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水沼 健(みずぬまたけし)
1967年10月25日生まれ。愛媛県出身。
立命館大学在学時、劇団の旗揚げに参加。その後、劇作家・演出家としての活動も開始。2004年に結成したユニット・壁ノ花団第1回公演『壁ノ花団』で第12回OMS戯曲賞大賞を受賞。その他、近年の活動に壁ノ花団『スマイリースマイル』『ニューヘアスタイルズグッド』『ウィークエンダー』(作・演出)など。近畿大学文芸学部教授。
MONO『その鉄塔に男たちはいるという+』
【三重公演】
チケット発売中 Pコード:498-535
▼3月1日(日)14:00
四日市市文化会館 第2ホール
一般-3000円 22歳以下-1500円
※22歳以下チケットは入場時に要証明書提示。
【福岡公演】
チケット発売中 Pコード:494-909
▼3月7日(土)14:00/18:30
▼3月8日(日)14:00
北九州芸術劇場 小劇場
全席指定 一般-3500円
学生(小~大学生)-3000円(当日、要学生証提示)
※有料託児サービスあり、詳細は北九州芸術劇場[TEL]093-562-2655まで(公演7日前までに要申込)。
【東京公演】
チケット発売中 Pコード:498-963
▼3月13日(金)19:00
▼3月14日(土)14:00
▼3月15日(日)14:00
▼3月16日(月)14:00
▼3月18日(水)19:00
▼3月19日(木)19:00
▼3月20日(金・祝)14:00
▼3月21日(土)14:00/19:00
▼3月22日(日)14:00
吉祥寺シアター
指定席 一般-4200円
25歳以下-2000円(当日要身分証)
ペアチケット-7600円(2名分/座席指定引換券)
※ペアチケットは公演当日会場にて座席指定券と引換え。
【作・演出】土田英生
【出演】水沼健/奥村泰彦/尾方宣久/金替康博/土田英生/石丸奈菜美/高橋明日香/立川茜/渡辺啓太
※未就学児童は入場不可。
第20回「ACTOR’S HISTORY⑩」水沼健
MONOの30年をメンバーや関係者の話から紐解く連載の第20回。
今回は、水沼健さんに俳優としてだけではなく、演出家、劇作家としても活躍するその視点と
MONOの作風について語っていただきました。
――水沼さんは、演劇を演じる側だけじゃなく、作る側にも目線が向いています。
そもそも、「演出も楽しいかも」と2000年の少し前くらいから思ってはいたんです。それと同時に、俳優としては上がり目がないなと(笑)、……というか自信を失い始めていて。そんな時、決定的なことがありました。『夏の砂の上』(作・松田正隆 演出・平田オリザ 初演1998年。1999年5月 京都市北文化会館 創造活動教室。松田は本作で読売文学賞受賞)の金替さんの演技を観て、「これはもう私は(役者としては)無理だな」と思ったんです。彼がすごすぎて。金替さんはもう「向こう側の人」で、自分は踏み込めない領域に入ってるなと思いながら見てました。それで役者としてすっかり自信を失ってしまったんです。
で、『夏の砂の上』を観てそんな気持ちになっていたのですが、公演後の飲み会に参加させてもらったときに出演者である金替さん、内田(淳子)さんと、メイシアターの古矢(直樹)さんと僕が同席で飲んでいて。役者二人は羊団というユニットで公演をしていた(第1回公演『Jericho』作・松田正隆 演出・水沼健 1998年3月 ウイングフィールド)メンバーでもありました。その時、古矢さんに「(羊団の)次はやらないんですか?」って聞かれて。「やりたいですけど…」というところから、2回目の公演(『水入らずの星』作・松田正隆 演出・水沼健 2000年11月 メイシアター)をやらせてもらうことになりました。俳優としては自信を失ってしまったそのあとの飲み会で、また演出のチャンスをいただいて、不思議な縁を感じましたね。
――演出は何が魅力ですか?
発見できることですかね。文章の中から、錬金術じゃないんですけど芝居の核になるような言葉や感覚を見つけて読み替えることが自分にとって演出の楽しさだと思うんです。それは役者とは違う全体的な経験というか、ひとりの役者としてでは経験できない発見のようなものだと思います。それができることが自分の演出家としての武器だと思ったし、それを『水入らずの星』では意識的にできるようになりました。人から見たら大したことじゃないかもしれませんが、俳優たちにはそれが伝わったんじゃないかなと思ったし。だからこの時期は僕にとっても重要な時でした。
――そのあと2004年に壁ノ花団を結成されることになります。
演出は好きだったんですけど、羊団の場合、役者が二人だけなので二人芝居しかできない。4回目くらいになるともう「手がないぞ」と(笑)。で、たまたま3回目の公演で松田さんにお願いできなかったこともあって、自分で書いたんです。(『むずかしい門』作・演出 水沼健 2002年 アトリエ劇研 第4回AAF戯曲賞佳作)。その時、書くのも嫌いじゃないなと思ったし、羊団の二人じゃなくて、若手を数人集めてやってみようかと思ったのが壁ノ花団を始めたきっかけです。羊団は2年に1回くらいやってて、そこに壁ノ花団を立ち上げてしまって、2年ごとにどちらかをやらなくてはいけないから、キリのいいところで「どちらかひとつにするか」と。
――戯曲はどのように書かれているんですか。
とりあえず頭から順番に思い付いた言葉を連ねるような書き方をしています。書いてみて使えそうなところを残して、そうじゃないところを消してまたそれから思いつた言葉を連ねるという書き方をしていますね(笑)。
――話を劇団の方に戻します。土田さんがロンドンから帰ってこられた、2004年以降の公演についてお聞きしたいのですが、例えば、尾方さんは『相対性浮世絵』に思い入れがあるとおっしゃっています。
2004年以降は、男5人でやる気楽さがありましたね。公演があると「いつもの家に帰ってきた」って感じがしましたから。その頃の作品に対しては、多分世間的な評価はそれなりに高いものがあったと思うんですけど、劇団内では、男だけの同好会的な雰囲気もありましたね。土田さんは作品を発表するっていうプレッシャーがあったと思うんですけど、内側はいつになく穏やかな時期がその頃はあったんじゃないかと思います。
――それが作品にも反映されていますよね。ところで近年の土田さんの作風についてどう思われているかお聞かせいただけますか。
技術的にはすごく多彩な世界が書けるようになっているし、着目する題材もすごく面白いものになっていると思います。横に広がっていく部分と核となるターゲットに向けて書いている部分を両立させているのはすごいなと思います。
――この30年変わったとしたら一番何が変わったと思いますか。
それは、正直わからないですね。まったく的外れな意見になるかも知れませんが、土田さんが調子のいい時は“拡大”していく感じがあったんです。その先には多分M.O.P.のような劇団があったと思います。ただ、そのあとはM.O.P.がやるような大劇場じゃなくて、もう少し小さい劇場でこそ、MONOが作り出す表現の強みを発揮できるんじゃないかと、土田さんが思ったんじゃないかなと思います。拡大していく感覚がどのあたりで止まって、空間的に小さい方向の作品に向いていったのか。その本当のところは土田さんに聞かないと分かりませんが、もしかするとロンドンから帰ってこられた頃なのかもしれません。「M.O.P.じゃないんだ」と僕たちも感じるようにはなりました。それがひとつの目標ではあったと思うんですけど、あそこまで大人数にすると、こだわりを捨てないといけない。そのこだわりを捨てなかったんですね。となると空間的には小さい方に乗った方がいいじゃないかなという転換をどこかで土田さんはしたんだと思います。
いい時期は、多分、M.O.P.と松田(正隆)さん・鈴江(俊郎)さんの両方を追いかけていたんだと思います。M.O.P.と。M.O.P.みたいに「東京に行って、俳優も個々に売れて」みたいなことを理想にしたうえで、作品性も追求していく。でも劇団内の事情-僕たちがなかなか東京に行かないこと-でM.O.P.のようなフォーマットを諦め、松田さんのような文学性にも行かないところで劇団の特性を出して作品を作りだしていく。結果的にはそれで自分たちが進む道がはっきりして、その考えが作品の中でも核になっていったような気がしますね。だから以前の拡大していく意識の時代とは違う作品になっているし、今もその線上にあると思います。
――新メンバーについてもお聞かせいただけますか。
たぶん劇団に対する危機感みたいなものが、土田さんと僕たちの間には温度差があったんじゃないかなと思います。それまでのように5人でやっていくことはいつまでも続かないだろうなとは思っていたんですけどね。ゲストをいつまでも呼んでくるというのも、あまり理想ではないなとは思っていたんです。だから僕は5人だけでやる公演とゲストを呼ぶ公演を交互にやっていくのがいいのかなと思っていて、新しいメンバーを入れるという発想が僕にはなかったので、その案を聞いたときは驚きはしましたね。でもさっき言った劇団に対する危機感という意味でも土田さんの話しを聞いて「ああこれは入れた方がいいんだな」と思いました。あと東京で動けるグループが東京にもあっていいんじゃないかというのは納得できる。そっちの方が劇団としての幅も広がるだろうなと思いました。
――最後の質問です。これもみなさんにお聞きしていますが、なれるとしたらメンバー中の誰になってみたいですか?
いろいろ考えたんですよ。立川(茜)さんですかね。やりたいことをすぐ行動にできる人。ムーミンが好きだと言ってフィンランドに留学するとか、やったこともないのに急に演劇のワークショップに参加するとか。すごいですよね。考えていることと行動が一致している。僕にはそれがないので、羨ましいなと思いますね。
取材・文/安藤善隆
撮影/沖本 明
構成/黒石悦子