ホーム > マンスリー・センチュリー > 第10回「1月 January」
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ポルカ『狩り』 作品373(1/15) 指揮:飯森 範親(日本センチュリー交響楽団首席指揮者) |
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2016年を迎える飯森範親と日本センチュリー交響楽団。第206回定期演奏会は、オープニングにヨハン・シュトラウスⅡ世のポルカを用意したニューイヤー仕様だ。ホルンやトランペットの活躍に、鞭の音まで加わってスピード感たっぷりに演奏される『狩り』(1/15)、そしてウィーンのゴシップ好きの人々をユーモラスに描いた『トリッチ・トラッチ・ポルカ』(1/16)。どちらを選んでも楽しいが、ふたつとも聴けばなお素晴らしい。ぜひ、お正月気分でお楽しみください。 そして今回の注目はなんと言っても、イザベル・ファウストの登場だ。現代最高のヴァイオリニストのひとりであり、実演、録音双方に、充実した活動を続ける演奏家である。彼女の演奏においては、高度な技巧も高い音楽性も、そのいずれもが決して突出することなく、ただひたすらに伸びやかで自然な表現へと昇華してゆく。曲はブラームスのヴァイオリン協奏曲。重厚な曲想から作曲者の真情を掬い取り、心の深いところにまで届く充実した響きを奏でてくれるに違いない。まさに聴き逃すことのできないセンチュリーとの共演となりそうだ。 メインプログラムはバルトーク晩年の傑作『管弦楽のための協奏曲』。全5楽章、交響曲といってよいほどの規模を持ちながら、各楽器の独奏楽器的な取り扱いや、室内合奏的な響きと全合奏が交錯する形式から「協奏曲」の題名が与えられた作品。近代的な曲想の中にバルトーク独特の民族音楽を解体したような響きが現れ、硬質な感触に貫かれながら、一方で鮮やかな色彩感を放つ。各楽器がバランスを変えながら絡み合う様子は、むしろ「競奏曲」の趣きがあり、ここでは飯森範親とセンチュリーが織り成す、スリリングなアンサンブルを楽しむことができる。 |
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アーティスト・イン・レジデンス、小山実稚恵が今シーズン2回目の登場となる「四季コンサート 冬」。タイトルに「王道」とある通り、充実のラインナップが用意された。開幕はヨハン・シュトラウスⅡ世の喜歌劇『こうもり』序曲。鳴り響く冒頭3つの音から、華やかなウィーン情緒に満たされる魅惑の作品だ。指揮はスコットランド出身のロリー・マクドナルド。イギリスでもっとも期待される若手指揮者にして、オペラ、コンサートの双方に精通する逸材だ。日本のオーケストラとしては、名古屋フィルに次いでの登場。その手腕が大きく期待される。 小山実稚恵を迎えた協奏曲はベートーヴェンの第5番『皇帝』。規模、編成ともにベートーヴェンのピアノ協奏曲の到達点を示す傑作である。『皇帝』という題名はベートーヴェンによるものではないが、颯爽として風格に満ちた曲想は、まさにその名に相応しい。文字通り「王道」の手ざわりに溢れた1曲だが、意外なことにセンチュリーとは数多くのステージを重ねる小山が、彼らの主催公演でこの曲を弾くのは初めてという。ロリー・マクドナルドの指揮、小山のピアノ、そしてセンチュリーの管弦楽。出会いの新鮮さと熟練の呼吸がまじりあう絶妙の情景に、新たな名演誕生の予感がする。 そしてドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』。年末のベートーヴェンと同様、新年の幕開けに数多く演奏される、これもまた「王道」の1曲だが、近年、研究が進むにつれ、鉄道ファンであったというドヴォルザークが描いた、リズムの面白さに光を当てた演奏も多く聴かれるようになってきた。第1楽章・第4楽章の迫力溢れる展開に疾走する機関車をイメージしてみるのも面白いかも知れない。もとよりアメリカ時代のドヴォルザークが、故郷ボヘミアへの郷愁を込めた旋律は今も多くの人の胸を打つ。ロリー・マクドナルドが引き出す、センチュリーの響きにも注目だ。以上、「王道」にして新しい発見の機会となりそうな今回の「四季コンサート 冬」。ぜひ、多くの人に足を運んでほしい。 |
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「ブラームス交響曲全集」に続く飯森範親、日本センチュリー交響楽団のCD第2弾、マーラー『大地の歌』がいよいよ12月18日にリリースされます。これは2015年4月10日、11日に行われた第200回記念演奏会をライブ録音したもの。ふたりの独唱者には福井敬(テノール)と与那城敬(バリトン)という日本を代表する歌手を迎えています。 「たくさん録音が残っている作品ですけど、果たしてヨーロッパの人に本当に中国の詩が理解できたのだろうかっていう疑問が常にありました。それで日本人による、東洋の視点からの『大地の歌』にアプローチしてみたいと思ったんです」と飯森範親。マーラーの交響曲にして、連作歌曲集とも見なされる『大地の歌』は李白や孟浩然などの漢詩をドイツ語に翻訳したものがテキストとして使われています。飯森マエストロは、「そこに描かれた自然の情景や無常観、永遠への憧れなどは、日本人として捉え直すことでもう一度、新鮮な風景となって現れるのでは」とも語ってくれました。また日本における『大地の歌』の録音は、過去に若杉弘(都響)、朝比奈隆(大阪フィル)のものなどがありますが、独唱に男声の組み合わせが選ばれたのは今回が初めて(マーラー自身はテノールとアルト(またはバリトン)と指定)。実演も印象的でしたが、CDとして繰り返し聴くことで、その新しい意味や価値に気づかせてくれるに違いありません。 「素晴らしいセンチュリーの演奏が収められています。まず音の鮮明さに驚いてください」とマエストロ。ぜひ多くの人に聴いてもらいたい、新しい『大地の歌』の誕生です。 |