ホーム > 劇団 石塚朱莉 > 第16回 子供鉅人 益山貴司さん(前編)
益山貴司(写真右)
ますやまたかし●1982年4月11日生まれ、大阪府出身。劇作家、演出家、俳優。子供鉅人のほとんどすべての作・演出を行う。作風は作品ごとに異なり、静かな会話劇からにぎやかな音楽劇までオールジャンルにこなす。一貫しているのは「人間存在の悲しみと可笑しさ」を追求すること。NODA・MAPの『ザ・キャラクター』(2010年)、『南へ』(2011年)、『エッグ(再演)』(2015年)ではアンサンブルキャストとして活躍。
子供鉅人公式サイト
http://www.kodomokyojin.com/
石塚朱莉(写真右)
いしづかあかり●1997年7月11日生まれ、千葉県出身。ニックネームはあんちゅ。NMB48チームBII。趣味は映画鑑賞。2016年夏、悪い芝居の『メロメロたち』で初舞台、初主演を果たし、2017年4月、悪い芝居『罠々』に出演。9月、劇団アカズノマを旗揚げ。2018年4月、柿喰う客の七味まゆ味を演出に迎えて、同劇団の人気作『露出狂』をABCホールにて上演した。
NMB48公式サイト
http://www.nmb48.com/
劇団子供鉅人『ハミンンンンンング』
▼5月26日(土) 13:00/17:00
▼5月27日(日) 13:00/17:00
クリエイティブセンター大阪(CCO/名村造船所跡地)
一般3500円 学生2000円 高校生以下1000円
※マーケットイベント「KITAKAGAYA FLEA」の入場料込み。
[脚本・演出]益山貴司
[出演]キキ花香/益山寛司/影山徹/億なつき/ミネユキ/山西竜矢/古野陽大/うらじぬの/地道元春/益山貴司
※未就学児童の入場不可。
※学生チケットは入場時に要学生証提示。
2016年に京都の劇団・悪い芝居の『メロメロたち』で初舞台を踏み、2017年に上演された同劇団の『罠々』でも稀有な存在感で魅せたNMB48の石塚朱莉さん。演劇の魅力を広く伝えるべく、自ら劇団アカズノマを旗揚げし、柿喰う客の七味まゆ味を演出に迎えての旗揚げ公演『露出狂』も大盛況に終えました。そんな石塚さんが、舞台女優としてさらなる高みを目指すべく、脚本家、演出家、俳優として活躍している演劇界の諸先輩方に「演劇のいろは」をお聞きします!
今回は、劇団子供鉅人を主宰する益山貴司さんとの対談をお届けします。2005年に益山貴司、寛司兄弟を中心に大阪で結成され、2014年より東京に拠点を移して活動。劇場での本公演の他、カフェ、ギャラリー、ライブハウスでの公演、さらには役者や観客が移動しながら物語をつむいでいく“ツアー型演劇”、芝居しながら実際の家を解体していく“文化住宅解体公演”など、さまざまなスタイルで演劇の可能性を追求されています。5月に東京、大阪で上演される本公演『ハミンンンンンング』は、大阪を舞台にした、やるせなくも明るい父娘の物語。関西弁による“少しばかりのミュージカル”として上演します。劇団主宰として個性溢れる劇団員をまとめる益山さんに、東京の自宅兼事務所にて、劇団や演劇への思いについて伺いました!
家族的な劇団“子供鉅人”
益山貴司
(以下、益山)
ごめんなさいね、自宅まで呼び立ててしまって。ここは自宅兼うちの劇団の事務所でもあるんやけど、弟(=益山U☆G)なんか「家にNMB48来んの!? どういうシチュエーション!?」みたいな感じで、まぁ家族一同喜んでおります(笑)。
石塚朱莉
(以下、石塚)
いえいえ、今回はありがとうございます! 実は私、子供鉅人さんのことはいつもインスタグラムで拝見していまして…。
益山
おっ! それこそうちの弟が頑張っているやつ。あの子、インスタ担当やから。
(※U☆G嬉しそう)
益山
ほらほら、笑ってる。めちゃくちゃ勉強しとったからね。どうすればインスタ映えするかって。
石塚
本当におしゃれだし、じっくり見たくなるし、すごいなぁって。過去公演の振り返りとかもありましたよね?
益山
うれしいな、そんなんまで見てくれてんの? 演劇ってひとつ終わってしまうと、振り返るってことがなかなかないからね。
石塚
“子供部屋”(ライブハウスで行う、劇団員のみの短編演劇集)とかお花見とか、イベントにも力を入れていらっしゃいますよね。あとみんなで旅行に行っていたり! ああいう写真を見ると、劇団ってすごく楽しそうだなって思います。
益山
それはよく言われる。“劇団”という括りが減ってきている中で、子供鉅人みたいな家族的な劇団ってものがちょっと珍しくなってきているって。典型的な“劇団感”というかね。ホンマの家族(※劇団員の貴司、寛司、U☆Gは実の兄弟)もおるし。
石塚
私はそれが羨ましいなって思うんです。うち(アカズノマ)は私だけが劇団員なので。
益山
そもそもなんで芝居なん? 歌とかダンスではなく。
石塚
以前NMB48の先輩がミュージカルに出られていて、それを付き合いで観に行ったんです(笑)。でもその時、お芝居のすごさに気がついて。この気持ちはいろんな人に知ってもらわないとダメでしょ!と思って、演劇を始めました。
益山
それは頼もしいわ。演劇界って下手したらマニアックな人ばっかりやから。あなたみたいなアイドルの人がそんなふうに考えてくれるのはホンマにうれしい。
演劇で社会を明るく
益山
劇団の座長としてはどういうふうになさりたいんですか? というか、そもそも歳はなんぼ?
石塚
20歳です。今年成人式でした。
益山
まだ20歳なん!? もう芝居なんかやめとき。なんでこんな修羅道に足を踏み入れるかな(笑)。
石塚
私、よく駅とかでおじさんに暴言を吐かれるんですけど…。
益山
えっ、ユー?
石塚
ミー(笑)。一度みぞおちを殴られたこともあって…。
益山
えっ、えっ、わけがわからん!
石塚
そういう時に私、「はぁ!?」っていう気持ちよりも、すごく悲しい気持ちになっちゃうんです。その人にとってはすごく嫌なことがあったのかもしれないけど、それを見ず知らずの若者に吐き出しちゃうってことが悲しくて。そういう人たちが一瞬でも楽しめる、そんな世の中をつくっていきたいと思っているんです。
益山
おお、せやな…。そんなおじさんは普通に減ってほしいもんな(笑)。
石塚
ええ。悲しいし、痛いし…。その人たちを演劇という別世界に連れて行くことで、楽しい時間を過ごしてもらえたらなって。
益山
まぁそのためには、我々自身が面白く生きないとあかんよね。
石塚
そうですね。例え自分の中に嫌なことがあったとしても、ステージに立っている間だけはとにかくお客さんと楽しむ! そう心がけていきたいです。
益山
なるほど~。あなたの劇団っていうのは、社会を明るくする運動やねんな(笑)。
石塚
はい、明るくしたいです!
応援したい存在になる
石塚
益山さんはなんで劇団を立ち上げられたんですか?
益山
始まりは高校演劇やね。もともと映画とかが好きで、物語をつくることも好きやったから、同級生に「脚本書けへん?」みたいなことを言われて、「えー、脚本? ええよ」みたいな(笑)。そういうベタな展開になって、実際やってみたら面白かったと。で、大阪で劇団を立ち上げて、2014年に東京に出てきて。
石塚
上京された理由は?
益山
やっぱり劇団って、チームとして応援してもらわないといかんと思うわけ。そうじゃないと惰性でやってしまうから。で、そのためにはまず自分たちが頑張んなきゃなと思って東京に出てきて。そういう意味では、我々劇団からしたらアイドルがライバルやんか。
石塚
確かにそうかもしれないですね。
益山
劇団ってアイドルに比べたら応援しにくいもんな。システムようわからんし。アイドルは握手会とかあるけど、我々劇団がファンとのつながりをどう表面化していくか。それはさっき言ったお花見とかのイベントであったり、いろいろ工夫はしてんねんけど。
石塚
『組みしだかれてツインテール』(2015年)かな。すでに子供鉅人って劇団があるのは知っていたんですけど、その公演の宣伝を、本屋さんかどこかでされていましたよね? その時のビジュアルにすごくインパクトを受けて、ちょっと怖くもあるけど、観てみたいなって興味を持ったんです。なんかそういう宣伝の仕方って、演劇初心者には優しいなって。
益山
そうやってどんどん間口を広くしていかんとね。どんどんこっちからアピールしていくことが大事やと思う。
開演3分が勝負
石塚
前作の『チョップ、ギロチン、垂直落下』(2017年)で初めて子供鉅人さんの芝居を拝見したんですが、オープニングの段階で、これは2時間楽しめる!って確信したんです。お芝居ってオープニングで2時間付き合えるか、そっぽ向いちゃうかが決まると思うんですけど、『チョップ~』はもう序盤で涙が出るくらい感動して!
益山
えっ、どの部分が?(笑)
石塚
最初にライバル同士のふたりが出てきて、そこからだんだんオープニングダンスの流れになりますよね? そこで「私はこんな演劇が観たかったんだ!」って涙が…。
益山
ありがとう。それはぜひ大きい声で言ってほしいわ(笑)。蜷川(幸雄)さんも「開演3分が勝負」やって言ってはるしね。
石塚
本当にそうだと思います。もうその後はどこをとっても面白いし、ずっと観ていたくなるし。客席の笑い声もすごくて。
益山
私は芝居の中に笑いがないと耐えられへん人間やから。
石塚
笑いがないと辛くなっちゃいますよね!
益山
そう、笑って!ってなる。でもホロっときちゃうっていうのも大好きやから、笑いと涙が一体になっている感じが一番かな。
石塚
あと印象的だったのが、影山(徹)さんがレフェリー役をやっている時、セリフを言ったと同時に汗もビュンって飛んだんです。それがすごくきれいで!
益山
ハハハ! 影山喜ぶわ。
石塚
なんか汗が芝居しているというか。世の中にはすごい役者さんがたくさんいるなって思い知らされました。
益山
芝居って特に、人間性の戦いになってくるもんな。だから上手い下手ももちろんあるけど、燃焼してるか、してないかっていうのを、やっぱり私は見てしまうかな。
石塚
私、個人的に熱意のある役者さんが好きなんですけど、『チョップ~』はどこを見ても“足りてる”って感じがしました。
後編に続く。後編は5月中旬更新予定です。
取材:石塚朱莉(NMB48)
撮影:福井麻衣子
企画:葛原孝幸
構成:黒石悦子
文:野上瑠美子