックのビデオで観るようなドラマーで」
――他の3人は初対面だったんですよね。最初はお互い探り探りな感じだったんですか?
「そうでしたね。普通に考えて絶対にまとまるはずがないと思っていたし、僕は3人を知ってるけど、みんなはそれまで全然違うことをやってきた人たちだったから、このバンドは空中分解するか、奇跡的な反応が起こって誰も聴いたことのない音楽が出来上がるかのどっちかやなって」
ロックンロールをやってると、めっちゃいい人になるんです!
――探り探りの時期ではあったと思いますが、今回のアルバムを聴いて、ロックンロールは破天荒でもあり、夢のある音楽なんだなと改めて思いました。
「いや本当にロックンロールは完璧ですね。最高ですね。よくこのメンバーを集めたなぁって、自分の勘は間違ってなかったって、自分を褒めますね」
――前にキース・リチャーズが“自分がやっている音楽なんて、チャック・ベリーやバディ・ホリーがとうの昔にやっていたことなんだ”と語っているのを読んだことがありますが、ストーンズを通してR&Bやブルースを知るように、このアルバムを聴いてフレッド・アステアの映画や少年マンガを知ったり、『月と6ペンス』を読んでみようかなと思う人もいるでしょうね。
「多分ですけど、ブルースからずっと続いているものって、伝統芸能みたいなものだと思うんですよね。自分もそうでありたいと思うところもあるから、あんまり間違ったことが出来ないというか。しょーもない本の一節とか入れてもうたらあかんなって(笑)。いい本を読んで、いい映画を観て」
――そうすると、めちゃめちゃいい人になりますね。
「そうなんですよ! それが真理なんですよ! ロックンロールをやってると、めっちゃいい人になるんです!」
――逆説のような正論のような(笑)。ロックンロールは“不良の音楽”と言われていたのに。
「そうなんですよねぇ。美輪明宏さんがよく言われる、“美しいものに囲まれていなさい”に通じると思うんです。“キレイな音楽を流して、キレイなものを飾って、キレイな服を着て、いい本といい映画に囲まれて育っていたら、絶対に間違うことはない”。それは、男の子からしたら本当にカッコいいものを探す旅であり、探求心でもあるんですよ」
――なるほど。ツアーのセミファイナルとなる12月3日(火)の梅田AKASOで、最高にカッコいいロックンロールが鳴り響くのを楽しみにしています。
「お約束します。ロックンロールは無敵で、最高で、完璧で、間違ってない。そのままのステージをやるだけです」
Text by 梶原有紀子
(2013年12月 2日更新)
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