ホーム > MONO 30周年特別企画『30Years & Beyond』 > 第25回『2008~2009年』土田英生
土田英生
MONO代表・劇作家・演出家・俳優
1967年愛知県大府市まれ。1989年に「B級プラクティス」(現MONO)結成。1990年以降、全作品の作・演出を担当。1999年『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞大賞受賞。2001年『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で第56回芸術祭賞優秀賞を受賞。劇作と平行してテレビドラマ・映画脚本の執筆も多数。2017年には小説『プログラム』を上梓。2020年7月、初監督作品『それぞれ、たまゆら』が公開。ドラマ『半沢直樹』(TBS系・日曜21時~)出演、舞台「感謝の恩返しスペシャル企画 朗読劇『半沢直樹』」出演。
映画『それぞれ、たまゆら』
監督・脚本:土田英生
原案:小説『プログラム』(河出書房新社)
京都・出町座 公開終了
東京・ユーロスペース 10月24日(土)~11月6日(金)
愛知・名古屋シネマテーク 上映予定
第25回『2008~2009年』土田英生
MONOの30年の道のりをメンバーや関係者の話から紐解く連載の第25回。
回を重ねるごとに、内容が多彩になっていく歴史編。
今回は客演を迎えた2公演と土田さんが外部に書き下ろした作品を中心に
2008〜2009年までのお話を伺います。
――前回は『その鉄塔に男たちはいるという』のニューヨーク公演のお話まで伺いました。今回は2008年『なるべく派手な服を着る』からお願いします。『地獄でございます』の時に、男5人で物語の展開を作るのはなかなか難しいと感じられて、その次の公演でもあります。
客演を迎えて総勢9名で上演した6人兄弟の話です。チラシのコピーにも書いたと思うんですけど、とにかく自分のコンプレックスをそのまま書いた作品ですね。自分の中では割と手応えのあった作品のひとつです。前回のことがあって「書けなくなっているのかも」と不安にかられていた時期だったんで、この作品を書き上げられたのはよかったですね。稽古も客演を久しぶりに呼んでやるっていうことで緊張感もあったし、久しぶりに作品に体重が乗ったなという実感がありました。
――男6人兄弟のうち、長男から4男までは4つ子。そしてその4人は末っ子の6男を異常に可愛がり、5男は常に家族から忘れられる存在という設定の作品です。そんな中、父親が危篤との報を受け、子供たちが集まる。そこに現れた5男は派手な服を着て、可愛い恋人を連れていて…というストーリーでした。ヨーロッパ企画の本多力さん、松田暢子さん、ピッコロ劇団の亀井妙子さん、それに山本麻貴さん(WANDERING PARTY/当時)が客演として参加されました。
客演の方は劇団員と同じ基準を持っている方に参加してもらいました。ヨーロッパ企画のメンバーに参加してもらったのは、同じ京都のひと世代下の劇団になるんですけど、面白かったし人気もあったのでもっとお近づきになりたいという野心もありました(笑)。ヨーロッパ企画のファンの方々も観に来ていただけたこともあって、久しぶりに動員も伸びました(笑)。
第35回公演『なるべく派手な服を着る』 2008年2月22日~3月2日 大阪・HEP HALL、3月6日~16日 東京・ザ・スズナリ
もったいなかったのは、うまく書ける自信が持てなかったので公演を大阪と東京だけにしてしまったことですね。「なんで、全国を回らなかったんだろうな」と後悔しました。この公演がいい感じだったので「次は全国を回るぞ」って決めてツアーを組んだら、次の『床下のほら吹き男』は台本で苦しみました。そういうものなんですよね。逆ならよかったんですけど(笑)。
ただ、『なるべく〜』の稽古中から本番にかけて、僕は『斉藤さん』(日本テレビ系・2008年1~3月放送)という連続ドラマを書いていたので、スケジュール的には無謀だったんです。連続ドラマと新作舞台を同時にやるって相当キツいはずなんですけど、そんなに苦しんだ記憶がないですね。『斉藤さん』も評判よかったですし。働き盛りでした(笑)。
――次は、うまく書けなかった三大作品のひとつ『床下のほら吹き男』です(2009年) 。山の斜面に経つ大きな旧家に暮らす4人姉妹はみんな隠しごとを持っている。ある日、家の中の見覚えのない通風口を見つけ、リフォーム会社が工事を始めると、床下から一人の男が現れて……という作品でした。
この台本の話はさっと済ませてほしいです(笑)。ただ、この作品の中で床下の男を演じた、水沼くんのキャラクターをはじめ、みんなの演技は今でも好きなんです。客演には前回にひき続いてピッコロ劇団の亀井妙子さん、それにこの時はヨーロッパ企画を退団されていた松田青子さん、さらに、山岡徳貴子さん(魚灯)、ぼくもとさきこさん(ペンギンプルパイルズ)に参加いただきました。メンバーも申し分ないですよね。申し分があったのは僕だけです。設定は決して悪くないんですよ。床下からほら吹き男が出てくるって、面白そうでしょ?(笑)
第36回公演『床下のほら吹き男』 2009年1月31日~2月1日 京都・京都府立文化芸術会館、2月6日〜15日 東京・吉祥寺シアター、2月19日〜23日 大阪・ABCホール
――この2009年には劇団青年座に『その受話器はロバの耳』、演劇集団円に『初夜と蓮根』と、いわゆる新劇系の劇団に2作を提供。さらに、福田転球×平田敦子÷土田英生『戸惑い男、待ち女』の作・演出、牧野エミ、楠見薫、中道裕子さんのユニット・タニマチ金魚『三日月に揺られて笑う』の作・演出もされています。
複数作品が同時に進んでいたので、MONOの舞台監督に青年座の芝居の小道具について質問しちゃったり(笑)、そういうことはありましたけど大丈夫でしたね。今、若い劇作家の方でそういうスケジュールで書いている人もたくさんいると思いますが、そういう時期を一度は通るもんだと思っています。でも、仕事の数って「貯金」して平均的にならないんですかね?(笑)
――『その受話器はロバの耳』とか『初夜と蓮根』は、新劇系の劇団の公演にしては斬新なタイトルですよね。
そうですね。新劇系の劇団に最初に書いたのが『崩れた石垣、登る鮭たち』(2001年・文学座)だったんですけど、「タイトルが長い」って言われたのは覚えています。
――『初夜と蓮根』というタイトルはもう凄すぎます。
これ、いいタイトルですよね(笑)。内容もよかったと思います。リフォームしたばかりの家が舞台で、家族がご飯を食べながら何気ない会話をしていると、もうすぐ結婚する長女が「お父さんとお母さん、セックスしたことあるの?」と聞いてくる。その娘のひと言から、いろんな騒動が巻き起こり…という話で、映画化もされました(2013年)。映画では風間杜夫さんと麻生祐未さんが夫婦を演じ、市川由衣さんが娘役でした。
――次の公演は特別企画vol.4『チェーホフを待ちながら』(2009年)です。『チェーホフは笑いを教えてくれる』(2003年・特別企画vol.2)の改訂版ですね。
改訂版と言っても、2003年の作品は女性の俳優がいたので、今回はそれを男5人にして、前回公演の内容にベケットの『ゴドーを待ちながら』の設定を入れました。チェーホフを待っている男5人という設定にして、その間にチェーホフの短編(初期の一幕物『熊』『煙草の害について』『結婚申込』『余儀なく悲劇役者』)をベースにした内容を入れ込んでいます。劇団の20周年企画として公演し、文化庁の賞をいただきました(第64回文化庁芸術祭賞優秀賞受賞)。
MONO特別企画vol.4『チェーホフを待ちながら』 2009年10月21日~25日 兵庫・AI・HALL
取材・文/安藤善隆
構成/黒石悦子