“自分がないから出来ること”。作品ごとに漂流する口ロロ(クチロロ)
がたどり着いたのは、まさかのポップスの王道“ラブソング”!
『JAPANESE COUPLE』にまつわるetcから口ロロの血を読み解く
三浦康嗣&村田シゲインタビュー&動画コメント
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AEON、UNIQLO、SAMSUNG など数多くのTV-CM を手掛け、HALCALI、MEG、野宮真貴などの楽曲プロデュースや、演劇界の芥川賞と称される岸田戯曲賞を受賞した柴幸男演出の舞台『わが星』の音楽を担当。昨年は柴、白神ももこらと共同演出/音楽を手掛けた音楽劇『ファンファーレ』を開催するなど、マルチな才能で活躍の場を広げている三浦康嗣。Cubismo Grafico Five のメンバーでもありLOW IQ 01、NONA REEVES など様々なアーティストのサポートなどで活躍中のベーシスト、村田シゲ。作家、タレント、また日本のHIP HOP のオリジネイターでもあるいとうせいこう。独自のポップセンスとバランス感覚で、刺激的かつクリエイティブなプロダクツを世に提供し続ける□□□(クチロロ)が、前作『マンパワー』から1年ぶりとなる9thアルバム、『JAPANESE COUPLE』をリリースした。今作は、全編三浦康嗣のボーカルで挑んだ(9枚目にして初!)、□□□流の珠玉のラブソング集。ポップスにおけるラブソングはもはや王道のフォーマットであり、何ら取り沙汰される話題でもないが、□□□のそれとなれば話は別だ。毎度クリエイティブかつオリジナルな作品でリスナーに衝撃と幸福を与えて続ける3人が、ド真ん中の素材をどう料理したのか!? 今作に伴うプレ・アコースティックツアーで大阪に訪れた三浦康嗣&村田シゲに、『JAPANESE COUPLE』へと向かうに至ったエトセトラを問うたインタビューは自ずと、□□□の根底に流れる血=現在進行形のアティチュードを触れることとなった。いや~やはりこの人たち、一筋縄ではいきません!
三浦康嗣と村田シゲよりグッドヴァイブな動画コメントが到着!
――今回はリリース後にまずは何本かアコースティックで廻って。やってみた感じはどうですか?
三浦「基本的にアコースティックでライブをすることが、今まではそんなになかったんですね。音源もアコースティックな曲ってそんなになくて。基本的に僕はDJから始まっている部分があるから何とも言えない部分もあるけど、やるならその環境でいい歌をというか、普通の歌モノとして届けなきゃいけない。普段曲を作るときって、プログラミングもエディットも自分でやってるけど、99%クリックを使うわけで時間軸が固定されるわけじゃないですか。それを出来るだけ揺らすというか。例えばドラムがいるなら、小さく歌うと埋もれちゃってただ聴こえない。でもこういう編成だと、それはニュアンスとして届くから。せっかくだから、出来るだけ今までなかったようなタイム感とかメリハリで、楽しんでチャレンジしてるんです。歌の人っていう自分のイメージはなかったけど、ないイメージをやることの方が好きなので」
シゲ「遡って言えば、前々作の『CD』(‘11)を出した後に、音源自体は音も詰め詰めだし生で再現出来るようなものじゃないから、今度くらいは生でいこうよっていう話が、制作を踏まえた上で話には出ていたと。(いとう)せいこうさんはそんなに稼働出来るわけじゃないから、2人で小ちゃいところに車とかでいっぱい廻ろうって。三浦さんは俺ほどツアーとかをやってるわけじゃないし、やったことのないことに関して興味を持つタイプなんで」
三浦「バンドマン的な発想が僕には全然ないからね。バンドマンだったら、1台の車でいろんな地方を転々と廻ってライブして、地元に客をつけてのし上がっていく物語があるじゃないですか? そういう物語が全くないからこそ、敢えてやってみたらっていう提案だったと思うんですよ。シゲはサポートを結構やってるし、そこにはパンク寄りな価値観を持ってるグループもあったりするからね」
シゲ「俺もそういう意味ではのし上がった経験はあんまないんですけど(笑)、ライブっていうものに関して俺の方がポジティブな要因を持ってる。ただ、そうは言っても『CD』を出した当時は震災で全部おじゃんになっちゃったんです。でも、元々生でやりたいっていう話はあったし、その間に三浦さんは三浦さんで合唱団をあるイベントで作り出したりしてたから、そういうのを全部踏まえた上での前作『マンパワー』(‘12)で。『マンパワー』もリリースパーティーをする予定は正直なかったけど、当時お互いに関わり出してた坂本美雨ちゃんのイベントに出てって言われてやったら、そのときのライブ制作の人が、すごくいいからやった方がいいよって。そういう積年の想いがありながら、タイミング的にも今回は2人でも稼働出来るんだったらやってみようって」
――さっきの発言で“歌の人”と言ってましたけど、確かにそういう目で三浦くんを見ないというか、“ボーカリスト”的なイメージはそこまでなかったけど、今日のライブを観たときに、この人はやっぱり歌い手なんだって。
三浦「そういう風になろうとは思うというか、どうせこの形態でやるんだったら、そうならないと面白くないというか。バンドだったり打ち込みだったり、どっちもそのルールでやりたいわけですよ。基本的に打ち込みの人ってクリックっぽいというかグルーヴ重視だから、常に一定の声量、一定の音量でやらなきゃいけなくて、崩してメリハリで歌うっていうのがないんです。それはもう音楽のフォーマットが歌い方にそれを要請してる。クラブミュージックがアコースティックやってみましたってところで、生のメリハリみたいなものが出ないのは頭で分かるから。ただ、頭で分かるのと実際に出来るのとは別じゃないですか。そういうところを自分なりに面白味として追求してる。つまりは、そういう風に聴いてくれたんだ、すごく嬉しいっていうことなんですけど(笑)」
――歌い手としての魅力がちゃんとあると分かるライブ。いろいろあったけど(笑)。
※この日はライブの最後に当たり前に巻き起こったアンコールに対し、その是非をシゲが観客に問い正し会場がすごい空気に(笑)。
シゲ「ハハハ!(笑)」
三浦「ありましたね~(笑)。いろいろ間違えたしね」
――『JAPANESE COUPLE』という作品の表現の仕方としてフィットしているというか、この形態でやることに合点がいった感じがしました。どんどんフィジカルになっていってる。□□□ってすごくクリエイティブでいろんな表現の幅があるけど、核となる歌の強さがより見え隠れするアルバムだなと。アルバムの資料にも、“全曲三浦のボーカルにより”って謳ってるっていう。
シゲ「それを紙資料で謳うっていう時点でね(笑)」
――ボーカルが全曲歌うことが珍しいグループってどんなグループだよって(笑)。
三浦「9枚目にしてボーカルが全曲歌うって、何なんだよって話ですよね、よく考えたら(笑)」
他ではスタートのところでノーって言われることが
□□□ではイエスである現状が多いわけですよ
それはすごく面白いし、その面白さはいろんなところで伝えたい
――今作において全曲歌うことになったのには何かあります?
三浦「歌モノのアルバムをやりたいなっていうのは、『everyday is a symphony』(‘09)の後からもうあって。『everyday is a symphony』って街の音とか自然の音をフィールド・レコーディングして、それをエディットしてコラージュっぽくしたアルバムだから、普通のポップスをやりたいなと思ったけど、結果まぁ」
シゲ「その後『CD』と『マンパワー』出してるから、時間かかったね(笑)。『CD』なんて、お前あのデモ持ってきといて何が普通の歌を歌いたいだ!って話だよね(笑)。『あたらしいたましい』(『CD』収録)作っといてな(笑)」
――あの歌、完全にボーカルを解体して素材として使ってるしね(笑)。じゃあ発想のスタートは結構前にあったと。
三浦「ずっとあったんだと思うんです。『everyday is a symphony』の前の『TONIGHT』(‘08)もよく分かんないアルバムで、ストレートなポップスでもないと思うし。だからそういうのをやりたいし、やるべきだなって思ってたんだと思うんです。と言いつつ、間にあんなアルバムを作ってたから(笑)。『everyday is a symphony』前後から今までのアルバムまでっていうのは、去年舞台の演出&音楽をやってたのが象徴的なように、□□□のライブでも演出みたいなことをやってたり、割と真逆なんですよね。舞台って、よりコンセプチュアルなものだから」
――シナリオや進行のきっかけがあったりとかね。
シゲ「繊細なものだよね。パンクはその瞬間、もしかしたら1分輝いた時間がライブの8割ぐらいの印象にくれば、それはすごい成功のライブだったりする。それが演劇ではなかなか。ちゃんと平均点を重ねていかないと」
三浦「パンクの人ってオフステージとか生き様込みだけど、舞台の人って何度も観てる役者でも、“あ、あの舞台であの役をやってた役者さんだ”とは見ない約束事があるじゃないですか。それが逆に面白いところだと思うんですけど。音楽家ってどうしても連続性で見られるから、この間ああいうアルバムを出して、今回こういうアルバムを出して、今のシーンはっていうインタビューがあって、興味のある人がインタビューを読んで、そういう意図なんだって聴きにくる。それがウザいってのが結構昔からあって(笑)。作品ごとに、別人として見てくれるくらいでいいんです。そういう意味で無理やりつなげると(笑)、今回の一連のアコースティックライブっていうのは、本当に俺のソウルが歌い手としてあるかどうかもあるとは思うんですけど、どこか役者みたいな感覚で自分を捉えて、俯瞰してる部分もあるのかなと。そこでパンクっぽさと舞台っぽさが交差するというか」
シゲ「要は三浦さんは、プロデューサーでいたいんです。だけど、代理のボーカルを連れてくるところまではやらないわけですよ。だって、三浦さんが“今後は□□□でこいつを歌わすわ”って言ったら、それになるじゃん」
三浦「なるなる。人が連れてくればそれでいい」
シゲ「だけどそれを自分ではやらない(笑)」
――以前のインタビューをググッて読んでたら、今のレーベルに移籍したときなんて、“出来るだけ歌いたくない”って言ってたのに、今回は全曲歌ってるわって(笑)。
三浦「そうなんですよね。自分の意思も尊重しないですから。歌いたくないからって歌わないのも違う、みたいな。もうよく分かんないですけど(笑)」
シゲ「どっちがいい悪いじゃないけど、多分俺らは俯瞰で考えがちではあるかもしれない」
三浦「割と引いちゃうんだよね」
――面白いのは2人のスタンスと関係性で。三浦くんは“音楽は人に頼まれるからやる”みたいな感覚がどこかあって、シゲはシゲで人と音楽が好きで、人から一緒に音楽をやろうと声を掛けられることの歓びを知っていて。ミュージシャンって、自分の音楽を世に届けることが核たるエネルギーになることが多いじゃないですか。でも2人は、外的要因によって自分の良さが出るというか。上記のことを踏まえると、シゲがずっとサポートミュージシャンだけをやり続けたり、三浦くんが作家だけをやっててもいいわけだけど、そんなヤツらが集まって、何の因果か自分の表現をやるから面白いと思って。
シゲ「三浦さんとかせいこうさんとやることで、他では出来ないことが、他ではスタートのところでノーって言われることが、□□□ではイエスである現状が多いわけですよ。それはすごく面白いし、その面白さはいろんなところで伝えたい。□□□でやってることって、やっぱり都会的で、ちょっとシニカルだなって思うけど、それをもうちょっと伝えられるだろうなとは思ってる」
自由って自由を意識しないことでしか成り立たない
――シゲはサポートするバンドと、メンバーになるバンドがあるじゃないですか。それは何かが違うんですよね。
シゲ「本当に人間の関係性というか。俺はサポートでも意見を言えるような関係性だったら言うし、言わないところは何も言わない。でも、そこで自分がイエスだと思った選択肢でも、ノーなことによって彼らの個性が生まれることってたくさんあると思うし。俺から見たらダサいなって思うことであったとしても、それが正解なジャンルであったり、バンドってすごくあると思う」
三浦「自分のダサいは誰かのカッコイイ、自分のカッコイイは誰かのダサいだからね」
シゲ「それは、サポートすることですごく感じた。例えば、こっち側で “すげぇヤバいよね!”って言ってる新譜が、あっち側では“ホントひどいよね”とかいう現場をすごい見るから。でも、そういうもんだよなって。ただ、自分の中でこうした方が面白いと思うことはサポートをする中で生まれてて。□□□ではそれを提案しやすいし」
三浦「割と自由に対してのハードコアさがあるんだろうなと。自由って自由を意識しないことでしか成り立たない。自由を目指すほど不自由なことってない。自由の概念に縛られるというか。俺はこうしたいっていうのが何もないですからね。逆にそういうのがある人は、“頼まれるから音楽やってる”なんて言えないと思うんですよ。“俺は自由に、自分の意思でやってる”って言っちゃうと、それが本当に自由なのかっていうと、逆な気がする。例えば、LOSTAGEの五味(岳久)くんとはあんまり話したことないけど、割とそういう自分のイメージがちゃんとあって、繊細な人だと思う。多分お互いにない部分があるから、仲良くなったのかもしれないよね」
シゲ「逆に言うと五味ちゃんは、三浦さんと真逆なところがあるからスムーズだなって思うことがすごいある(笑)。あとは、ものすごく素直だから。疑いがないから。中途半端じゃないから」
三浦「あと、ロックっぽい話をすると、在りし日の村田少年の何かが、五味くんの中にはあるんだよね。いずれにしても、マンパワーがあっても世間的な評価が全くないとどこかのアウトサイダーに見られるし、結局ある程度売れたからそいつはマンパワーがあるってことになるのもつまんねぇなって。個人的には超面白いけど、世間的には全く評価されていない人、個人的に全然好きじゃないけどすごい評価されている人。そういうものに対して、割と2人とも素直なんだと思う。いいって言わなきゃいけない空気があると、むしろ嫌だって言いたくなるし。毎回よく見ると、□□□のアルバムのスペシャルサンクスにはYOYOGI DEATH CULTUREって入ってるんですけど」
シゲ「俺の昔からの知り合いで、面白いけど完全に一般受けしない人がいるんですよ」
――ハハハハハ!(笑)
シゲ「チケットにもYOYOGI DEATH CULTUREのクレジット入れました(笑)。その会社名だけをどんどん(笑)」
三浦「別にその人を世の中に紹介したいっていうわけでもない。何か面白いから(笑)」
作家・三浦康嗣がたまたま歌手・三浦康嗣に歌わせてるっていう構図で
基本的にフィクションを書いているわけだから
フィクションだったらラブソングも書けるはずなんですよね
――それこそ『CD』が文字と言葉で、『マンパワー』は合唱でしょ、で、今回がラブソング。ラブソングって、めちゃくちゃ王道のお題であり、人によっては避ける。ラブソングなんて歌わねぇよみたいな。結構お題で喧々諤々となるテーマだと思うんですけど、そこに敢えて向かったのは何かあるんですか?
シゲ「何か分かんないけどタイトルは『JAPANESE COUPLE』でいきたいって言うから、それでいいじゃんって」
――曲を作る前に?
三浦「前ですね。タイトルはだいたい最後に付けるから、結構珍しいんですけど。タイトルが『JAPANESE COUPLE』だからラブソング。例えば『CD』だったら、デザインから音を作ってみるのを思い付いて、それでアルバム1枚やったら面白そうだなってやったんですけど。シゲはコンセプトでまとめることでメンバー、スタッフ、お客さんと共有するということを大事にしている人だから。そういうのもあって自然と今回はラブソング縛りにしたらいいんじゃないってなったような気がする」
――□□□のパブリックイメージからしたら、なかなか触らなさそうなお題のような気がするけどね。
シゲ「今までの流れだったらね。でも多分、普遍的なものというか、すごくありふれたものっていうことだと思う。今回の『JAPANESE COUPLE』に関してはね」
三浦「あとシゲさんがよく言ってるのが、どんな曲でも全曲ラブソングじゃんと」
シゲ「言ってしまえば、人に対する愛かどうかはさておき、愛憎でしかないというか。感情って多分それでしかないだろうって思っているところはありますね」
三浦「あと、感覚的に僕はシンガーソングライターっぽくなくて、作家・三浦康嗣がたまたま歌手・三浦康嗣に歌わせてるっていう構図で基本的にフィクションを書いているわけだから、フィクションだったらラブソングも書けるはずなんですよね。『moonlight lovers』(『everyday is a symphony』収録)は一応そういう曲なんですけど、作家としてそっち方面はそんなにやったことがないから、もうちょっとやってみていいんじゃないって。やったことのないことでしか、モチベーションは上がらないから」
――そこそこのキャリアでやったことがないことが、こんなに王道のことだったのかっていう(笑)。普通はそれをやってそこからだんだん外れていくのに、迂回し続けてそこにたどり着くみたいな。らしいなとも思うし。実際そのお題目にトライしてみてどうでした?
三浦「めっちゃぶっちゃけて言うと、締切との戦いでした。負けてますけどね、完全に」
シゲ「ハハハハハ!(笑) そうだね」
三浦「結局、夏休みの宿題みたいなことになってしまうので、どうしてもギリギリになっちゃう。ギリ超えちゃってる(笑)。あと主任(□□□のレーベル担当)は映像作家でもあるから、締切ギリギリの大変さが分かっちゃうのが」
――クリエイターの気持ちが痛いほど分かっちゃって、そこまで追い込むことが出来ない(笑)。
シゲ「でも主任は締切守りますよね?(笑) 結局リリースは2ヵ月延びてます」
三浦「全然自慢出来ることではないけど、1作以外は全部延期してますから(笑)」
――□□□って、何やかんや言って結構コンスタントにリリースしてますよね。
三浦「そうなんですよ。意外と年に1枚ペースで出しちゃってるんですよね」
シゲ「そういう仕事でしょ(笑)」
三浦「ここ3作くらい、年度末ギリギリに出てるっていうので察して欲しいですよね(笑)。僕はインプット/アウトプットっていう考え方が嫌いで。“今はインプットの時期だ”とか言うじゃないですか。そういう人のことが嫌いじゃなくて、そういう発想が嫌いなんです。それで面白い人もいるから全然いいし、インプットがあるからアルバムが出来るとも思ってないんですけど、毎回内容というか視点が全然違うんで、正直年1はキツいな~って思いますね(笑)」
――インプットいるんじゃねぇの?って話になる(笑)。
シゲ「ハハハハハ! 結果的にね(笑)」
(2013年8月23日更新)
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