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ホーム > インタビュー&レポート > 「東京と沖縄の文化がチャンプルーされている」 南大東島を舞台に健気な少女の成長を繊細に描く 『旅立ちの島唄~十五の春~』吉田康弘監督インタビュー

「東京と沖縄の文化がチャンプルーされている」
南大東島を舞台に健気な少女の成長を繊細に描く
『旅立ちの島唄~十五の春~』吉田康弘監督インタビュー (1/2)

 『グッモーエビアン!』の好演が記憶に新しい若手女優、三吉彩花の初主演作『旅立ちの島唄~十五の春~』が5月25日(土)より、梅田ガーデンシネマにて公開。沖縄本島から東へ360キロにある絶海の孤島・南大東島で生まれ、島には高校がないため、15歳で親元を離れて暮らさなければならない少女の“旅立ちの時”を描き出す。南大東島の現実を徹底的にリサーチし、感動のドラマを作り上げた吉田康弘監督に話を訊いた。

 

――まず、映画化の経緯からお伺いできますか?
 
「もともとは、プロデューサーがみつけてきたテレビのドキュメンタリー番組がきっかけなんです。南大東島の(実在する少女民謡グループ)ボロジノ娘のリーダーが卒業するまでを題材にした20~25分くらいの番組だったと思います。島には「アバヨーイ(八丈島の方言で“さようなら”の意)」という伝統歌があって、親への感謝の言葉を儀式的に歌って旅立っていく少女たちがいるということを題材にしたドキュメントでした。それを見て「あ、コレは絶対映画に出来る」と思いました。言葉にしなくても伝わる親子の情愛のようなものが台詞ではない表現で出来ると思ったし、母親が娘の髪を触るしぐさや父親がじっと黙ってみつめる眼差しが映画的だなと思ったのが始まりです」
 
――その後はどのように話を作っていったのですか?
 
「その番組では島のことについては何も分からなかったので、とりあえず島へ行きました。そうすると、沖縄の離島=南国の楽園というイメージとは全然違って。島がサンゴ礁で囲まれていて、海はすごく荒れていて、厳しい大地に人がへばりついて生きているようなイメージに変わりました。それで、ここで生きる小さな家族の話を丁寧に追ってみたいなという気持ちによりなりました」
 
――そんなに南大東島の海は荒いんですか?
 
「サンゴ礁が隆起して出来た島で、海が深くて浅くなってるのは岸の直前だけ。そこに船が入ると波に煽られるらしいんです。だから船が岸に近づけなくてクレーンで島へ降り立ついうことか知らなかったですし、島にビーチがないことに驚きました。那覇から13時間かけて島が見えるところまで来ても、島の際の波が高いと近寄れなくてそこに停泊して、それでも波がおさまらなければまた13時間かけて那覇に帰るんですよ。1週間に1便ですから、物資が降りなくて、島の商店のパンとか無くなってしまったり。それが年に何度かあるのがザラで。そういう島なんです」
 
――島ではどういう取材をしたんですか?
 
「まず、番組で見た民謡教室を訪ねて、映画にも出ていただいた先生にお話を聞きました。島を知れば知るほど、個性的な場所だなと思いましたね。石垣島にも行ったことありますが、全然違う文化があるし、八丈から流れてきた人たちが開拓した場所なんで、江戸の文化が結構あるんです。東京と沖縄の文化がチャンプルーされている。そういう島で東京から来た人間と沖縄の那覇から来たスタッフとで1本の映画を作ることが、すごく意味のあることなんじゃないかなとだんだん思えてきて、気合いが入りました」
 
――主人公は自分のこと以外にもたくさんの悩みを抱えていますがどのように主人公像を作り上げたのですか?
 
「実際、島の少女たちに「みんな出て行くの不安じゃないの?怖いでしょ?」と“本人の気持ち”を取材したんですが、返ってくる言葉は「もちろん不安だし心配だけど親の方が寂しいはず」と自分より親のことを心配していて。それが精神的な成長で健気だなと思ったんです」
 
――そんな少女たちが、旅立ちの儀式で歌う時は泣いてはいけないんですね。
 
「映画をもっと劇的にすることは出来るんですが、島唄を噛みしめながら歌うことは、自分の感情におぼれることなく歌ってる姿を島の人たちの目に焼き付けてもらうという意味で。あの歌を歌う少女たちの成長の証なのかな。あれを乗り越えることが伝統と先生が実際に教えてらっしゃいました。親に心配だなと思わせないで、この子を送り出して大丈夫だと思ってもらって出て行く。そのためには前を向いて泣かずに一生懸命、歌いきるんだよと毎年教えてらっしゃるんです」
 



(2013年5月27日更新)


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吉田康弘監督●1979年大阪府出身。同志社大学卒業。 なんばクリエイターファクトリー映像コースで井筒和幸監督に学ぶ。同監督作品『ゲロッパ!』(2003年)の現場に半ば押しかけるように見習いとして参加し、映画の世界へ。 その後、『パッチギ!』(2005年/井筒和幸監督)、『村の写真集』(2005年/三原光尋監督)、『雨の街』(2006年/田中誠監督)、『嫌われ松子の一生』(2006年/中島哲也監督)などの制作に参加。 2006年、大竹しのぶ主演『キトキト!』で初監督。『旅立ちの島唄~十五の春~』が公開中で、

Movie Data


(C)2012「旅立ちの島唄~十五の春~」製作委員会

『旅立ちの島唄~十五の春~』

●5月25日(土)より、
梅田ガーデンシネマ、神戸国際松竹
●6月22日(土)より、京都シネマ
にて公開

【公式サイト】
http://www.bitters.co.jp/shimauta/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161201/