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ベートーヴェン:序曲「コリオラン」 作品62 指揮/ピアノ…レオン・フライシャー |
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日本センチュリー交響楽団は第205回定期演奏会にアメリカのピアニスト・指揮者、レオン・フライシャーを迎える。レオン・フライシャーの名前はすでに伝説的といって良いかも知れない。10歳にしてアルトゥール・シュナーベルに才能を認められ、16歳でニューヨーク・フィルと共演。1951年にはエリザベート王妃国際コンクールで、アメリカ人としては初の優勝を飾った。だが順風満帆に見えた彼のキャリアは1960年代半ばに右手の麻痺によって絶たれる。それ以降の彼は治療と並行して、40年に近い歳月を左手のみの演奏家、指揮者・教育者として送ることになる。2004年にCD「TWO HANDS」をリリースし、両手による演奏活動を再開。以来、幾度か来日し、格調高いステージで多くの聴衆を魅了している。 レオン・フライシャーは、その苦難を数多くの実りある成果に結びつけてきた。右手の麻痺については、ラヴェル、プロコフィエフ、ブリテン、シュミットらの左手ピアノに作品に光を当て、自らのレパートリーとすることで。指揮者としてはボルティモア交響楽団の副指揮者をはじめ、数多くのオーケストラとの共演者として迎えられることで。そして教育者としては、カーティス音楽院、トロントの王立音楽院ほかで多くの後進の指導に当たることで。タングルウッドでの音楽監督としてのキャリアもそこには含まれる。 今回のプログラムにはザルツブルク時代のモーツァルトからウィーンのベートーヴェン、シューベルトへ連なる正統的な作品が揃う。ピアニストとしては遠くベートーヴェンの系譜へと連なるフライシャーにとって、故郷とも言える内容だろう。わけてもシューベルトの8番「グレイト」の演奏は、1928年生まれの老巨匠がたどり着いた境地を反映して、澄み切った美しさで聴く者を捉えるに違いない。 |
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11月20日(金)、3回目を迎える日本センチュリー交響楽団のハイドンマラソン。今回は「ハイドンの優等生たち」と題し、ポーランド出身のピアニスト、クシシュトフ・ヤブウォンスキを迎える。 「ハイドンの優等生たち」とは誰か?この日、採り上げられるのはベートーヴェンだ。演奏されるのは「ピアノ協奏曲第3番」。ベートーヴェンの作品を特徴づけるハ短調という調性で書かれた重厚な作品である。そこにはハイドン門下(!)のもうひとりの天才、モーツァルトからの影響もあるとされ、まさにハイドンを中心とした音楽家同士の作品を介した繋がりが見て取れる。 ハイドンと親密な関係を保ったモーツァルトに対し、ベートーヴェンはハイドンと折り合いが悪かったとする説がある。ベートーヴェンの傲慢、ハイドンの保身といった姿をそれらは伝えている。だが、初期の伝記作者たちが語るこうした音楽家たちの姿は、必ずしも彼らの実像ではないとする考え方が、近年、音楽学の視点から生まれつつあるという。今回、ハイドンマラソンに先立って行われた第3回ハイドン大學でも、その周辺の事情に触れる興味深い説が、音楽学者の大崎滋生氏より展開された。ベートーヴェンの並外れた才能を誰よりも鋭く見抜いていたハイドン。若いベートーヴェンに対し、適切な助言を与えようとしていたハイドンの姿がそこからは浮かび上がる。 気づきにくいことかも知れないが、21世紀の現代ほど、数多くのクラシック音楽が演奏されている時代はないのだ。様々な演奏は楽譜の出版・校訂の機会となり、それが刺激となって音楽学は過去の作曲家たちに次々と新しい光を投げかけていく。周辺の作品をまじえながら104曲の交響曲を完奏しようというハイドンマラソンは、まさにその最先端でもある。ヤブウォンスキとセンチュリーの演奏による「ハイドンの優等生」が残したピアノ協奏曲は、果たして何を語りかけてくることだろう。 |
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ルシオール(ほたる)の里として知られる滋賀県守山市。今回はその守山市民ホールで11月8日(日)に行われる第5回「ルシオール音楽塾」の話題をお届けします。 日本センチュリー交響楽団は、公益財団法人守山市文化体育振興事業団と守山市内での事業活動にかかわる協定を締結。「ルシオールまちかどコンサート」をはじめとする様々な演奏を行って来ましたが、この「ルシオール音楽塾」もその中のひとつ。クラシック音楽の楽しさを多彩な角度から味わうことのできる、お話と実演がセットになった講座です。ピアノのイリーナ・メジューエワさんとともに、センチュリーから松浦奈々(ヴァイオリン)、永松祐子(ヴィオラ)、渡邉弾楽(チェロ)、村田和幸(コントラバス)の弦楽器奏者が出演します。 今回のテーマは「シューベルト 社交と音楽」。愛知県立芸術大学の山口真季子さんを講師に迎えて、作曲家シューベルトの様々な姿に光を当てていきます。多くの歌曲を残したことで、「歌曲王」のイメージで語られることの多いシューベルトですが、実は意外と研究が遅れた作曲家でもあるのです。ここでは「社交」という言葉を切り口に、20世紀以降も変遷をたどるシューベルトの姿を紹介。ピアノ五重奏曲イ長調『ます』ほかの演奏とともに、その音楽の魅力をたっぷりとお伝えします。 「ルシオールまちかどコンサート」や「ルシオール音楽塾」への参加など、センチュリーと守山市の連携は、オーケストラが近隣の行政と一定の協定を結び、市民に音楽を届けていくというあり方の先駆的な形と言えるかも知れません。これからのオーケストラと行政の関係を示すものとしても注目しておきたい取り組みです。 |