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ホーム > インタビュー&レポート > 「東京と沖縄の文化がチャンプルーされている」 南大東島を舞台に健気な少女の成長を繊細に描く 『旅立ちの島唄~十五の春~』吉田康弘監督インタビュー

「東京と沖縄の文化がチャンプルーされている」
南大東島を舞台に健気な少女の成長を繊細に描く
『旅立ちの島唄~十五の春~』吉田康弘監督インタビュー (2/2)

――主人公を務めた三吉彩花ちゃんがまた素晴らしいですね。
 
「もともと、ナイーブな主人公像を思い描いていたので、佇まいと奥ゆかしい雰囲気がピッタリだと思いました。彼女は15歳にして、ちょっと哲学的な考え方をするようなところがあって、今どきの子とはどこか違っていいんです。沖縄には背が高くて手足が長いあんな感じの子が多いですし」
 
――方言や三線なんかも見事にこなしてますよね。
 
「そうなんです。全シーン実際に弾いています。三線は渋谷のカラオケで練習してもらいました。窓から高速道路が見えるところで南大東島の大草原を想像してもらって(笑)。歌の意味を考えることが役作りになるので、普通の映画の役作りはしなくていいから、今回は三線を常に触って、歌の意味を考えて自分の中で落としこんで歌うことだけに専念してもらいました。準備はそれだけでいいというアプローチで。「緊張した」とか言ってますけど、大竹しのぶと小林薫に挟まれて堂々と主役を務めるというのはすごいですよね。最後に歌うシーンでも300人を前に一発で最後まで歌って、大した度胸だなって思いました」
 
――大竹しのぶさんと小林薫さんというベストなキャスティングはどのように?
 
「このふたりに断れたらこの企画はダメになるくらいの覚悟を持って、完全に狙い撃ちで当て書きでした。シナリオがうまく書けて気に入ってくれたら絶対出てくれる、ギャラは関係ないはず(笑)、という読みでラブレターのようにシナリオを持って行きました」
 
――『キトキト』の時も大竹さんはすごくシナリオを気に入ってくれたとか。
 
「そうなんです。それで今回もシナリオが全てだと思って。やっぱりベテランの方々が演じてみたいと思うかがポイントで、そこが勝負だと思って。大竹さんは普段見ている観光的な沖縄とは違うところを描くというところに共感していただけて」
 
――大竹さんの役どころは少し難しいですよね。
 
「島で生まれ育った人と外から入ってきた人とのすれ違い。島はコミュニティーが本当に濃くて、それはいいことだけではなく息苦しさもあるんですよね。那覇から嫁いできたという役柄なので、そういった部分で合わないこともあると思うし。離島のネガティブな部分もあの母親像に島の宿命として背負ってもらった。大竹さん自身も分からないから「この人ひどい女じゃない?」と最初に聞かれたんですが、あの母親のプロフィールと家族の年表のようなものを作って説明して分かってもらいました」
 
――では、小林薫さんは?
 
「薫さんには1回シナリオを読んでもらって感想を聞きに行った時に話合いの時間を持たせてもらいました。そこで、ひと言目に「監督、若いね」と言われたんです。まだ、親側の気持ちが書きこめていないという意味での指摘だったと思います。台詞がドラマ的過ぎるというような指摘も受けました。ただ、その段階で乗ってきてくれていたんですよね。前向きな話だったのでこれは食らいつこうと思って(笑)。それに、言ってくださっていることと僕らが目指している方向性が一致していて背中を押されているような気持ちになったので意見をありがたく取り入れて。言葉ではなく表現に変えて台詞をシェイプしていきました。泣かせる音楽を入れるとかもっと劇的にすることも出来るけど耐え凌ぐ表現をテーマにしました。目線で語るとか」
 
――状況を説明するような会話は映画にいらないですよね。
 
「15歳の少女の分からない部分は見せないでおこうと思ったところもあります。主人公の少女目線で描くことで彼女が知るタイミングで客も知るように描きたかった」
 
――監督自身も少女の目線からシナリオを組み立てていったんですか?
 
「最初は僕が15歳のころを思い出すところから始まりました(笑)。あの頃、どんなことを考えてたかなとか。それで、瑞々しく主人公を描きたいなと」
 
――だけど、この映画は観る世代によって親目線にもなりますけどね。
 
「そうですね。出て行くけど親がそこにいてくれるから帰ってこれるということもあって、そういう意味では誰かがその場所で生きていてくれて帰れる場所があってそれが故郷なんだなと思います」
 
――あと、「アバヨーイ」も素晴らしいですがBEGINが手掛けたエンディングテーマも映画にぴったりですね。
 
「この映画のためだけに書いてくださった歌で」
 
――映画を観てもらって書いてもらったんですか?
 
「それが、シナリオも読まずに映画も観ずに書いてくださったんです。BEGINさんは、台詞を追った歌詞になってしまうのを避けるためそういうスタイルを取られてるんです。だから初めて映画を観た時に「映画にぴったり寄り添う歌になってて驚いた」とおっしゃってました」
 
――ということは映画の企画だけを伝えたということですか?
 
「どういう映画を作りたいかということを1,2時間お話しました。沖縄の曇り空も描く、ポジティブな面もネガティブな面も島の人たちの生活を丁寧に繊細に描くという話をたくさんしたら、それに賛同していただいて。あと、ひとつだけ「映画の全編に島唄が出てきて三線の音がいっぱい出て来るからエンディングにはひょっとすると三線の音はいらないかもしれないですね」という話をしたら「そうですね」と答えてくださって「アバヨーイ」という歌を際立たせるためにエンディング曲があると逆算してくださり、出て行く側と見送る側の歌を書いてきてくださったんです」
 
――『キトキト』と本作、どちらも家族を描いた作品ですが、一方で井筒組でハードな作品の脚本も手掛けられていますが。
 
「『ヒーローショー』『黄金を抱いて翔べ』の脚本を手がけましたが、ああいう映画も大好きで僕もああいった作品を監督してみたいです。最初から背伸びしたものはうまくいかないような気がして手に届くところという意味で家族の話が題材にしやすかったというか。身近だったので選ぶことになったんですけどこれからは社会派とかハードボイルドも撮ってみたいですけどね」
 
――監督は大阪ご出身なのに、舞台が『キトキト』は富山、今回は沖縄の離島、今年もう1本控えてる『江ノ島プリズム』が江ノ島ですよね。大阪ではなぜ撮らないんですか?
 
「いつか満を持して撮りたい。やっぱりディープ大阪を撮りたいですね」
 



(2013年5月27日更新)


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吉田康弘監督●1979年大阪府出身。同志社大学卒業。 なんばクリエイターファクトリー映像コースで井筒和幸監督に学ぶ。同監督作品『ゲロッパ!』(2003年)の現場に半ば押しかけるように見習いとして参加し、映画の世界へ。 その後、『パッチギ!』(2005年/井筒和幸監督)、『村の写真集』(2005年/三原光尋監督)、『雨の街』(2006年/田中誠監督)、『嫌われ松子の一生』(2006年/中島哲也監督)などの制作に参加。 2006年、大竹しのぶ主演『キトキト!』で初監督。『旅立ちの島唄~十五の春~』が公開中で、

Movie Data


(C)2012「旅立ちの島唄~十五の春~」製作委員会

『旅立ちの島唄~十五の春~』

●5月25日(土)より、
梅田ガーデンシネマ、神戸国際松竹
●6月22日(土)より、京都シネマ
にて公開

【公式サイト】
http://www.bitters.co.jp/shimauta/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161201/