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自分のイメージがない。そうすると、自分がどんどん変わっていく
――アコースティックライブの表現もしかりですけど、肉感的というか、生の部分が今までで一番見え隠れするというか、“ラブソング”であることがイコール“歌”でもあるというか。歌の領域がデカい。
シゲ「『デート』(M-3)はインストにも出来るノリだったけど、歌メロは絶対に付けた方がいいって言った気がする。今回は聴いた人が歌えるような楽曲にした方がいいなと。縛り好きの俺からしたらそういうノリはありますね」
――アコースティックライブのボーカルを聴いて、この人は王道にもいける人なんだって思ったんですよね。
三浦「正確には“いけるようになった”っていう話だと思いますね。前まではいけなかったと思いますよ。それは技術的にもそうだし、歌に対するメンタルもそうだったと思うし」
――それは積み重ねてきたキャリアっていうことですかね。
三浦「カッコよく言えばそうかもしれないですけど。まぁでもそうですね」
シゲ「ニヤニヤしながら言ったけど(笑)」
三浦「流れ流れてこうなったっていう話で。単純にそうなれてたって思ってもらえたんだったらすごい嬉しいっていうのが、一番正直な気持ちで。自分でもよく分からないから」
――やっぱり音楽家として積み重ねてきたものが、作品には出るんだなと思いますね。
シゲ「そうなのかもしれない。特に三浦さんはミュージシャンとしてというよりも、音楽劇の演出とか、そういう他のところでやってきたことで変わってきたと思いますね」
――演劇の演出や音楽って、そもそも何がきっかけでやったんですか?
三浦「結局それも人に頼まれてなんですよ。岸田國士戯曲賞を受賞した『わが星』っていう作品があるんですけど、元々□□□が好きだった劇作家とか制作の子と知り合って飲んだりしている内に、今度新作劇をやるから音楽をやってくれと言われて。最初は普通にテーマ曲を作るくらいの話だったんですけどそれだと面白くないから、せっかくなら構造的にも音楽と切り離し難いものにしようって。そのときに制作中だった『00:00:00』(『everyday is a symphony』収録)を分解したパーツだけを渡して組み上げてって、そこから出来た劇が賞を取ったり評価があったりしたから、舞台系のイベントにも呼ばれるようになったり。アート系のインスタレーションだったり、ダンスや演劇だったりのフェスで『吾妻橋ダンスクロッシング』っていうのがあるんですけど、それに出たとき最初に作ったのが、『CD』に入ってる『スカイツリー』で。2年目のときに『スカイツリー』をテーマに合唱団をやろうって出来たのがスカイツリー合唱団で、それが『マンパワー』に入ってたり。『わが星』のツアーで地方を廻ったときにワークショップをやって、『00:00:00』のトラックで素人に3日間でラップ作らせるのがあって、4ヵ所で100人以上のラップを録って、それをエディットして作ったのが『マンパワー』に入ってる『いつかどこかで』だったり」
――連鎖してますね。それって当時はやったことないことだったわけじゃないですか。以降、自分の音楽にどう返ってきましたか?
三浦「さっきシゲが、サポートによってすごく関わる場合もあるし、あえて淡々と言われたことをやるときもあるのと一緒で、時には立場を超えて、俺の仕事はここまでって線引きはしないわけじゃないですか。僕もとりあえず音楽家として呼ばれてはいるけど、基本的に線引きはしないというか、出来ないんですね。あんまり自分とはこういう者だと思ってないから、自分のイメージがない。そうすると、自分がどんどん変わっていくわけです。俺って“これ嫌いだな”って思うことがあると、何で嫌いなんだろう、本当に嫌いなのかなって考えてみるんですよ。そうなるとだいたい好きになるんです(笑)。ライブとかでもよくあるんですけど、すげぇ気持ちがノッていい演奏だったな~っていうときにお客さんに聞いたら“まぁ、よかったよ”くらいで、今日最悪だったなっていうときに“めっちゃよかった!”って言われることもあるわけで。まぁ因果関係ってそんなもんだから」
――自分がないことで、自分が作り上げられていく。それがあったら、もしかしたらやらなかったことがいっぱいあったかもしれないですね。
三浦「固まっちゃうと停滞しちゃうと思うんですよ。カッコイイことでも何でもなくて、飽きっぽいっていうのはあるかもしれないんだけど」
シゲ「要は互いに自然だと思うことをやってるだけで。街を歩いてて、“この辺に美味しいご飯屋さんあります?”って聞くか聞かないのかは、人の自然さじゃないですか。サポートの言うか言わないかも自然になんですよ。せいこうさんも、もちろん芸能人っていう意味で型に入るところはあるだろうけど、それに対して俺とか三浦さんもあんまり何も考えてないというか。そういうところが□□□として活動しているときには作用している気がしますね」
――□□□は再三メンバーが脱退して、途中三浦くんだけになって、でもこの3人体制になってから、三角形がピタッとハマッているというか。出会うべくして出会った感じがしますよね。
シゲ「不思議な関係性ではあるかもしれないですね。それぞれの距離感とかは違うんだけど、俺は積み重ねないとダメなタイプだし、その度合いが三浦さんの場合はもうちょっと薄くても大丈夫だし、せいこうさんはさらに薄くても現場でやれちゃう人だし。『JAPANESE COUPLE』に関して言えば、今回は三浦さんがほとんど1人でやってるみたいなノリがあるし、俺はそれを演奏会で表現することに重きを置いてブッキングとかもしてるから。それぞれ3人の関係性で1つの『JAPANESE COUPLE』を表現しようとしているのかもしれないですね」
――あと、他のインタビューを読んでて思ったことが、三浦くんがいつも“僕は元々主婦料理だ”って言うその感覚は何なのかなと思って。
三浦「単純に機材に全然興味がなくて、サンプリングでレコードとかもそんなに買い足さないし、あるものでやる。『TONIGHT』(『TONIGHT』(‘08)収録)のストリングスは、『00:00:00』で使い回してますからね。あと聴いてると分かるけど、コード進行とかも全然変えないんですよ。ちょっと理論的になるけど、結局なんとでも当てはまるわけです。作曲家ってそこのバリエーションをつけるのが大事なんで、結構身も蓋もない話なんだけど。でも別に全部似てるとは感じないと思うんです。でもだいたい一緒なんです(笑)。そういう意味で主婦料理感があるっていう」
シゲ「実際に料理も本当に上手いんですよ」
――料理するイメージないですね。
三浦「めっちゃ料理好きですよ。片付けが超苦手なんですけど」
シゲ「俺、片付け好きかも」
三浦「□□□でも割とそういう感じはある。せいこうさんが“うまいね!”とか言って(笑)」
シゲ「“うまい!”っていう言い方が上手い(笑)。そこの言い回しが上手い」
――やる気にさせる“うまい!”なんですね。
シゲ「本当そうなんです。“この生姜がいい!”って(笑)」
――飯作る人、片付ける人、食う人がちゃんといるんですね。
三浦「制作に基本的に関わってないからね(笑)」
シゲ「評論家として素晴らしいから、いい言い回しをするわけですよ。多くに響くような言い方が出来るんですよね、せいこうさんは」
三浦「実際、よくこんなに真逆のことを考えるなって思うんですよね。僕の意図とは違うところにばっかり食い付く。ただ、本当に分かってくれる人とは一緒にやれないと思うし、やりたくないですね。何でそんな解釈になるんだろう?とか思うときもあるんだけど、それが普通の感覚っていうことなんだなって。世の中的には全然そうじゃないと思うんだけど、普通を分かっているから、カッコつけたがれるというか」
シゲ「もはや誰しも普通じゃないということですよね」
三浦「どんな普通に見えるヤツもね。もう人間賛歌みたいなことにしといてください(笑)」
シゲ「ハハハハハ!(笑)」
ファンタジーを持ってたいんだろうね、自分に対して
――アルバムのラストを飾る『ふたりは恋人』(M-9)は、YouTubeにアップされた“仕込みiPhone”で話題を集めた森翔太さんがPV手掛けたということですけど、これはどういう接点で?
三浦「俺も知らなかった。みんな知らなかった」
シゲ「知らなかったけど、YouTubeで事前に見たことがあったんです。関わってるチームがその人に振るってどう?って言うので、全然面白いんじゃないですかって。実際本人に会ったのはPVが出来てからですね」
三浦「音楽には音楽の文脈があるじゃないですか。このエレクトロ感が逆に一歩遅くてダサいとか、そういうのってある程度音楽を聴いてる人の中では分かるけど、僕らが映像の文脈が分かるかって言ったらそんなに分からないわけでしょ。だとしたらプロの人に任せるのがいいかなと思ってるところはありますけどね」
――それで作品がこういうものになるんだなって。面白いですね。
三浦「同時に最大の弱点ですけどね(笑)」
シゲ「ハハハハハ!(笑)」
三浦「情熱を持ってやることが正解っていうルールもないし、かと言って自分の知らないところに情熱があるかもしれないし。ファンタジーを持ってたいんだろうね、自分に対して。あまり自分を知りたくないけど、自分のことは考えないから分かんないっていうのも子供だし、一応考えた上で、結局音楽って言語化出来ないところが一番いいから。説明出来ちゃうことをやってたら多分辞めてると思うんです。だからこそ作るのが苦しいんですけどね。そら締切も延びるわ(笑)。そういう説明出来ないけどこうな気がする。でも、それは今の自分にとって何でこうなるのかはよく分からない、っていうところにいかないと続けられない気がする」
シゲ「それが人によっては熱意なんだと思いますね。あと、型がない方に魅力を感じているんだと思います」
三浦「型がないことを表現するのに、型が大事っていう。今回のアコースティックライブなんて、弾き語りっていう形式の型があるわけだから、そこは逸脱しないじゃないですか。すごいアバンギャルドとかじゃなくて」
シゲ「俺がチャリンコこいでるだけのライブっていうのもあるかもしれないからね(笑)」
三浦「そういう界隈も本当にありますから。僕は20代前半そういうところでやってたから、むしろそっちの方が親しみがあるんですけど、それだと結局友達の友達しか来ない。そういう文脈でそういうのがヤバいって言いたいヤツだけに届いても、結局面白くないじゃないですか。だから普通の歌を歌おうと思ったんです。ただ、僕の中ではどっちもそんなに遠くなくて、ただアウトプットが違うだけで」
シゲ「あと人間が出来ることってたいしてないから。チャリンコこいだとしても、普通に弾き語ったとしても、出来ることは五体を動かすことくらいで」
三浦「1人の人間が出来ることの限界を知っている人こそが、寂しがり屋である。その限界を知っているからこそ、ライブをやる。シゲは寂しがり屋の定義として、普段から自称しているので」
シゲ「ガラスa.k.a村田シゲ(笑)」
――アハハハハ!(笑) だからみんなと何かをやることに可能性を見出し。
三浦「だからこそ、当たり前に起こるアンコールに失望したわけですよ(笑)」
シゲ「ハハハハハ!(笑)」
――全部つながった(笑)。
三浦「せっかく1人の人間では出来ないことをやろうとしてるのに、大勢集まってこれかって(笑)」
つながりの中での合わせ技一本っていうことで、それがまた美しいかなと
――そして今作に伴う東阪ワンマンもありますが、大阪ワンマンは超久々?
三浦「5年ぶりですよ。前回の梅田Shangri-Laでやって以来」
――マイペース過ぎるやろ(笑)。
シゲ「いろんな事情があって(笑)」
――でも今回はやろうとなったのも1つね。
シゲ「例えば4年前だったら出来たかというと違うし、やるとしたらまた形も違ったと思うし。今回は□□□を気にかけてくれる人がいるとか、そういう人のつながりもデカかったと思います。」
三浦「合わせ技一本じゃない? 『わが星』をやったつながりで、2年越しくらいで三重でライブすることが決まってたんですけど、せっかく三重まで来るんだったら大阪もそのノリで行けたらいいんじゃね? バンドでせっかく行くんだからって。例えばシゲの五味くんとかDAWAさんとかTORAちゃんとかっていうつながりの中での合わせ技一本っていうことで、それがまた美しいかなと。さっきの舞台とパンクの交差点じゃないけど」
シゲ「悪ノリ交差点(笑)」
――ライブがどうなるかが楽しみですね。アンコールはあるのかなとか(笑)。
シゲ「ハハハハハ!(笑)」
三浦「アンコールは見モノですね(笑)」
シゲ「本当そうだね(笑)」
――心からのそれなら、俺はやってもいいと思うけどね(笑)。本日はありがとうございました!
三浦&シゲ「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史