実りの秋、紅葉の秋、
懐かしい心の風景に響く香り高い歌声。
ソプラノの幸田浩子が贈る“美しき日本のうた 秋 2022”
(2/2)
ここで聴いた歌を、ぜひお客さまにも歌い継いでいってほしい。
■幸田さんが日本の歌というものを意識して聴いたのは、何歳くらいの時でしたか?
幸田:私は、物心のついた時からわりと音楽に囲まれて育ったんです。母はクラシックの音楽の先生で、父は大学の頃にはグリークラブに入っていた人なので、歌が大好きで家の中にはいつも音楽が溢れていると言う家庭でした。だから私もブラームスの子守歌とかモーツァルトの子守歌も、日本語のねんねこしゃっしゃりませ(『中国地方の子守歌』)も、子どもの頃には聴いていて、西洋と日本のものの境目というのがそんなにない形で受け入れていたような気がしますね。いろいろな国の音楽を区別なく聴いていました。
■先ほど、年配のお客さまが多いのでは、と訊いたのですが、こうした古くて良い歌というのは学校で教わるよりも、家庭で親やおじいさん、おばあさんの世代から直接聴くことの方がむしろ自然なのかも、とも思えます。そして昔聴いた歌を、ある年齢になると懐かしく思い出すようになるのかも知れませんね。
幸田:難しくてわかりにくいからということで今なかなか歌われなくなっている。教科書などからも減っているということのようですが、日本の美感が込められたような文章や言葉を歌うことによって、私たちの情緒も一緒に育つような気がしています。知らないことはいつかわかってくるだろうし、例えば『ふるさと』のうさぎ追いしあの山という歌詞を、私、本当に小さい頃はうさぎ美味しいって思ってましたから。子どもの頃は全部わからなくっても、うさぎが美味しいんじゃないんだよって親と話をするのも楽しいじゃないですか。自分の中にそんな記憶が積み重なっていくということは、とても大事なことなんだろうなと思っています。
■それを歌い継ぐというのは素晴らしいお仕事ですね。
幸田:ありがとうございます。そしてぜひ、聴きに来てくださったお客さまにも歌い継いでいってほしいと思っています。お孫さんに聴かせるでもいいですし、ご自身が空を見上げた時に『見上げてごらん夜の星を』が歌いたくなったなあでもいいし。コロナがあって歌えない時期が長かったから余計に感じるのかも知れませんが、歌うことって何て心身の健康にいいんだろうって思うんです。たくさん息をして、それをゆっくりゆっくり吐いて、音楽を体に宿す。そして詩人の人たちが美しく編んだ言葉を声にして行く。そして人と共鳴する。歌というのは1人でも歌えますけど、そこに聴いてくれる人がいれば人の数だけ思いが共鳴できる。
コロナの前までは『見上げてごらん夜の星を』の歌詞カードを配って、アンコールの時にお客さまと一緒に歌うのを恒例にしていたんです。でも一緒に歌うことはまだできないので、今回はプログラムの中で私ひとりで歌います。もしかしたら来年はみんなで声を合わせて歌えるかも知れない。だから今年は歌えなくても夜空を見た時にはコンサートの事やご自身の思いと重ねて、口ずさんでいただけたら幸せだなと思っています。
■これまで歌ってこられて、幸田さんご自身の思い入れの深い曲、大好きな歌はありますか?
幸田:1回目で泣いちゃったからリベンジしているという意味で毎回歌っているのは『里の秋』。“しずかなしずかなさとのあき”というあの歌が大好きで、思わず涙が溢れて。2年目はやっと泣かずに歌えて、だから今年も(笑)。大阪はやっぱり生まれ育った場所なので、そこでこの“美しき日本のうた 秋”というコンサートを歌うということは私にとってもひとしおな故郷の秋の感じがします。そんな思いがあるからでしょうか。『里の秋』はなんだか特別ですね。
■コンサートを楽しみにしているお客様にメッセージをいただけますか?
幸田:歌を通して、また美しい季節が巡ってくる事のありがたい気持ちをお客さまと共有できたらいいなと思っています。そして最後には、皆さまが健やかで、願い事が叶いますようにという思いを込めて『見上げてごらん夜の星を』を歌います。ピアノの藤満 健さんのアレンジがとても素敵なので注目してみてください。皆さまと秋の景色をご一緒に楽しむことができる時間を心から楽しみにしています。
(2022年9月15日更新)
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