ホーム > 劇団 石塚朱莉 > 第5回 丸尾丸一郎さん(前編)
丸尾丸一郎(写真左)
まるお まるいちろう●大阪府出身。2000年に劇団鹿殺し旗揚げ。劇団鹿殺し第四回公演『愛卍情』(2001年)以降、全作品の脚本を手がける。ラジオドラマの脚本・演出のほか、映画脚本提供・出演、ドラマ出演など活動は多岐にわたる。2014年から始めた丸尾が作・演出を手がけるOFFICE SHIKA PRODUCEでは、Coccoや鳥肌実らを迎えた舞台が話題に。SOPHIA/MICHAELの松岡充との新プロジェクト“OFFICE SHIKA PRODUCE VOL.M”が始動を発表、2017年秋には舞台「不届者」の上演も決定。2017年5月5日(金・祝)にはNHKラジオ第1、NHKワールド・ラジオ日本にて作・演出を担ったラジオドラマ「罪男と罰男」がオンエア(午後3:05~4:55)。
公式サイト
http://shika564.com/
石塚朱莉(写真左)
いしづかあかり●1997年7月11日生まれ、千葉県出身。ニックネームはあんちゅ。NMB48チームBII。趣味は映画鑑賞。2016年夏、悪い芝居の『メロメロたち』で初舞台、初主演を果たす。2017年4月、悪い芝居『罠々』に出演。
公式サイト
http://www.nmb48.com/
劇団鹿殺し
「電車は血で走る」「無休電車」
Pコード:458-377
サンケイホールブリーゼ
全席指定-5900円
ヤング券-3500円(整理番号付/22歳以下/公演当日要年齢確認証)
[作]丸尾丸一郎
[演出]菜月チョビ
[音楽]オレノグラフィティ/入交星士
[出演]菜月チョビ/丸尾丸一郎/オレノグラフィティ/橘輝/鷺沼恵美子/浅野康之/近藤茶/峰ゆとり/有田杏子/椙山さと美/メガマスミ/木村さそり/矢尻真温/野元真佳/前田隆成/常住富大/須田拓也/オクイシュージ/川本成/小澤亮太/美津乃あわ/今奈良孝行
「電車は血で走る」
▼6月23日(金)19:00
▼6月24日(土)14:00
「無休電車」
▼6月24日(土)19:00
▼6月25日(日)14:00
※ヤング券は公演当日劇場受付にて指定席券と引換え。
通し券あり
Pコード:786-691
※チケットは2作品有効。
※公演当日、劇場受付にて2公演分の指定席券と引換え致します。
[問]キョードーインフォメーション
[TEL]0570-200-888
2016年7月、京都の劇団・悪い芝居の『メロメロたち』に出演し、女優として初舞台を踏んだNMB48の石塚朱莉さん。役者としての第一歩を踏み出したばかりの彼女が、さらなる高みを目指すべく、脚本家や演出家など演劇界の諸先輩方に「演劇のいろは」をお聞きします!
今回ご登場いただいたのは、劇団鹿殺しの劇作家・俳優で、プロデュース公演などでは演出もされる丸尾丸一郎さん。不器用にしか生きられない人たちが、圧倒的な熱を放ちながら、泥臭くも逞しく前を向いて進む様を、ダンスや歌、楽隊による演奏などでエンタテインメントに魅せる鹿殺し。関西から東京へ進出し、着実に前へと進み続ける先輩に、劇団のこと、作品作りのこと、演技のことなど、いろんなお話を聞きました。
劇団の温かさ
石塚
劇団鹿殺しさんは16年目に突入したんですよね。丸尾さんは旗揚げからずっといらっしゃるじゃないですか。これまでの15年、いかがでした?
丸尾
たくさんの人が通り抜けていったな!っていうイメージ(笑)。
石塚
入れ替わりがたくさん(笑)。
丸尾
そう、僕ら入れ替わりが激しくて。だから土田英生さんのMONO(第1回)とか、旗揚げメンバーでずっとやっているからめちゃくちゃ羨ましい。僕らは旗揚げからのメンバーっていったら、座長の菜月チョビと、僕。あと入交星士っていう音楽担当もいるんだけど、今デンマークに留学中だし。たくさんの人が通り抜けていったから。
石塚
そうなんですか。
丸尾
辞めた劇団員がいるから、辞めてなるものか!って思ったというか。今は少し、辞めた団員に「ありがとう」って言える心の大きさを持てるようになった(笑)。
石塚
私、劇団ってすごく羨ましいなって思うんです。
丸尾
悪い芝居に出たときはどうやったん?
石塚
やっぱり憧れましたね。劇団員同士の信頼感とか安心感があって、コンビネーションがすごく良いように見えて、羨ましくて。一つの作品に向かって、みんなが一緒に進んでいるから、劇団いいな~!って。
丸尾
温かいのは分かる。でもそこが小劇場の甘いところっていう気もせんでもないかな。競争心がないというか、“自分一人でやってやるぞ!”っていう気持ちとか、劇団員じゃなくて俳優になるぞっていう、そういう強い気持ちがないとね。“劇団員”になっちゃうと幸せになれないんだよね。
石塚
え、そうなんですか!
丸尾
「自分は一人でやっていく。だから劇団をうまく使ってやる」っていうくらいの気持ちがある子の方が、劇団員として残っていってる気がするかな。でも劇団に温かさを感じるのは分かる。以前、石崎ひゅーい君っていうソロミュージシャンに鹿殺しの公演に出てもらったときに、彼が柔軟体操しながら感極まっていて。
石塚
えっ、なんでですか!?
丸尾
ソロって孤独でしょ。一人でやって。ライブのたびにメンバーを集めたとしても、お疲れさまでした!って解散するし。2ヵ月も人と一緒にいて、同じ目的で集まって、一緒に体操して、シアターゲームをしたりするっていうことに、家族みたいって。
石塚
あ~、確かに。私も同じことを感じました。
端役でも存在感を残す
石塚
劇団員のキャラクターってどうですか?
丸尾
今はチョビと俺が16年で、その下はオレノグラフィティっていう子がいて。彼は19歳で大学を辞めて鹿殺しと一緒に上京して、12年目くらいになるのかな。だから、若頭って呼ばれてる。僕らが怒る前に若手を呼び出して怒っているイメージ。
石塚
やっぱり全員のキャラクターというか、いいところや悪いところも分かりますよね。その方々の個性とか、作家として作品に乗せたりされますか?
丸尾
それはこの何年かでやっと意識してきたことかな。ちょっと前までは、劇団員をどう使おうというよりは、自分の作品を書くことを大事にしていたと思う。鹿殺しって何役も早替えをするっていうのが名物やったりするんやけど、どの子をどう使うっていうのは単純に考えてなかった。当て書きなんかしたことがなかったし。
石塚
あ~、そうなんですね。
丸尾
でも、最近になって考え始めて。それもすごくシビアなことを言いながら当てていくんだよね。お前は主役になるタイプじゃないし、なれないし。なれないんだったら、せめてここで活躍しなさいって。僕自身も商業の舞台に出たときに、端役でも存在感をしっかり残すっていうところから仕事をしていかないといけない人だったから、劇団員にもそれは言っていて。主役じゃなくても、自分の仕事をしっかりしている人が僕はカッコいいと思う。出番の多さじゃなくて、たった10分でもお客さんに強い印象を残せたら、その人が仕事したことになるだろうし、逆にチャンスかもしれないしね。
石塚
確かに。
丸尾
だから劇団員に対しても、主役じゃなくてもしっかり存在感は示せるよっていうことは言ったりしますね。
石塚
出番の多い少ないにかかわらず、役のキャラクターを立てた方が、印象を強く残せる。
丸尾
そうそう。舞台の主役って本当に一握りで、大きな現場になればなるほど限られた人になっていくよね。つまり、舞台人の多くは主役じゃない人の役をやるわけです。そこで、いかに仕事をしていくかということの方が将来につながる。みんな“いつかは主役をしたい”って思っているけど、20代後半でまだ鹿殺しの劇団員をやっている限り、主役にはなれない。だから端役でもいいからしっかり仕事をするっていう俳優力というか、その大切さは最近特に言っているかもしれない。
舞台の空気を変える
石塚
自分の役割っていうのはどういうことを意識したらいいんですかね?
丸尾
僕が一緒にやりたいなって思う人は、出た瞬間に舞台の空気が変わる人。
石塚
あ~、存在感。
丸尾
例えば、青いシーンが続いているときに、この人が出てきたらオレンジ色になる、この人が出たらパープルになる、この人が出たらピンクになるっていうふうに、ガラッと舞台の空気や匂いを変えられる人。お客さんに違う印象をポンと与えられるほど他人に対して影響を与えている人、っていうことがすごく重要だと思う。ブルーの中にブルーが入ってきて、ブルーをどんどん濃くするっていう新しい方法論もあるかもしれないけど、まず基本としては、自分が出てきたことによっていかにシーンの空気感を変えるかっていうことは、考えていった方がいいんじゃないかな。
石塚
どうしたらいいんですかね…。分からないんですよね、それが全然。
丸尾
まず一つは、前の人と違う声を出すことだと思う。舞台はほとんど声なんですよね。だから、前の人と一つでも高く違う声で入ってみる。それはすごくファーストインパクトがあるんじゃないかなっていう気がする。だから僕の場合は、モニターでもいいんだけど、舞台上の声を聴くことをしています。で、それまでの5分とか10分はこういう流れで進んでるから、自分はこう出ようっていうのは、その日によって多少調整することもあるかな。
石塚
声質ですか?
丸尾
その前までの流れといかに違うトーンで入ってくるか。前のシーンからの流れもあると思うし、自分が与えられた役柄にもよるだろうし。起承転結を考えろとも言うね。どんな端役でも、舞台の中の起承転結のどこの役割を果たすかということと、そのキャラクターの起承転結を絶対持って出るようにって。
石塚
あ~、なるほど。
丸尾
落ち込んだところから、ラストは“頑張ろう!”って思ってハケたらいいけど、“なんかやらなきゃな”って言いながら最初と最後で変わらなければ、お客さんは観る価値ないよね。だからその役柄が何かしら成長する、何かしら結論を導き出すというか、そういうことを自分なりに見せないとね。脚本家は全員分の起承転結を書くなんてことはできないことが多いから、役者が間をしっかり想像して埋めていくというか。それが役者の仕事でもあると思う。
脚本と演出の仕事
石塚
プロデュース公演では脚本も演出もされていますよね。一度本を完成させてから演出をつけるのか、それとも同時進行で書きかえながらやっていくのか、どちらですか?
丸尾
僕は結構分離している方だと思う。まずは完全に作家として書く。舞台美術ももちろん考えているし、こういう演出方法でいこう、ここはこういう色のシーンだなっていうことは全部考えているけど、稽古場に入ったら役者と3~4日間しっかり読み合わせした上で、台本に手を入れていくし、演出方法もこの方がいいかなって変えていったりするかな。
石塚
ガラッと変えたことってありますか? 半分くらいまで書き終えたけど、一回ゼロにして、役とかは残したまま、また一から書き直すとか。
丸尾
僕の場合はないかな。というのは、作家より、舞台は演出家の役割の方が強いと思うから。どんなに面白くない脚本ができ上がってきたとしても、演出家がどうするか、しっかり考え抜いたら面白いものになる気がするんだよね。だから、自分が脚本と演出をする場合、脚本を書き上げたら、脚本家としてはもう終わり。稽古場に入ってからは、演出家として台本にチェックを入れることはある。それは、こっちの言葉の方がいいなとか、メッセージが伝わりやすいなとか、こっちのセリフの方が面白いなっていうレベルで変えるくらい。
石塚
次の公演で、『電車は血で走る』と『無休電車』を再演するじゃないですか。それを上演するにあたって変えようと思う部分はありますか? 初演から今までで、いろいろ感じてきたこともあると思うのですが。
丸尾
読んでいて、これは要らないなと思うところはチェックはしてある。ただ、それは稽古場で提案していこうかなと思っていて、演出家のチョビと稽古場で一緒に話し合って進める方がいいんじゃないかなっていう気がする。この作品は、当時自分が感じたことが一番強く出ている作品だから、それに対して今の僕が手を入れすぎるというのは、下手にうまさばかりが出てしまう可能性もあるんだよね。だから、作家としてというよりは、劇団鹿殺しの一構成員としてこの作品に向き合うっていうレベルかな。
石塚
メンバーもガラッと変わったから、新しく今回やるメンバーとも話しながら…。
丸尾
そうだね。今はすごく楽しみで、自分の成長を確かめられる機会でもあるし。さっき、退団したメンバーに「ありがとうっていう気持ちがある」って言ったけど、やっぱり彼らがいた頃よりも必ず面白いものにしてやるぞ!っていう気持ちはすごく強い。それだけに今は、2作同時に上演することに対して、やる気がみなぎっています!(笑)。
第5回(後編)は5月中旬更新予定です。
取材:石塚朱莉(NMB48)
撮影:奥田晃介(松鹿舎)
文:黒石悦子
企画:葛原孝幸
企画・構成:岩本和子
取材協力:オフィス鹿