実りの秋、紅葉の秋、
懐かしい心の風景に響く香り高い歌声。
ソプラノの幸田浩子が贈る“美しき日本のうた 秋 2022”
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ザ・シンフォニーホールで例年10月に行われているコンサート、“美しき日本のうた 秋”。
世界の檜舞台で活躍するソプラノの幸田浩子を迎え、明治大正昭和の唱歌や歌曲、そして広く親しまれてきた歌謡曲などを取り上げる人気のシリーズだ。気品溢れる幸田の歌唱に乗せて描き出される日本の秋。懐かしく聴く者の心を揺さぶる風景がそこにある。10月9日(日)、シリーズ3回目のステージに臨む幸田浩子に訊いた。〔音楽ライター/逢坂聖也〕
私たちの原風景と結びついた日本の歌の素晴らしさ。
■3回目の“美しき日本のうた 秋”。これまで歌ってこられてお客さまの反応はいかがですか?
幸田:私は大阪の出身なのですが、このシリーズのお客さまはステージに立っただけで「ただいま!」っていう気持ちになれるうれしくも温かいお客さまばかりです。コンサートがスタートしたのが2020年の10月。ようやく新型コロナの第1波が収まった頃でしたから歌えることがとてもうれしくて、あの時は舞台からお客さまを見たとたんに涙が溢れたのを覚えています。
■秋にちなんだ日本の歌、ということですが、最近は日本の唱歌や童謡はあまり学校でも教えないと聞いています。それでどうしても年配のお客さまが中心になるのかな、という風に考えたりもしています。
幸田:私もそんな風に聞いています。だからご自身が歌われたことのある、あるいは自分の親が歌ってくれたとか、子ども時代に歌ったとか、そういった思い出のある年代の方が多いように思います。そうしたお客さまが懐かしい歌を、また持ち帰って、ご家族やお孫さんたちに歌い聴かせてくれたらいいなと思いながら私も歌っています。また懐かしいばかりではなくて、比較的新しい曲とか、こんな歌もあったのか?と思われるような作品も選んでいるので、どなたに聴いていただいても楽しめるコンサートになっていると思います。
■こんな歌もあったのか、というと例えばどんな?
幸田:特に意外という感じではないかも知れないんですが、私の中では『薔薇の花に心をこめて』という山田耕筰の歌がそれに当たります。山田耕筰が最後に作った曲で、学生時代から大好きなんですが、演奏会で歌われることはあまりないような気がするんです。けっこうマニアックな選曲かな、と自分の中では思ったりしています。山田耕筰の作品は『野薔薇』とか、『この道』とか、『からたちの花』などが、ほんとによく歌われるんですが、この曲などはこうやって2回、3回と回を重ねているからこそプログラムに取り込んで行ける作品だと思っています。
■幸田さんご自身は、日本の歌の魅力はどんなところにあると考えていますか。
幸田:自分が歌っていて思うことは、聴いてくださるお客さまがその歌その曲に入っていって、ご自身の思い出だったり体験だったり、それぞれの思いのところにふわっと飛んで行って一緒に共鳴できるということ。そして皆さんが共鳴している時に私もダイレクトにーもちろん、それぞれの方が感じている感情は違うんだけれどー皆さんが感じているあの時はこうだったな、あんな風だったなっていう気持ちや、お父さんどうしてるかなとか、しばらく会ってないけど友達はどうしてるかなとか、そんな風に思っている気持ちが曲とリンクしているのを感じることができることなんです。私が日本の歌を歌っている時に一番愛おしく素敵なことだなって思う点です。
■言葉が直接、心に響いてくるような優しさがありますね。
幸田:もしかしたら華やかなオペラのアリアを歌っている時には、聴く人はその華やかさ自体に圧倒されているのかも知れないし、言葉の意味そのものは直接伝わっていない場合もあるかも知れない。だけどそういう華やかさとは違って、ただただ詩とそのメロディが体の中に入って行って、たくさんの人に同じ時間の中で、その曲を追いつつも自分の子ども時代や今の生活や、いろんな思いを感じていただけるというのが日本の歌の魅力じゃないかなという風に思っています。
■僕らが普段使っている日本語が、もちろん、昔の歌には文語的な表現はありますが、それがごくごく自然に旋律に乗る時の美しさには思わずはっとするような驚きを感じることがあります。
(2022年9月15日更新)
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