稲川淳二(写真左)
いながわじゅんじ●1947年8月21日生まれ、東京都出身。タレント、工業デザイナー、怪談家。工業デザインでは「グットデザイン賞」を受賞したことも。怪談ナイトは1993年8月13日、稲川淳二、池田貴族、大川興業、他が出演したクラブチッタ川崎での『川崎ミステリーナイト』が発端。1995年には『MYSTERY NIGHT TOUR 1995 稲川淳二の怪談ナイト』と銘打ち初の"怪談"全国ツアーを開催し、以来、その規模を少しづつ拡大しながら夏の定番イベントとして定着している。2019年11月17日(日)には『イナフェス!~稲川淳二 KWAIDAN フェスティバル 2019』を開催。稲川淳二の怪談の魅力の再発見と、稲川怪談に影響を受けた若手エース怪談師たちの活躍ぶりを楽しめるイベントになるという。
石塚朱莉(写真右)
いしづかあかり●1997年7月11日生まれ、千葉県出身。ニックネームはあんちゅ。NMB48チームM。趣味は映画鑑賞。2016年夏、悪い芝居の『メロメロたち』で初舞台、初主演を果たし、2017年4月、悪い芝居『罠々』に出演。9月、劇団アカズノマを旗揚げ。2018年4月、柿喰う客の七味まゆ味を演出に迎えて、同劇団の人気作『露出狂』をABCホールにて上演。2019年1月~2月には第2回公演『夜曲 nocturne』(作・横内謙介、演出・七味まゆ味)を大阪、東京で上演した。
NMB48公式サイト
http://www.nmb48.com/
『MYSTERY NIGHT TOUR 2019
稲川淳二の怪談ナイト』
【大阪公演】
チケット発売中 Pコード:641-939
▼8月22日(木)・23日(金) 19:00
全席指定-5500円
▼8月24日(土)・25日(日) (土)16:00 (日)15:00
全席指定-5500円 立見-5500円(整理番号付)
森ノ宮ピロティホール
[出演]稲川淳二
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888
【滋賀公演】
チケット発売中 Pコード:641-995
▼10月5日(土) 16:30
守山市民ホール 大ホール
全席指定-5500円
※未就学児童は入場不可。
[問]ジョーカンチケットセンタ
■077-535-9001
[問]守山市民ホール■077-583-2532
アイドル活動のかたわら、自らの劇団「アカズノマ」を旗揚げし、劇団公演も2回、成功させるなど舞台人としてさらなる高みを歩んでいるNMB48の石塚朱莉さん。連載「劇団 石塚朱莉」では、毎回、脚本家、演出家、俳優として活躍する諸先輩方に「演劇のいろは」をお聞きしています。
今回は怪談でおなじみの稲川淳二さんにご登場いただきました! 1993年にクラブチッタ川崎で初めて『川崎ミステリーナイト』を実施し、大好評。翌年には同会場にてオールナイトで5時間のワンマン単独公演を成功させました。そして1995年からは怪談による全国ツアーという異例のイベントを完遂。それ以来、怪談ナイトは夏の定番イベントとして定着し、大型のロックフェスに出演されたことも。石塚さんとの年齢差は50歳と、大先輩の稲川さんに怪談ナイトについてはもちろん、“リアクション芸”やMCの極意についてお聞きしました。
稲川淳二が“石塚朱莉にだけ”説くリアクションの極意
稲川淳二
(以下、稲川)
今すごいの。裂傷って割けるの指が。血だらけになっちゃって。まいっちゃう。祟りなんです…。
石塚朱莉
(以下、石塚)
ええ!?
稲川
女の幽霊なの。ある夜にね、机に向かって仕事していたんだけど、気配がしたの。だから「いるんでしょ? 出てきなさいよ」って言ってイスから立ち上がったらちょっとバランスを崩して。わ~ってなった瞬間、女の幽霊の胸をつかんじゃったの。そしたらスーって消えたんだけど……それ以来、これですよ…!!
石塚
フ~っ!! ……私、リアクションがわざとらしいといつも言われるんですけど、リアクションってどうしたらよいでしょう? 難しいですよね。
稲川
リアクションというと、何かやられるのを待つ人もいるじゃないですか。相手がやってくれないとリアクションってできないよねと言う人がいるけど、それは違うと思う。どういうことかというと、相手に何かさせるのがリアクションなんですよ。相手がしてくれるのを待つものじゃないんですよ。歩いている時、私が急に壁に張り付いたら、私の顔を叩いてみたくならない?
石塚
バシーン、バシーンって。
稲川
リアクションってね、誘うんですよ。自分のいいように。それを誘わないで何かされるのを待って「イテテテ!」じゃダメなんです。私は元祖リアクション芸人なんて言われていますけど、かつてはリアクション芸人なんて言葉はなかった。ダチョウ倶楽部の上島くんにも教えましたよ。どういうことかというと、熱いところに手を突っ込んで「アチ!」じゃダメなんです。熱いお湯かなんかに手を入れるでしょ、そしたら一瞬、間があって「アチチチチ!」なんです。箱の中に手を入れたときも、触れた直後に間を置く。リアクションはタイミングなんですよ。それを考えるのに私は苦労したね。それでリアクション芸人と言われた。一つの芸を極めるのに、そうだね、35年はかかったね(笑)。
石塚
えぇ!! 私、まだ35年も生きてないんです。
稲川
これからこれから。そうすると一つのことができる。私はその芸を極めるために、家族はいるけど家庭はないんだから。大変なの、これが(笑)。でもね、騒げる人は騒いだらいい。騒げない方が寂しいんだから、物事は。できる子はやったらいいです、リアクションは。嘘っぽくならないように。リアクションは持ちあげるような感じでする。ある意味、ヨイショですよ。相手を持ちあげながら「怖いですね、すごいですね」って言ったら、相手はもっとしゃべる。褒める、持ち上げる。これは私の極意だから絶対、人に言っちゃだめよ。あなただけに言うんだから。褒めて褒めて褒めたおして、相手を身動きさせないくらい褒めたおすの。これを「ヨイショのグレコローマン」って言うんですよ。
石塚
覚えておきます!
稲川
これは誰にも教えないですよ。今、あなただけですから。私がやっているのは、ヨイショのグレコローマンと、こわ面白い、こわ楽しい。怖くて楽しい。そういう褒め方もあるからね。そしたらね、あの子はいいね、わかってるねってなるから。
MCがうまくなるには?
石塚
なるほど…。もう一ついいですか。公演のMCでストーリーを組み立てるのが難しくて。怪談って組み立てが命じゃないですか。そのコツを今回、お聞きしたいのですが。
稲川
ああ、なるほど。私は声が悪いしさ、こういう状況なんだけども、ストーリーというよりも絵なんです。頭に浮かんでいる絵を話しているだけなんです。たとえばね、暗いところを通るじゃないですか。ふと見上げると「藍色の深い空が」ってそれぐらい言えばいい。きれいでしょう。「ぼんやりした霧の向こうに」とか。ただ暗いとか、ただ霧があるって言うのではダメなんだけど、絵を浮かべれば言えるようになりますよ。たまに間違う人もいるけどね、見たまんま言って失敗しちゃったとか、ありますよ。人間ってね、褒めたり、状況をしゃべっても、嘘はバレるもんな。嘘になったらいけないじゃない。だから堂々と言いきっちゃえばいいんです。自信に満ちていると言葉が本物に聞こえる。こうだったかもしれない、ああだったかもしれないじゃなくて、こうだった、ああだったが一番いいんですよ。過ぎた話でも、「こんなことがあってね」と、今自分が見ているように話すと楽しいですよね。司会って初めからうまい人なんていないからね。司会といえば小堺一幾さんですが、あの人がすごいのは聞き上手なんですよ。私が怪談を話したときに、その怪談の続きを言ったんですよ。「それじゃあ稲川さん、今度はこうなりますよね」って。私、ドキッとして。考えてもみなかった。この人はなんて深く見るんだろうと。下手な司会者はしゃべりすぎるんだよね。相手が黙っちゃうと、一生懸命しゃべっちゃうの。
石塚
確かにそうですね、しゃべらなきゃ、しゃべらなきゃって思ってしまいます。
稲川
小堺さんは相手が安心してしゃべれるんですよね。聞き上手だから。聞くっていうこと、周りを見ておく、イメージする。
石塚
聞いたことをちゃんとイメージする。
稲川
そうそうそう。司会がうまいからってしゃべりも完璧かというとそうでもないですよ。司会がうまい人に「淳ちゃん、しゃべり方教えてくれない?」って言われましたよ。司会だと、ちゃんとあるものを紹介したりするからあれこれ言えて、状況を説明できるけれども、漫談はできないんですよ、結構。だから自分の得意な方にもっていくことと、絵を浮かべる。はなからうまい人はいない。
石塚
情景を浮かべて…。
稲川
そうすると落ち着くもんですよ、人間て。
石塚
それを話す。
稲川
そうですそうです。
怪談ナイトを動かしているのは…
石塚
怪談ナイトは毎年どんな感じでされているんですか?
稲川
怪談ナイトをプロデュースしている方が、たまたま27年前に怪談をやろうと。川崎のクラブチッタというライブハウスがあって、1回目やって。2回目があって。私の他にも何人か出演者がいたんだけど、私が怪談をいっぱい持っているものだからどうしても私が出ちゃうんです。そうしているうちに、全国ツアーをやりませんかというお話をいただいたんです。歌ならわかるけど、怪談でツアーなんてありえないじゃない。でもそれがきっかけで始めて、何年かしたらだんだん軌道に乗ってきて。始めのころから舞台セットはすごかったですよ。
石塚
お写真見せてもらいましたが、立派ですよね。
稲川
圧倒されますよね。シャンデリアも本物なんですよ。私の下に敷いてあるのはペルシャじゅうたん。ペルシャじゅうたんってレンタルがないんですよ。本物だから。それで、プロデューサーがじゃあ買おうかと言ったとき、すでにセットでもって2億8000万かかってるのに、じゅうたんでもって1億5000万かかったんですよ。
石塚
えー! 本当ですか!?
(スタッフ 嘘ですよ)
稲川
そんな値段しないです(笑)。でもセットはいいものでした。不思議なのが、話のイメージに合わせてセットを作るんだけど、5月から作り始めないとツアーに間に合わないんですよ。でもギリギリまで話の内容が決められないから、セットはセットでやってもらって、私は私で怪談の制作を進めるんだけど、出来上がったセットはちゃんと、その年の話とピタッと合うんですよ。これが不思議だね。
石塚
毎回、稲川さんのイメージはあるんですか?
稲川
もうイメージはないですね。初日が開くまで見ないです。初日で、ああ今年はこんな舞台なんだって思うし、実はスタッフも初日まで私の話を知らないんですよ。音響さんも、照明さんもみんな、初日の本番でポーンと合わせてくるんですよ。それと背景なんだけど、「何年か前のセットで、稲川さんの後ろに見えた湖がすごくよかった」って何人もに言われたことがあるんですよ。でも知らなかった、そんなふうに演出されてるって。舞台美術の名人がいて、その方に発注するんですがね、その方は本物みたいな空を描くんです。雲も。照明を当てたら、雲が動いて見えて、月が動いて見えるんですよ。みんな圧倒されるわけです。私の舞台って緞帳がないんですよ。会場に入るとセットがもう、見えていて。たとえば水車小屋、これは本当に水を流してるの。これは迷惑したね~。ざーっ、ギーッ、ドン!って水車が回る音にみんな気が取られちゃって。これね、ある会館では水を流せなかったんですよ。どうしたかというと、アルバイトを何十人も雇って、バケツリレーを1時間半。そうやって水を流したんです。
石塚
へー!
稲川
きれいな景色のなかにある旧家のじいちゃんだったり、西洋館のじいちゃんだったり、怪談ナイトでは、私は田舎のおじいちゃんなんです。西洋館は17世紀のイギリスの家の作りなんですよ。私が若いころに、5年くらいイギリスに行ったとき、そういう家でお世話になったんですよ。
(スタッフ いや、行ってないですよ)
稲川
うん。
石塚
……はははは…!
稲川
つい嘘を言うんです(笑)。
石塚
でも素敵です。
稲川
そうでしょう。みんな本物なんです。いつも私が舞台に出ると「座長~!おかえり~!」なんて言われていて。
石塚
そういう声援があるんですか?
稲川
そう。初めて見るマスコミの人なんかは、「本当に怪談ですか?」なんて聞くんだよね。楽屋でもみんな、うるさいくらい騒いで笑ってますよ。それですごいのは、27年間やっているのに、いまだかつて1回も失敗がないんですよ。音響さんでも、照明さんでも。
石塚
それはすごいですね!
稲川
わけがあるんですよ。「私が悪いんじゃないですよ。本番中、スイッチ入れようと思ったら誰かが手を引っ張った」とかね、「見ようと思ったらなぜか目を押さえられて見えなかった」とかね、失敗してもみんな幽霊のせいになっちゃうんですよ、うち。だからいまだ失敗がない。
石塚
幽霊が作っているんですね!(笑)。今年はどんなお話をされるんですか?
2019年の怪談ナイトはどんな話?
稲川
今年はもう、去年の86倍くらいおもしろい。
石塚
86倍!
稲川
どういうことかというと、私は「怪談は70歳を過ぎてから」ってずっと言ってたんですよ。45歳からツアーを始めて、10年経って55歳の公演を終えたときに、本気で怪談をやろうと思ってタレント業を辞めたんですよね。怪談をやっている時にいろんなものが見えてくるんですよ。状況や状態が。で、自分の人生の上で節目がほしいと思った時に、70歳を過ぎてからじゃないかなぁと。40代、50代だとまだ脂っぽいというか、生々しいんですよ。でも70歳を過ぎると枯れてきて欲望がなくなるんですよ、あんまり。そういう時になってくると、割と余裕を持って見られるんですよね。今年は元号も変わって、令和になったじゃないですか。今年の話というのは、歴史にならない歴史を話そうかと。
石塚
歴史にならない歴史…?
稲川
いい話があっても、当事者同士が亡くなってしまったら消えてしまう。体験した人間が死んでしまうと忘れ去られちゃうんですよ。残らない歴史ってあるじゃない。それを感じたのが、高校のクラス会で。それは毎年5月にあるんだけども、60歳を過ぎてから始まったのね。ちょうど60歳の時に母校で講演を頼まれたんですよ。その時、友達が来てくれて。それでクラス会をしてないよなと気が付いて、急遽始まったんですけど、クラス44人中、もうすでに7~8人が亡くなっていたんですよ。もっといるかもしれない、連絡取れない人もいる。ただ、話をしているとうれしいのは、高校時代なんて半世紀以上昔なのに、みんなの頭の中には古い校舎がちゃんと頭にあるんですよ。廊下もわかるし、においも、先生もみんなの頭の中にあるわけだ。古いパン屋とか、食堂とか、どこに何があるか、みんなの頭に残っているんですよ。だから半世紀以上経って今はもうない校舎、今はもうないお店がみんな見えていて、今はもういない人のこともみんな浮かんでいるんです。でも我々が死んでしまったら、もうすべてなくなっちゃうんですよね。そういうことで、今年は、特攻を見送った女学生の話をしようかなと思ってます。たまたま終戦記念日に出た新聞に記事が出て。その記事というのは、ある女性が終戦記念日にある特攻隊員にもらった白いマフラーを巻いて空に向かって話しかける話なんです。これは何かあるなぁと思って調べたら、話の破片があった。これはね、すごくいい話なんですよ。でも、歴史にならない歴史。だったらこれを私が残していかないといけないなと思ったんです。それと、怖い話というのはさ、真っ暗闇とか、濃い霧とか、暗いじゃない。でもそうではない話も用意してるんですよ。まるでカゲロウの向こうに浮かぶ輪郭のような、セピア色の風景っていうのかな。この話を聞いてくださった方は自分の人生をオーバーラップさせるんじゃないかと思うんです。
石塚
確かに…。
稲川
塗り絵って枠の中に自分の色を塗るじゃない。今年、私はその枠、輪郭だけを提供しようかなと思います。これって冒険なんです。だって怖くないんですよ。だけど不思議なことがひとつあるんです。だから、どっちかというと映画『E.T.』のような怪談です。他にもあるんだけども、もうひとつは、サスペンスに近い話です。誰でもあり得る話なんですよ。ある瞬間、たまたまあることを知って、ん?と疑問を持ち始めたらだんだんと話が暗転していって。男の人が仕事の関係でしばらく住むことになった二軒長屋。隣は空き家なんですけど、ピカッ!と稲光が光って空き家の窓に人の影が映る。自分のようで、自分じゃない。そこに何かがいる……。それは生きているのかもしれないし、死んでいるものかもしれない、そういう場面から始まるんですよ。これは怖くて怖くて、私、話をまとめながら、ま~チビったね。だから今年は、皆さん、ハンカチ何枚かとパンツを2~3枚持ってきた方がいいね(笑)。
石塚
わかりました。私も何枚か用意します。
稲川
えらい。履き替えるのが恥ずかしかったらおむつでもいいよ!
取材:石塚朱莉(NMB48)
撮影:森好弘
企画・構成:葛原孝幸/黒石悦子
文:岩本