南日本放送・MBCラジオ、FM WINGのパワープレイにも
抜擢された龍之介のオリジナルアルバム『ともしび』
約2年ぶりにリリースされた自主レーベル第4弾作品に
込められた思いやライブ活動についてインタビュー!
(2/2)
--そうやって放たれたアルバムですが、収録曲の『ドントウォーリーマイフレンド』が鹿児島の
南日本放送・MBCラジオでの5月度パワープレイに選ばれたり、北海道・帯広の
FM WINGで『ともしび』が5月のオススメ盤として紹介されることになりました。
龍之介:いや、本当に、飛び上がって喜びました(笑)。ラジオ局に日々、どれだけ作品が届けられるかよく知っていますし、そういう中で聴いてもらえるだけでもありがたいのに。ラジオ局で1回でも流してもらえたら、たくさんの人に聴いてもらえるわけで。そのちょっとした可能性に賭けて、『ともしび』と手紙をいろんなラジオ局に送って。それがパワープレイという一番ありがたい、いい形で選ばれて。そういうことが起きたのも初めてのことでしたね。
--可能性はゼロじゃないですね。
龍之介:そうですね。僕はメジャーじゃないし、かといってインディレーベルというほどでもない。個人レーベルで自分のことを自分がやっているだけで。そういったスタンスで全国ツアーをしたりとか、CDをリリースし続けて、それでこういう形でパワープレイに選ばれて。自分がUNBALANCEというレーベルを立ち上げた時(2005年)から、龍之介という奴がいて、そいつのやり方に“これだったら俺も頑張れるんじゃないか”と、そういうふうに思ってもらえたらいいなと前から常々、言っていて。何様だっていう(笑)。「後続の若者たちにそうやって夢を与えたいんだ」って言ってたんです。で、まあ、当時も今も誰にもあんまり相手にされないんだけど(笑)。
--そうやって声を発し続けて、声を大にして叫んでいるのに、聞こえてないんじゃないかとか、届いてないんじゃないかと思う暗中模索の時期ももちろんあったと思うんです。でも、今回のパワープレイに選ばれた出来事は、声を大にして発し続けると誰かに聞こえる、届くんだということが実証できましたよね。
龍之介:そうです。本当にそう。素直に喜びましたし、生きてるといいことあるなって思いました(笑)。
--いじけて、だんまり決め込むんじゃなくて、声を大にして発し続けたら、5年、10年かかっても、その声を拾ってくれる人が出てくるんだなと私も思いました。
龍之介:だから今回、一生懸命ライブハウスで歌って、家内制で作品を作って、そういうふうに個人でやっている同胞たちというか、仲間たち、会ったこともない人たちだけど、そういう仲間たちと一緒に喜びたかったんですよね。とにかくレスポンスがあったことが嬉しかったです。単純な言い方をするとこれ、はっきりいって快挙なんですよね(笑)。どのようにしてパワープレイというものが決まるかということを知っていますから。
--おお、快挙! 素晴らしいですね。
龍之介:話がちょっと反れますが、自分はいつも、メンタルな面で倒れてしまうかもしれないと不安に思っているんです。自分自身が不安定で、それこそアンバランスで。でも、そういうことは誰しもあると思うんです。仕事でも、“もうだめかもしれない”、“こんな辛い状況であと1ヶ月持つかな”とか、そういうことを思いながらやっていると思うんです。僕もそういう一人で。少ない薪を拾ってきて、ごんごん燃やしているんです。燃やすことがイコール、ライブなんですが、ただ、残念ながら僕は豊富な薪を持っていないから、あっちこっちに行って薪を拾ってきて、ごんごん燃やすんです。その、あちこちに拾いに行く行為も、ごんごん燃やす行為も、非常に疲弊するんですよね。ギリギリでやっているから。そういうギリギリ感が前はすごく嫌だったんです。でも今は、そのギリギリ感があるから、こんな作品が作れたりするんだという、そういう思いも少し生まれてきているんです。
--それはなぜですか。
龍之介:何でだろう…。まぁ、ずっと売れていないわけです、僕は。ずっと売れていないんだけども、自分であっちこっち走り回ってやっとの思いで拾ってきた2、3本の薪に、残り2、3本のマッチでやっとの思いで火を着けて。その小さな火が夜の帳の中で小さく、でも確かに熱く燃えているわけです。それを見て、そういう美しさもあるんだって思ったんですよね。
--何か、気持ちの上でも余裕が生まれたんですか?
龍之介:余裕ではないですね。活動を続ける中で、離れたところからもう一人の自分が別の視点で見ているという、そういう存在が現れたんだと思います。「頑張れよ、大丈夫だよ、落ち着いて状況を見てみなよ、そんなに悪くはないぜ、辛いこともあるけどさ」って言ってくれるような。
--火の大きさは変わらない中で。
龍之介:やっぱり人間の営みって大事なことでしょう。健康管理とか、ご飯食べたりとか、移動中に景色を見ることも大事なことだし、人と向き合ってちゃんとお話することも大事だし、その土地のおいしいラーメンを食べたとか、お客さんと話をしたりとか。いろんなことがやっぱり自分にとって元気の素になってるんですよね。頑張るための元気の素。
--なるほど。そういう中で何か捉え方も変わりましたか?
龍之介:自分を受け入れるようになったかな。自分が嫌い嫌いでしょうがなくて。だから努力するんだけど、そればっかりだったんですね。でも、ここ最近のあり方は、そういう自分を受け入れて前に進もうとするようになりました。それまでは拒絶して、それを覆い隠す努力をしていたけど、最近は、自分を否定するよりも、世の中に対して感じている居心地の悪さみたいなものを受け入れるようになったかもしれない。
--その肯定は大きいですね。努力の仕方も変わってきたということですね。
龍之介:そうですね。ジレンマとか抱えるようなことがあっても、これは大事な俺のやるべきこと、仕事なんだと思うようになりましたね。
--こんなことして本当に意味があるのかとか、いろいろ思うことを仕事として受け入れる。そういう冷静さはとても大事なことですね。
龍之介:たくさんの人と出会うといろんなことを学びますよね。例えば、自分をものすごく悲しませるようなこともたくさん起きるじゃないですか。自分以外の行動に起因する心の痛みのようなものとか。それに対して前は、いちいちしょげたりしていたんだけど、今は“まあ、悪気はないんだろうな”と思えるようになったというか(笑)。
--そういう人を思いやれる気持ち、それぞれの事情を慮ることが、音楽で表現をするということに表れていますか?
龍之介:アルバムの1曲目、『夢を見上げて』の1行目で僕が発している言葉。それがすごく物語っていると思います。
--この『ともしび』では、アレンジにも広がりが出てきましたよね。特にその『夢を見上げて』は、2007年にリリースしたライブ盤『或る夜の龍之介~アンバランスサーカス楽団~』の1曲目にも入っていますし、もちろんいろんなライブで、ピアノやギターでの弾き語りで演奏されてきて。そうやって長い間、演奏されてきて、ある種出来上がったものが、『ともしび』ではストリングスとアコースティックギターというまた違ったアレンジが施されて入ってますね。
龍之介:『夢を見上げて』をまた、新しいアルバムの1曲目に入れることは勇気の要ることでしたね。一人のアーティストが一つのレーベルから出している作品の中で、1曲目が『夢を見上げて』というアルバムが2枚、あるわけですから。でも、『ともしび』を長い時間かけて作ってきた中で、どうしても『夢を見上げて』で幕を開けなくてはいけない必然性があったんです。最高のものを作るには、これが1曲目じゃなくてはと。
--ストリングスとアコースティックギターというアレンジに関しては、どうしてこの編成にしたんですか?
龍之介:『夢に見上げて』に関しては、『ともしび』でのアレンジが頭の中で鳴っていた、本当の顔なんです。それをライブだと表現できないからピアノやギターでの弾き語りで演ってました。ストリングスが入っている『ともしび』に収録された音が本当の形で、これこそが『夢を見上げて』なんです。
--頭の中では鳴っているけど、それを完成形にするには時間を要しましたか?
龍之介:作り手としては、ライブ盤というのはライブの実況収録であり、短距離走なんです。スタジオで制作するものは長距離走で、それが僕の本業で。『夢を見上げて』は、その長距離マラソンのアルバム、スタジオ盤でいつか勝負したいなと思っていたんです。
--なるほど。『ともしび』はまた、プロデューサー的な目線が入っているというか、作品とアーティストとの間に、いい距離感が取れているのも印象的でした。
龍之介:UNBALANCEからリリースしたものでも初期の作品にはアーティスト本人が右も左も分からず、暴れている感じがあるかもしれません。30歳を過ぎてやっと、屋台骨みたいなものが出きた感じがします。
--それは、続けないとわからないことですね。
龍之介:そうですね。続けてみてわかることは、続けることの困難さを知ることですよね。だからこそ、自分よりもっともっと続けている方を尊敬せざるを得ないですし、何か一つのことを続けることはすごく大変なことだと思いますね。
--ツアーが始まったばかりで、今週末は大阪でもワンマンライブがあります。こちらも楽しみにしています。今日はありがとうございました。
龍之介:ありがとうございました。
(取材・文/岩本和子)
(2012年5月17日更新)
Check