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「俺が今38で約10年前の音源やから、28がやるにしてはすごくいい音楽やなと(笑)。年相応というよりはちょっと上の感じがある。20代後半のロックバンドがこういう音楽やってたら、信頼出来るなと思う」
――でも、当時から10年の時は流れてて、それを今の自分たちの作品として出すわけじゃないですか? 僕はやっぱり森山さんは音楽に関して神経質というか繊細な部分も持ってると思うんですよ。だから、それを今まんま出すって、結構な決断やと思ったんですけど。
「そうやな~でも実は録りとかはユルいねん。ただ、“今この時期にこのレコード出すのがカッコええか?”という意味での神経質さは誰よりもあると思う。あ、(Great3の)片寄さんとかもっとあるわ(笑)」
――逆にそれがあり過ぎても出せなくなるっていうね(笑)。
「そうそうそう。大滝(詠一)さんとか絶対出されへん(笑)。やっぱりずっと音楽ファンとして聴いてきて、“今こういうロックバンドがなぜこういうレコードを出すのか”っていう意義は、すごく重視してるから。今回はいろんな要素が相まったし、今録ったものではないのが、自分を守ってくれる要素になるというか」
――森山さんが感じた今出す意義って何やったんですか?
「まぁ松崎くん怖かったっていう(笑)」
――アハハハハ!(爆笑)
「あと、この頃から俺がお仕事としてプロデュースワークをすごくやれたので、どこかで客観性みたいなものがやっぱり芽生えたんやと思う。アーティスト自身のこだわりなんて知れてるのを感覚的には分かっていても、いざ自分の作品になったら出来へんかったのが、そうやってやってきたプロデュースワークのおかげで、その地点にも立てたというか、その意図にすごく合ってたわけ。当時作ってた意識がちゃんと蘇ってくるし、『writer』(M-1)とかは初期
バーズやもん。バーズのハーモニーと12弦ギターをやりたくて。だからこの後、俺がカントリーに行くのが分かる」
――もうまさにそれですよね。このアルバムは『writer』から始まるじゃないですか。この曲は10年前に録ったはずやのに、今の森山さんと地続きでめちゃくちゃ違和感がなくて。コレがまず意外でしたもん。もう当時のこの曲に、今の森山さんに通じる道があるやんって。
「そうやんな~。この頃はアメリカ人がブリティッシュロックに憧れた感じをやりたくて、いろいろ試してた時期やと思うねんな。歌詞は完全に筒井(康隆)さんが断筆宣言した日をイメージして書いたから(笑)」
――まずこの1曲目を聴いたとき、これはもうタイムラグがあって然るべきやのに全然ないわと思って。
「ホンマ~ありがとう。多分ね、松崎くんの聴かせ方もうまくて。あの人は俺と一緒にカントリーの世界に飛び込んで、いろんな音楽聴いたりいろんなミュージシャンと仲良くなっていく中で、“森くんにコレ聴かせたら、今回作る意味、分かってくれるやろ?”みたいなところがどこかにあったと思うよ。選曲会議の一番最初に、この曲をちゃんとしたオーディオ環境で大音量で聴かせてきたから。ほんならやっぱり良かった。曲の存在全然忘れてたのにね(笑)」
――このアルバムってやっぱり独特のムードがありますよね。レアトラック集の側面がまずあるんですけど、世に出ることをある意味想定してなかったからこその自由さがあるというか。実験的やしね。
「そうなんよ。俺
イナフ・ズナフが大好きで学生時代にコピーしててんけど、昔オセロケッツで2回前座やらしてもらって。ずっと憧れやったドニー・ヴィー(vo)が俺に、“コレどうやってる?”ってモニターバランス聞いてきおったから、教えたったところで1回師匠を抜くシーンがあって(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「音楽もすっごい褒められたし、ラジオにも出てくれて。そこでいよいよ、今まではチョイ出しやったけど俺がもう完全に意識した曲書くからって(笑)。それが2曲目の『groovin’ groovin’』で…コレめっちゃ覚えてるわ~」
――師匠から免罪符頂いたんで、もうガッツリいかせて頂きますよと(笑)。
「もう愛があるから、あいつらのアルバム5枚分ぐらいを1曲にしました(笑)。あとね、今回は俺が歌ってない曲が結構ある。それが面白い」
――このアルバムって、曲を書いた人が歌うみたいなムードがかなりありますもんね。でもその感じってミニアルバムの『いいわけ』(‘04)からですよね?
「そうやねん。だからそれにつながるところやったと思うねんけど」
――今の森山さんなら分かるんですよ。でもコレって、もう10年前に委ねることを始めてるわけじゃないですか?
「ほんまやな~何やろな。ちょうどソロ活動もして、やっぱりバンドでしょみたいな意識に戻ったというか。だってソロも、“次バンドのレコード出さしたるから1枚やれ”って言われてやってんもん。ソニー嘘つきやん(笑)」
――その後ソニーではバンドも出してないしソロも出てない(笑)。
「ソロは『ドンマイ~Look on the ☆Brightside☆~』('02)っていうシングル1枚だけで終わったから。コレ結構ええで。サザンとかやってる藤井丈司プロデュースやで。その当時ディレクターやった人は今もソニーに残ってて仲良くしてんねんけど、当時異動があったからな~」
――その人がおったら出せたと思うけど、次の人に愛着がなかったら…思い入れだけで予算取ってるパターンは、いきなりナシになりますからね。続いての『ベルベット』(M-3)ですが、これは作詞:中井×作曲:松崎コンビです。
「まっさんって結構メロディーメーカーで、The Ma’amでも重要な曲書くから」
――この辺りから松崎さん、丸山さんとメンバーボーカルが続くんで、初めてこのアルバムを聴いたときはちょっと不安なります(笑)。もしかしてこの感じでみんなが歌って、森山ボーカル少ないの?って。
「でもそれはまぁ、中期ビートルズ感や(笑)」
――『ベルベット』『音とび』(M-4)は松崎曲で、『ベルベット』では松崎さんがボーカルもやってるわけじゃないですか。それは森山さん的に聴いてみてどうです?
「めっちゃええなと思ったよ。なんかね、松崎さん特有のオシャレ感あるから。俺が知らん間に代官山に行ってんねやろな~みたいな(笑)。でもね、いち早く音響とかに興味を示したのはまっさんやったから、その感じが出てるなって。音像を捉えてるから。俺はやっぱり言葉とメロディにいってしまうから、それは面白い」
――森山曲の割合がこのアルバムでは少ないのかと思いきや、『You』(M-5)はこれまた名ラブソングじゃないですか。しかもこんなに素直な曲ってあったかなって。
「コレはね~当時の結婚式で1曲歌わされんのが多過ぎたんやな(笑)。それやのにそんときに歌うべき曲が全くない。ほとんどが風俗に行って気持ちよかったっていう内容の曲やから(笑)。この頃はもう意地でも書かんというよりは、頭も柔らかなってたんやろな~。この後も大事な結婚式で何回か歌うことになんねんけど、もうこれしかない。でもこれは『Pain』もそうなんやけど、バラードをものすごく作らないといけなかった時期があって…」
――ロックバンドが売れるにはバラードしかないっていうやつですね。
「そうやねん、悲しいやん。でも俺そういうのはLAメタルで知ってるから、全然平気やってんけど(笑)。そんときにもう洋邦問わずバラードを死ぬほど聴いて、缶ヅメ状態でいっぱい作ったな~。この曲はその中のメロディの1つで。あの辺の曲には思い入れあるわ」
――この詞の素直さと優しさはすごいなと。やっぱりシニカルでウィットに富んだ部分が、森山さんの1つの特性じゃないですか。だからこそ、この素直な愛は何なんっていう。
「ホンマやな…いや~でも思い出してきた! 俺、そのときジョージ・ハリスンが大好きでさ。『You』って曲があって、もう歌詞とかダラけ過ぎて小学校2年みたいな内容やねん(笑)。ジョージって自分にプレッシャーかかったことないから、もう声ガラガラやのにレコードにしてたりして(笑)。そういうのをすごく聴いてた時期やから、“もう何? 考えんとこ”みたいなムーブメントのときやと思う(笑)。だから素直やったんやろうね」
――バラード大量生産時代だからこそ生まれた、逆に素直な1曲。コレ、素朴でいい曲やなぁ。
「マジか~? もうどうしよう。ありがとうございます」
――こんなに素直な森山さんを、オセロケッツにおいて見られるのは貴重やなと。それはこのアルバムの1つの良さですよね。やっぱり…。
「練ってないっていうね(笑)」
――練ってないからこそ入れちゃえる。レアトラック集的要素があるからアリみたいなところで、僕らが知る由もなかったオセロケッツの隠れた引き出しが見られた部分が、今作ではいっぱいあると思います。
納期があることによって、世に出たレコードっていっぱいあると思う
だからそういう意味では、正しい選択やと
――続く『Egg』(M-5)辺りからね、ちょっとアホ地帯に入ってきますけど(笑)。『You』を聴かされた後の、“たまごまごまご”という詞はやっぱ強烈ですよね(笑)。しかもこの歌詞が、多分ツイッターでつぶやけてしまう量(笑)。
「やる気なしやな~。最後に“やっぱ調子悪い”って書いてるもん(笑)」
――すごくデモ感ありますよね。だから俺、ちゃんと発表出来るクオリティで録ってることが逆に衝撃でした(笑)。
「こんときは3人がシンプルに演奏して俺がハンドマイク、みたいなのにすごく憧れてた。俺、この頃は
フリーになりたかったん」
――『THIS IS BEST』のライナーでも書いてましたね。
「バックはリフ弾いてるだけみたいな。でも俺、そのリフすら考えてへんのちゃうか?(笑) もう頼むわって」
――この曲は作曲:オセロケッツ表記で。スタジオでジャムって作ったパターンっぽいですね。この後から『ひょっこりー』(M-7)『シャア』(M-8)と中井ワールドが続きます。この『ひょっこりー』の残らなさがすごい(笑)。
「こんな残らん曲を、アイツはきりんっていうバンドで大事にして、アレンジ変えながらでもやり続けるから(笑)。コレは俺がベースで丸がドラム、松崎くんがギターや。デモテープ録るときはだいたいベース弾かせへん(笑)。『サイレントサービス』(M-11)も、中井さんが演奏に参加させてもらってないという(笑)」
――中井曲は本人に弾かせない的な?
「『いいわけ』の中でも中井くんの曲が1曲あるけどベースレスやからね(笑)」
――いやでもコレ、それなりの音質で録ったもん勝ちみたいなところありますね。
「そうやねん。みんなにおススメしたい。契約とかお金が自分らの手元にある内に、それなりのクオリティで何か録っといてください(笑)」
――『シャア』も何なんコレ、残るけどみたいな(笑)。
「よう分からんやろ?(笑)」
――『リコンダンス』(M-9)もね、まさかの『Egg』超えの短さですよ(笑)。
「何て言うかニューオリンズ的な、歌詞を必要としない感じ?(笑)」
――『リコンダンス』ってそもそも何なんですか?
「コレ誰かが離婚…マネージャーの関口さんかな~。だいたい俺、近い人をおとしめる癖があるから(笑)」
――選曲は松崎さんが完全に選んだんですか? 森山さんは一切口出しせず? まぁでもガチで選び始めたら決まらんかもしれない…。
「そやねんな~。コレはやっぱりプロデュースワークの悪い癖で。納期を見てまうっていう」
――本気でアーカイブ掘り起こしてここは修正とか言い始めたら、もうマジ間に合わんと。
「そうやねん。でも納期があることによって、世に出たレコードっていっぱいあると思う。だからそういう意味では、正しい選択やと。もうコレ奥くんやから言うけど、プレスどこですんねん、マスタリングどこですんねんとか、まっさん全然考えてへんねんもん(笑)。アーティストやもん」
――逆算しちゃう係なんですね~森山さんは。
「なってもうてたな~(笑)」
俺はオセロケッツに関して、そんなに大事には思ってなくて
大事にし過ぎて誰も知らんバンドになるよりは
やれるんやったらやったらええやんってずっと思ってた
「取材楽しいな~」
――アハハ(笑)。楽しいですね。
「アルバムインタビューって感じやな~! メンバー揃えたらよかった」
――みんなこれ読んでどう思うでしょうね(笑)。じゃあ次は『3人の彼方へ』(M-10)にいきましょう。この曲はオセロケッツのパブリックイメージに近いかもですね。“借金中に借りまくってたパターン”っていうフレーズは、お金が手元に入ったら安心してすぐ風俗行っちゃうみたいな(笑)。
「何やろな~あのホッとした感。昨日まではホンマに自殺とは言えへんけど四国に逃げることを考えてたのに(笑)。でもコレ、歌詞なんか好きよ」
――さっきの話にも出た『サイレントサービス』は、ちょっと『モノクローム』('99)調な雰囲気が…。
「俺はホンマに何にも覚えてないねんけど、中井くんがこの曲書いたときに、当時付き合ってた彼女に“オセロケッツはこいういう曲をやらなあかん!”って褒められたらしく、興奮して持ってきてんて。だから、俺らも珍しく中井くんの言うことを聞いて、忠実に中井くんのイメージ通りに弾いて。すっごいサビがダサいのが宝やねん(笑)。選曲会議でこの曲のサビ聴いたとき、唯一笑ったもん。でも、何かそういうのもすごく愛おしくなった」
――もうそれ愛おしくなり始めたら、全曲入ってきますよね?(笑)
「そうやねん(笑)。中井くんが執拗に命令してくるの見て、楽しなってきて。だから、アンサンブルにガッツ出るよね。演奏良くしたろって。だから瞬間的にアガる場面があるのは、なっかんの当時付き合ってた彼女の念です(笑)」
――彼氏のバンドに“こういう風にやった方がいいよ”って言ってくる時点で、もう癪に触りますけどね(笑)。
「タチ悪過ぎやで。もう俺らが一番嫌いなパターンや。誰やったんやろうなこの女。でも中井さんはホンマに女性にすごく左右される(笑)。意思を持って欲しいよね。まぁ何も覚えてへんけどね(笑)」
――何も覚えてなくてもアルバムに入るんですね(笑)。最後は『6/8(8分の6)』(M-12)で。
「コレはビートが8分の6拍子やからこういうタイトルになってるんやけど、コレに対しては、“GRAPEVINEにも『6/8』っていう曲あるけど大丈夫?”みたいなメールがみんなから来るっていう。“でも俺らGRAPEVINE好きやからOK!”って、このまま残りました(笑)」
――コレはすごいアダルトな曲ですよね。
「結構こういうハチロクのソウルナンバーって、デモテープのレベルまでは俺もすごく作るわけ。でも、ベタやろということで置いとくねん。それにみんなが歌詞を書いてくれたんやろね」
――詞が中井さんと松崎さんの共作って珍しくないですか?
「珍しいと思う。初めてじゃないですか?」
――結構このアルバム初めて尽くしですよね。あと、この曲は森山さんの声もヤラしいな~(笑)。
「この当時はね、イヤらしかった。本チャンの歌録る前に、確実にヘルス行ってたから(笑)」
――ドーピングして過剰にエロスになった感じ(笑)。結局、マスタリングで結構変わりました?
「なったね~。だってコレ、元のマスターはMDやもん。MDなんかこの世で一番音悪いで。だからスゴいわ」
――そこそこの環境で一応録ってたのに、残ってたのは結局MDだったんですね…(笑)。
「そうやねん。だからMDマスターでは世界一音いいんじゃない? ビックリしたもん俺。ちゃんと低音も出たし」
――完パケたものを聴いたときって、森山さんはどう思ったんですか?
「やっぱり俺が信頼してるだけのことはある音質やなっていうのと、コレ恥ずかしいねんけど、家で聴いててチビとか嫁が“コレええやん。誰?”みたいになったっていう。“俺! 俺!”って(笑)。結構家でもレコードかけるけど、“誰?”ってなかなかのアーティストしか言ってこーへんから」
――今回は不可抗力でも何でも『oseROCKets』が出なかったら聴いてもらえなかった12曲で。ガチのオセロケッツでは世に出なかったかもしれない曲がこうやって日の目を見たという意味では、すごくよかったと思うんですよね。『You』みたいに素直な曲とか、『writer』みたいに今に通じる曲がもうあの頃にはあったんやとか、その頃の時代の空気が感じられたのは、純粋に音楽ファンとして嬉しいですもん。このアルバムがね、5月6日(日)のワンマン当日には出るわけですよ。このアルバムは流通するんですか?
「いや~もう会場限定ですよ。500枚しか作ってないから」
――マジすか!? オリジナルアルバムを500枚しかプレスしてないってスゴいですね…。ある意味限定盤や。でも、そもそもこれはオリジナルアルバムなんですかね?
「どうなんやろな~。今回は、昔1回出したデモトラック集みたいな『OUT OF BOUNDS Vol.1』(‘03)の品番とレーベルを受け継いでんのよ。でも松崎くんは“ニューアルバム”っていう言い方にしとこうみたいな…まっさんに怯え過ぎや俺!(笑) もうケンカじゃ折れん組やから松崎くんは。折れへん、全然折れへん、うん。全然折れんな~(笑)」
――要はでも5月6日(日)あべのROCTOWNでのワンマンですよね。純粋に楽しみですよね。それこそ11年ぶりですから。ようやろうと思いましたね。
「でもこれって、奥くんと話しててもヒントはあってんで。例えば“今はベテランの人たちがイベンターとかに頼らずに自分らでライブしてる、その気が少しでもあるならやった方がいいですやん”って奥くんもよく言うやん。それは俺も思うしな。俺はオセロケッツに関して、松崎くんみたいにそんなに大事には思ってなくて。大事にし過ぎて誰も知らんバンドになるよりは、やれるんやったらやったらええやんってずっと思ってた。もっと究極言ったら、例えば中井くんと俺でもオセロケッツを名乗る、みたいなパターンもあるんちゃうかって」
――スケジュールが合う人で、その都度身軽に動く。
「とか言っててんけど、要はまっさんやな。やっぱ何か大事にしてたし」
――4人でオセロケッツやと。
「そう。4人でオセロケッツっていうのは俺らも思ってたから…う~ん、そこも1回ケンカみたいになったけど、まぁ今はまっさんもこだわり持ってやってくれてるから」
――でもそれだけケンカしても、The Ma’amでも一緒にやるってことは、やっぱりすごく魅力があるんですよね?
「そうやねん。ホンマにドラム叩いてたら最高に好きやねん。俺が歌うときにドラム叩いてるのを見てたら、もうめっちゃ意味分かってくれてるの。こんな優しい人おらんなって。ロックオンされてしまってんねやろうね~もうカウントがカッコいいもん。木の棒を2回当ててるだけやのに、何でこんなに入口優しいの?って(笑)。ホンマは優しい人なんちゃうかな?って思うときあるもん(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「あの人が誰かの後ろで叩いてるライブを観に行ってもスゴいええのよ。俺、知り合いじゃなかったらこの人雇いたいなって思う(笑)。知り合いやから憎悪が入ってる(笑)。プレイヤーとしてはやっぱ好きやな~。いつか“俺にはこのドラマーしかいない!”っていう人を大阪とかで見付け出して、目に物見せたいねんけど(笑)」
俺は多分、バンドのボーカリストやねんなってずっと思ってる
それが一番いい形で出るのがオセロケッツなんやと思う
――11年前のワンマンは東京は渋谷AX、大阪は心斎橋BIGCATで。今回はどんなもんになるんでしょうね。
「お客さんはスタンディングがしんどい歳になってきてるかもしれんけど、それなりに立っといてもらわなあかんライブになりそうなぐらい、忙しいよ俺らは」
――いいですね~。20数曲はやるって言ってましたもんね。観てるお客さんもそうですけど、ステージに立ってる4人も、何かしら絶対に思うでしょうからね。なんかこうポジティブに…発信する方に向いてって欲しいですけどね。
「そういう方向に向いてくれたらいいよね、うん。パブロック的レコード作りたいな~」
――ホンマに今のみんなでも、1枚作って欲しいですけどね。歳相応の、新たに生まれる音楽を聴いてみたいです。
「なぁ! こないだクアトロのリハと本番の合間にスタジオに入ったときも、パブロック的方向の曲を“あ~コレいいな~”って言いながら結構やって。そのときに俺も可能性を見たんかも分からん」
――じゃあちょっと、そろそろ締めをね。今まで紆余曲折してきましたけど、最後は“オセロケッツのワンマンに向けての意気込みを”っていう普通の質問(笑)。
「意気込みというのは言葉にはならんけど、なんか雰囲気として知ってるやん。“やりたい”とか“やったるぞ”みたいな気持ちがそれやとしたら、意気込みはすっごくある」
――何か嬉しいですね~。だって森山さん、そういう気持ちを表に出すのって割と恥ずかしがるじゃないですか。
「そうやねん、うん。何かね、やりたい」
――めっちゃいいですね~。森山さんが調整しなくていい場が必要やと思うんですよね。やっぱり制作してる間は、プレスのこととか考えなあかんくなるから(笑)。一番そうなれる場がステージじゃないですか。
「そういう意味ではね、メンバー同士の仕掛け合いっていうのがまだ残ってて。2ndアルバム『MADE IN STUDIO』に『スマイルスクール』っていう曲があんねんけど、当時、僕らのビデオクリップを録ってくれてたエハラさんが昔(トラン)ペットをやってたということで吹いてもらって、一向に音出えへん状況のまま20分セッションした一部が入ってんねんけど(笑)、ワンマンでその曲をやることになって。俺がワンマンに向けて一番最初にしたことがヤフオクでペット購入です(笑)。コレは実はまだメンバーの誰にも言ってない。もう毎日朝イチでペット吹いてるから(笑)」
――今まで話を聞いてても思ったんすけど、オセロケッツってメンバー間の仕掛けが多いですよね。それこそ丸山さんがhideモデルのギターで驚かすとか(笑)。
「そうやねん。コレね、大学の軽音楽部の当時の部長が俺の小学校からの親友で、誰よりもレコード聴いてる男で。その人がすごく笑いも好きで、毎週“全参”っていう部員全員が集まる会では、何かおもろい仕掛けをせなあかんみたいな。俺らって世代も近いから、何かやらんとあかん精神があるねん。その感じはずっと続いてるよね」
――お客さんからしたら11年ぶりのワンマンでたっぷり曲が聴けて、『いいわけ』以来8年ぶりのニューアルバム『oseROCKets』も会場で買えて、オーダーメイドベスト『THIS IS BEST』もこの日限定で買えるとなったら…。
「来なあかんやん!」
――来ない理由がないですね。これは遠征すべき日です!
「頼むわもう、お客さん来えへんかったら解散やで!(笑)」
――森山さんってオセロケッツにThe Ma’am、プロデュースもやってて、音楽に関わるアウトプットや関わり方はいろいろあるわけじゃないですか。そんな中で、今またオセロケッツをやるわけで。オセロケッツって森山さんにとってどういう存在なのかなと思って。
「自分が音楽を表現する場所はどこなんやろ?とはいつも思うし、それは日々悩んでるところで。プロデュースは確かに楽しくて向いてる面もある。でも、本来はどこなんやって考えたら、めっちゃ恥ずかしいけど俺、ボーカリスト意識があんねん」
――ソングライターよりボーカリストなんですね! ちょっと意外です。
「苦手やねんけどね、歌(笑)。歌に関して、今でも毎日考えまくってるわけ。すごくいい歌を歌えたことが人生に何回かあって、でもそれは曲単位やったり、もっと言ったらAメロとかフレーズ単位かも分からん。そのときに、今まで聴いてきた音楽の中のボーカリストにちょっと近付けたと思える瞬間があって、そういう瞬間があるから、やっぱり歌い続けたい気持ちがどこかである。自分がどういう状況やとリラックスして歌えるのかを常に探してる。でも俺がアコギを持って歌うと、ちょっと喉絞まるかも分からんから首の角度こう、発音ちょっと詰まった、ヤバい、開くか、どうする、みたいなことを考えがちになんねん。それやのに、バンドがいい状態のときって、そういうのを全部白紙にしてくれるし、やっぱそのときに最高のパフォーマンスが出る。俺は多分、バンドのボーカリストやねんなってずっと思ってる。で、それが一番いい形で出るのがオセロケッツなんやと思う」
――うわ~ちょっと俺泣きそうです(笑)。
「カッコよく歌を歌ってみたい。今でも憧れる。もうボーカルに関する本も俺、誰よりも読んでると思うし」
――俺はね、完全に森山さんは楽曲思考だと思ってました。
「もちろん曲作りの重要性みたいなところはあるけど、これにも限界があって、極論言えば誰でもいい曲は書けると思う。歌詞に関しても、いろんな生き方をして、好き度を磨けばそう。昔は曲が一番。その次が歌詞、そんで歌。でも今はコレが真逆になってる。歌が全て。それには言葉なりメロディが必要。歌をキメたい。ほとんどキマらんけどね(笑)。だからいいボーカリストを観てると今でも憧れるもん」
――それで言うとオセロケッツが、ボーカリスト・森山公一でいられる一番の場所というか。
「そうなんかも分からんね。何かを忘れて歌に入っていけるのは、こないだやっても感じたし」
――そして、森山公一というアーティストは、実はボーカリストであることにこだわりがある。
「そやねん。ボーカルって=フロントマンって言われるから、目立って何かせなあかん感じになるけど、すっごい技術がいるし、マインド直結やし。やりながら薄々は気付いてたんやけど、いよいよそういう気持ちにはなってて」
――経験を積めば積むほど、今まで動いてなかったオセロケッツにその場所があることに気付くというか。
「それはすごい思った」
――だって、技術のある人とも散々やってきましたよね。それでは得られない何かが、オセロケッツのメンバーにはやっぱりあるわけですよね。
「要はリラックス具合やとは思うねん。“擬似リラックス”みたいなことは出来るわけですよ。挿入はしてないけど何となく射精しますみたいな技術だけは上がってるから(笑)、それなりの歌にはなると思う。でも、本番かと言われたら、ちょっと難しい。もちろんその気持ちが分かるから、歌モノのプロデュースをやるときは、絶対にその地点まで持っていってあげたいと思う。“この子のホンマの歌はどこにあるんやろ?”って、それしか考えへんもん。じゃあ自分がそれをやれるのはどこやって言ったら、やっぱりオセロケッツはデカい。何にも考えてなかった頃から一緒にやってきたから、余計感覚が戻るんかも分からん。そや! 今話してて気付いた。俺、歌い始めたのが遅かったんもあるわ。あの人らに会ってからやもん」
――それまでは何をしてたんですか?
「ベース。めっさ上手いで(笑)」
――なんで歌うようになったんですか?
「高校のときも学内だけでは飽き足らず、外で上手いと言われてる人らといっぱいバンド組んで、ボーカリストをクビにし続けててんけど(笑)、いよいよクビにし過ぎて誰もおらんっていうので、弾きながら自分で歌うようになって。ほんなら割と歌える。大学も最初はベーシストの気分で軽音に入ってんけど、やっぱ歌も歌ってみたくなってボーカリストになって。そこからやねん。18からやから。その歌い出したシーンも、歌でグイグイ周りを抜かしていったシーンもメンバーは見てるから」
――森山さんが手垢の付いてない状態からボーカリストとして成長していくところに、オセロケッツの皆さんが一緒にいたわけですね。
「今思うとね。さすがに酔ってるから言ってまうけど、カントリーの世界に入ったのも、サウンドじゃなくてやっぱりどこかで歌の上手い人に憧れて入ったから。カントリーの人ってめちゃめちゃ上手いねん。ソウルミュージシャンみたいに、ただ腹式呼吸で声が大きくてフェイクが上手いとかじゃないもん。感情をバッサー歌詞に乗せて出すから。ホンマの意味で俺が上手いと思ってる人たちが、もう軒並みおんのよ。やっぱその世界に入って発声とか学びたいし。言うと恥ずかしいけど、やっぱりボーカリストが一番いい歌を歌うには、リラックス出来るかとかその日の気分が一番デカいから。そういう意味でもやっぱりね、クアトロの前に1回みんなで久しぶりに音出したとき、そういう気分にすぐなったもんね。何も考えてなくてもいけたっていうか」
――そう考えたらベスト盤『THIS IS BEST』はめっちゃいい機会でしたよね。あれがなかったら、それに気付かないまま、まだバンドは止まってたかもしれない。…オセロケッツのこと好きですね、やっぱり。
「そうやね、結局ね。なんか恥ずかしいな(笑)」
――だからやっぱり、僕らもそういうオセロケッツを観たくなるんですよね。だってそれは音にも出るし、みんなにも伝わるから。そんな想いでやってるのに、それをしまわんといてってやっぱり思いますよ。5月6日(日)阿倍野ROCKTOWN、楽しみにしてます!
「ありがとうね。ワンマン、楽しみやな」
Text by 奥“ボウイ”昌史