ホーム > NMB48 安部若菜が行く! わかぽん落語道 > 特別編 桂春蝶さん・春風亭一之輔さん

 
 

 

Profile

安部若菜(写真中央)
あべわかな●2001年7月18日生まれ、大阪府出身。ニックネームはわかぽん。2018年、第3回AKBグループ ドラフト会議でNMB48・チームNに指名され、同年NMB劇場で公演でビュー。2020年、「NMB48 新春特別公演2020」で正規メンバーに昇格。チームMに所属。

公式サイト
http://www.nmb48.com/

公式Twitter
https://twitter.com/_wakapon_

桂春蝶(写真左)
かつらしゅんちょう●1975年1月14日生まれ、大阪府出身。実父である二代目桂春蝶の死をきっかけに、落語家になることを決意。1994年、三代目桂春団治に入門。2009年、桂春蝶襲名披露公演を全国で開催。同年、繁昌亭大賞爆笑賞受賞。2011年には東京に拠点を移し、活動の幅を広げる。2015年、上方落語家として初となるフェスティバルホールでの独演会を開催し、成功をおさめる。近年は「落語で伝えたい想い。」をシリーズ化し、『明日ある君へ~知覧特攻物語~』『約束の海~エルトゥールル号物語』『ニライカナイで逢いましょう〜ひめゆり学徒隊秘抄録』『業と行~わたしは千日回峰行を生きました』など命をテーマにした新作落語を次々と発表している。

公式サイト
https://shunchou.jp/

春風亭一之輔(写真右)
しゅんぷうていいちのすけ●1978年1月28日生まれ、千葉県出身。2001年、春風亭一朝に入門、前座名は「朝佐久」。2004年、二ツ目に昇進し「一之輔」と改名。2012年に真打昇進。2010年「初天神」でNHK新人演芸大賞受賞、「茶の湯」で文化庁芸術祭新人賞受賞など、数々の賞を獲得。気鋭の噺家として注目を集めている。『いちのすけのまくら』(朝日新聞出版)文庫版が4月7日発売。

公式サイト
https://www.ichinosuke-en.com/

Stage

『春蝶・吉弥と一之輔 三人噺』
チケット発売中 Pコード:510-581
▼4月4日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-4950円
[出演]桂春蝶/桂吉弥/春風亭一之輔
※未就学児童は入場不可。本公演は感染症対策を講じたうえで開催いたします。今後各種ガイドラインに基づき、開催内容に変更が生じる場合があります。政府または地方自治代の判断によるイベント収容率に基づき、販売座席を決定致します。前後左右を空けた配席ではなく、他のお客様が座られる可能性がございますので予めご了承ください。当日はマスク着用、咳エチケット、検温、手指消毒にご協力ください。公演中止など主催者がやむを得ないと判断する場合以外、チケットの払い戻しはいたしません。
※販売期間中はインターネットにて受付。店頭での直接販売はなし。1人1公演4枚まで。チケットは3/26(土)10:00より引取が可能となります。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888

チケット情報はこちら

今回の「NMB48 安部若菜が行く! わかぽん落語道」はちょっと寄り道。4月4日(月)に初めて開催される「MBSらくごスペシャル 春蝶・吉弥と一之輔 三人噺」に出演される桂春蝶さん、春風亭一之輔さんをお迎えして、上方落語と江戸落語の違いをお聞きしました。そのうち「舞台で使っていいよ!」と春蝶さんから免許皆伝をしてもらった「『時うどん』と『時そば』、麺の食べ方・東西比較」は動画でお楽しみください!

 

師匠直伝、そばとうどんの食べ方講座も急遽、開講!

安部若菜
(以下、安部)

今日はよろしくお願いします! この連載の読者の中にはまだ落語を聞いたことがないという方もいらっしゃると思うので、まず上方落語と江戸落語の違いを教えてください。

春風亭一之輔
(以下、一之輔)

まあ、標準語でやるか、関西弁でやるか…(笑)。

桂春蝶
(以下、春蝶)

僕も知らないんだけど、江戸落語って発祥は何なん?

一之輔

お寺のお坊さんの法話、あれだって言われている説もありますよね。大阪はあれでしょ。

春蝶

大阪は3つぐらい説があるんだけど、一番有名なのは谷町九丁目の近くに生國魂神社ってあって、あそこでね、米沢彦八さんっていう方が境内に座って、行き交う人の足を止めて面白い話をしてたらしいというもの。それって大道芸じゃないですか。大道芸だから、音を鳴らして注意を引いてから演じてたらしいのね。だから、上方落語には目の前に見台がある。江戸にはそれがない。上方は元が大道芸だからという歴史があるらしいですね。

一之輔

東京は見台はないですよね。台は置かない。

安部

何か音を鳴らしたいときはどうするんですか?

一之輔

基本、鳴らしたいときはないんだけど…(笑)、「くしゃみ講釈」とかね、大阪の噺ですけど、張りを入れてやりますよね。しょうがないからその時は自分の太ももを叩きます(笑)。だから太ももが真っ赤になるんですよ。

安部

痛そうですね。

一之輔

はい。あと、扇子も違いますわね、ちょっとね。

春蝶

ちょっとね、東京の方が細い、フォルムが。上方で使うものの方が少しだけ太い感じがします。

一之輔

上方は扇子も違う。笑福亭は舞扇を使うじゃないですか。白扇。

春蝶

白扇と言って披露宴とかで新郎さんが持っているような、紙がむき出しになってる扇子、あるでしょ。笑福亭はあれを使ってるケースが多いですね。

安部

一門によって違うんですね。

春蝶

着物とかもね、ちょっと違ってて。僕は割と東京に近いんだけど、上方の人は大きいくす玉みたいな羽織紐をつけてる人もいてるしね。あと、羽織にものすごく大きい紋つけてる人がいたり。

一之輔

基本はこれぐらいの大きさですね(と言って自身の羽織の紋を指す)。

春蝶

僕らもこれぐらいなんですよ(春蝶も同じく自身の羽織の紋を指す)。だけど昔の噺家さんはめっちゃ大きい紋をつけてますね。

一之輔

それは目立ちやすくってことですか?

春蝶

そう。目立ちたがりなのよね、上方の人は。少しでも目立とうとする上方と、なにかこう、粋に見せようとする江戸と背景が違う。

一之輔

根本はお客様の数が違うと思うんですよ。上方は道でお客さんを呼ぶってことは、不特定多数を引き込むじゃないですか。東京は、最初はお座敷芸とかだったろうから、8畳とかそのぐらいの広さのところに落語が好きな人が集まって聞こうみたいな。だからネタも自然とそういう噺になるし、発声の仕方も違うような気がします。

春蝶

上方には三味線、太鼓っていう「はめもの」があるのも、大道芸があったという背景がそこにあるんだろうなと思いますね。

安部

たとえば、上方は「時うどん」、江戸は「時そば」と、題名も違いますが、うどんとそばのすすり方に違いはあるんですか。

一之輔

では…「時そば」と「時うどん」で違いをやってみましょうか。

 

わかぽん、“アイドル落語”で悪態をつく!?

安部

ありがとうございました! では、東京と大阪で客層に違いはありますか?

一之輔

東京の方が若い人が多いかなというのと、落語会のバリエーションも多いと思います。「定席」といって常設の寄席小屋が4、5軒あって。あと、「こんな落語会やってみよう」とかって一般の人が結構、企画するんですよね。落語が好きな人が「うちのカフェを使って落語会をやる」とか。そういうときに呼ばれるのは入ってまだ10年目ぐらいの二つ目さんとかで。一方で、渋谷のど真ん中でやる「渋谷らくご」といって、春蝶お兄さんも出ていますけど、渋谷という街に集まってくるような、落語を見たことがないような人に向けたものもある。そこでは落語も古典ばっかりやるんじゃなくて、新作とかやって間口を広くしていたり。ただ、落語会の数自体が東京の方が遥かに多いですから、そういうふうに見えるんだと思います。これからですよね、大阪も。今だって若い人がたくさんいるので。

春蝶

メディアの数も多いでしょうしね、東京は。あと、『昭和元禄落語心中』というすごく有名になったアニメの声優の方と一緒にやってみたりとか。『昭和元禄落語心中』に出てきた落語のネタ、僕なんかも『たちぎれ』で出してもらったりしたけど、その時は東洋館という会場に約400名が来られて。チケットは30分ぐらいで完売しました。それも1500人ぐらい応募があったらしいです。チケット代も決して安くないんですよ。それでいて、お客さんは20代、30代の女性ばっかりという。そういう現象を見たとき、何かの企画で落語会をうまくプロデュースしてくれる人がいてるなという感じがしましたね。

安部

確かに「これちょっと(趣向が)変わってるから行きたいな」って思う落語会は大体、東京やったりしますね。

春蝶

わかぽんが落語をやってくれるだけで、今まで落語を知らなかった人が見に来てくれる可能性があるから、僕らからしたらすごくありがたいことなのね。どんどんやってね。今のそばとうどんの食べ方の違いとか、どんどんやっていいから!

一之輔

落語に興味を持ってもらうために、そのとっかかりになってくれる人がいるのはありがたい。まあ、甘えてちゃいけないけど。

春蝶

そうなんですよね。ただ、わかぽんと前の対談でお話したアイドルの気持ちを綴った創作落語、あれはずっと温めてますよ。アイドルの本音と建前を言うっていう。「CD10枚買ってくれたんですか!? うれしいです!」って言いながら、本音は「11枚買ってくれたらいいのに…!」とか。

一之輔

それ、わかぽんの客はみんな喜ばないよ。

春蝶

現時点では笑いになるかどうかはわからないんだけど、俺は面白いなと思ってる。お客さんはドン引きかな。

一之輔

まあ、薄々自分たちでもわかってるかもしれないですね。意外と喜びそうな。

春蝶

あえて言ったりすると、お客さんは本音で語ってくれたことに対してめっちゃ笑ってくれたりとか。

一之輔

落語という形を借りると何でも言えちゃうっていう。本音も…僕も本当はすごく謙虚な男なんですけど…(照)。

春蝶

言いながら照れるなよ(笑)。

一之輔

自分で笑っちゃった(笑)。僕は高座で悪態芸じゃないけど、いつも来る人がいたらね、「やることないんですか」とか、「落語を聞いてる場合じゃないですよ」とか、そういうとこからスーッと入ってくっていう枕のやり方を結構するんですけど、そういう悪態をわかぽんも舞台でやってね。

春蝶

落語という形で伝えたら、お客さんも「もっと言って」っていう感じになると思うんですよ。

安部

面白いですね。

春蝶

アイドルにしかできない落語に機会があればぜひトライしてみてください。

安部

はい!

 

言葉もダンスも腹に落とし込んで自分のものに

安部

では、創作落語の話になったので、その続きで、古典落語をされるにあたってのお話を聞きたいのですが、気になるのは「古典にそこまで手を加えていいのか」とか、そういう声はあるのでしょうか?

一之輔

まあ、言う人はいますよね。「そんな変えなくていいんじゃない」とかね、言われたことありますけど、でも自分のなりの基準があって。ここまではいいけど、ここから先は行っちゃダメっていう。なんつうのかな、それぞれ持ってる基準が違うと思うんですよ、古典をやる落語家は。

安部

そうなんですね。

一之輔

たとえば『青菜』だったら、暑いところというその風情を絶対出したいっていう人もいれば、「俺はそんなのどうでもいいんだ」と言って、「人の真似をしていい気持ちになりたいけど、失敗する愚かさを出したい」と思う人もいる。「私はその両方とも出したい」って人もいる。昔ながらのまんまやる人もいれば、「俺はバカバカしいところを攻めたい」という人もいて。いろんなやり方があるなかで、そういうテーマが自分の中にあればね、いいんじゃないかな。先人だって、変えて、変えて、今の古典になってるわけじゃない? あと、自分の言葉に合うように自分の腹から出た言葉でしゃべると、自然と変わってくるんですよね、落語って。覚えたものをしゃべるということをずっとやり続けてると、おのずと腹に入ってくるんだけど、やってるうちにどうしたって変わってくるじゃないですか。

安部

確かに…。

一之輔

そうなったら、こうやりたいなっていう自我をうまく生かしてやる。反れそうになる日もあるんです、自分の中で。そういうときは「俺の美学だとここは反れちゃいけない」っていうところで軌道修正して。でも、飛び出たところも面白いですよね、やってて。「あ、今日飛び出たな。踏み外したな」って思ったりしてね。これはすごく抽象的な話でけど。

 

――若菜さんは落語をされていて、自分の腹に落とし込んだ言葉が出るという感覚はありますか?

安部

ないですね…。

一之輔

あったら困ります(笑)。

安部

ただ、ダンスとか、覚えたてはぎこちなさがあったり、何も自分の味がなかったりするけど、ずっと踊ってる曲やったら、ちょっとこうしてみたいなってやってみたりします。

一之輔

勝手に動くっていう感覚ですよね。

安部

はい。やってて気持ちいい瞬間とかもあって。

一之輔

それが腹から出ているってことですよね。体に染みついている。

春蝶

今、わかぽんが言ったことが答えだと思う。自分でやってて気持ちがいいという。僕らで言うと、自分たちを面白がっているかどうか。面白がられるようなネタの作り、言葉の紡ぎ方になっているかどうかっていうことだと思います。

安部

ありがとうございます。

 

「三人噺」は落語界のセンターを狙うため?

安部

では最後に、「三人噺」についてお聞きします。今回、初開催ということですが、どういう会になりそうでしょうか。

一之輔

「三人噺」で春蝶師匠が『浜野矩随(はまののりゆき)』をやるんですけど、名人の二代目が開眼するという自分のバックボーンと重なるところがあると。そういう落語ができる人ってそうそういないですから、そういうところは今から楽しみですね。(舞台から)降りてきたら春蝶師匠を抱きしめてしまうかもしれない。あと、色気があるからね、春蝶師匠は。女性を演じても。この噺にはお母さんが出てきますけど、お母さんの儚さというのかな、息子を思う親の気持ち。その後ろには女性のしとやかさがあって…。楽しみだな! 高座に上がる前に1回抱きしめて「大丈夫だぞ」って言って。降りてきたら吉弥兄さんとふたりで挟み撃ちにします(笑)。

春蝶

ほんまやね!? 落語家ってキャリアがすごいある人、大御所で有名な人がたくさんいてるんですよ。その中で我々は、今、劇場とか最前線で一番戦い続けてる人たちなのかなと思う。吉弥くんと僕は上方やけど一門が違う。ましてや一之輔くんは東京。この3人というのは、わかぽんの世界で言うと「次のセンターに絶対立たなければならない人」なんですよ。年齢は全然違うけどね(笑)。

一之輔

え! 僕らってそうだったの!?

春蝶

たとえて言うならね(笑)。そういう3人なので、「三人噺」も次のセンターを狙うための会です。ダンスとか歌にしたって、何かの番組に出るということにしたって、次のセンター行きたい人ってすごい一生懸命でしょ? 汗かくでしょ?

安部

そうですね。ギラギラしてます。

春蝶

ギラギラしている。いい言葉、出ました。そういう、汗をかいて、一生懸命やる会になると思います。ですから、私達は「この噺家!」という意味でのセンターをこれから獲っていくんだよと…。今、無理やりこじつけようとしていますけど、大丈夫ですかね!?(笑)

安部

わかりやすいです。

春蝶

アイドルって命がけにならないと絶対、無理でしょう? そうしないとお客様を納得させることができないじゃないですか。お客様は目も耳も肥えてるし。僕らも戦ってるところはわかぽんと一緒だと思います。……年齢は全然ちゃうけどね(笑)。

一之輔

そんな変わんないっすよね!

安部

今、二十歳です。

一之輔

二十歳か…。大きくなって…ねぇ? あんな小さかったじゃない(笑)。

春蝶

(笑)、センターというのは「存在」ですよね。この人でこのチームは回っているんだっていう芯。ラジオ番組でいうとメインパーソナリティー。その人を中心に回していくんだと。そういう責任も持てる人ですね。NMB48でも、メインの人ってありとあらゆる責任を持ってる人やと思う。

安部

そうですね。自分が引っ張るぞって言う。

春蝶

そうそうそう。精神的支柱でなければならないでしょう。いろいろな要素が求められると思う。センターになる人って。人気だけではなく、いろいろなものがある人がなれるものだと思うので、「三人噺」もそこを目指す三人による落語会になります!

一之輔

…今、僕が思ってたことを全部、春蝶兄さんが言ってくれました! 一言一句、同じです!(笑)

 

取材:安部若菜
撮影:福家信哉
企画・構成:葛原孝幸/黒石悦子
文:岩本

 


 

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