2016年7月、京都の劇団・悪い芝居の『メロメロたち』に出演し、女優として初舞台を踏んだNMB48の石塚朱莉さん。役者としての第一歩を踏み出したばかりの彼女が、さらなる高みを目指すべく、脚本家や演出家など演劇界の諸先輩方に「演劇のいろは」をお聞きします！

記念すべき第1回は京都の劇団・MONOを主宰し、劇作家・演出家・俳優として活動する土田英生さんにご登場いただきました。ひと癖ある人たちが、絶妙な間と軽快なテンポで会話を繰り広げ、笑いの中に人間の悲哀を潜ませて見せる作風で人気の土田さん。石塚さんが生まれる前から演劇をされている大先輩から、役者をするうえで大事なことを教えてもらいました！

分かりやすいけど、深いもの

石塚

土田さんが作品を作るにあたって、いつも一番大事にされていることは何ですか？

土田

何だろうね…。常にエンタテインメントにしようとは思っているかな。エンタテインメントって“飽きずに観られるもの”という意味だと思うから。

石塚

お客さんがドキドキできるもの、ですね。

土田

観る人を選ばない作品を作りたいなと思うから、中学生くらいでもストーリーは分かるようにしてる。ただ、大人が観るともっともっと深いところまで感じられるもの。間口は広いけど、あるところに触れるとすごく奥まで行けるような作品だから、お客さんによって見え方が違っていいと思ってます。

石塚

年代によっても感じるところが変わるんですね。

土田

中学生が観たら「あの人が性格悪くて面白かった！」くらいでいい。でも、いろんな経験を重ねた人が観たら、また別の見え方がするようなね。

石塚

そのために、何気ない会話の中にもいろんな仕掛けが施されているんですね。

土田

なるべく簡単に深いことを書きたいと思って書いているかな。物語が分からなくならないようにするけど、分かりやすいだけの浅いお芝居にならないように、今自分が感じていることをきちんと書こうとしているのは、どの作品にも通じると思う。

石塚

まだ『ぶた草の庭』しか観ていないですが、すごく分かりやすいし面白かったです！

土田

ありがとうございます。狙い通り！

土田

石塚さんまだ19歳でしょ？

石塚

そうです。今いろいろお聞きしていても、お芝居難しいな～って思います。

土田

でも楽しいんでしょ？

石塚

めちゃくちゃ楽しいです！

土田

楽しかったらそれでいいよ。ちょっとずつ経験していったらいいやん。

石塚

演出家さんや役者さんもそれぞれ色が違いますよね。

土田

そうやね。でも芝居のタイプが違っても、大事にしていることは一緒だったりするからね。そこが見えてくるようになると、実はそんなにたくさん覚えるべきことってないの。それと、自分と合わない演出家さんも分かってくると思うから、そこは選んでいけばいいと思うよ。今まで何作品出てるの？

石塚

まだ1回だけです。

土田

とりあえず、いい作品を5本くらいやってみようよ。そうすると今分からないこともすごく見えるようになるはずだから。

石塚

いい舞台ですか。

土田

自分が好きなお芝居とか、いい演出家さんとかね。周りに聞いたら大体分かるから。前回舞台やってみてどうだったの？

石塚

会話の間とか、先ほど仰っていた呼吸の仕方とか、立ち居振る舞いとか、学ぶことがすごく多かったですね。難しかったですけど、充実していました。

土田

普段NMB48でやっていることにもつながることはあるでしょ？

石塚

ステージに立って見せるという点ではつながりますね。

土田

一緒だもんね。もっとお芝居に慣れて視野が広がったら、NMB48の活動の中でもお芝居につながる発見があるかもしれないし、どんどん意識しながらやっていったらいいと思う。

土田

あとね、本を読んだり映画を観たり、なるべく他の表現をしっかり見るのも大事。僕は小説が一番いいと思う。

石塚

あ～、活字ですね…。

土田

うん、活字の中でも小説ね。自分の人生ってそんなに何種類も体験できないけど、表現の良さっていろんな人生を体験できることでしょ。いろんなことを知りたいと思うんだったら、他の表現に触れることはとても大事だと思うよ。

石塚

人の感情をいろいろと読み取れる作品ですね。

土田

そういうものにたくさん触れると、大分幅が広がると思う。本はあまり読んでないでしょ？

石塚

絵本で止まっているんですよ…。

土田

大分早い段階で止まってるね（笑）。若い人たちには、まず名作と言われている古典を読むように言ってきたけど、本を読み慣れてないと難しいかも。だから、例えば宮部みゆきさんのミステリー小説とか、先が気になる作品がいいと思う。まずは飽きないものを読んで本に慣れてきたら、古典と呼ばれる本に進むのが一番いいかな。

石塚

いろんな本を読むのが大事なんですね。

土田

そう。まずは本を好きになること。移動中にスマホいじるのを本にするだけで全然違うから。何で本を読むといいかというと、戯曲を読めない人が多すぎるの。役者さんって、どうしても演じることばかり考えてしまうんだけど、戯曲を読んでこの場面はこういう心情だなということが自分なりに解釈できていないと、稽古場で演出家さんに言われたことが理解できなくなるから。

石塚

そうですよね。

土田

演出家さんが何でこういう指示を出しているか、それが理解できていないと薄っぺらい表現にしかならないからね。だから戯曲は読めた方がいいし、そのためには本が読めるようになっておかないとね。

石塚

確かに、私も前回本が読めなさすぎて…。

土田

今日は結論的に「本が大事」というのが一番かな。まずは文字に慣れよう！

石塚

じゃあ、帰りに本を買って帰ります！

石塚

今日はありがとうございました！　すごく優しいし、分かりやすく教えてくださって。近所のおじさんのような…（笑）。

土田

それよく言われる！（笑）

石塚

よくみかんをお裾分けしてくれるような感じがします。最初は緊張しましたが、親しみやすくて安心しました。

土田

僕はね、石塚さんの内側にある影が意外と透けて見えたかな。明るいしすごく一生懸命だけど、元気満々の19歳という感じではないなと。だから演劇に引かれるのかなとも思った。でもそういう自分をダメだと思わないで、受け入れていってほしいなと思う。特に、アイドルっていう華やかなお仕事をしているから、そういうところを上手に出しにくいじゃない。でもそれを上手に出すことができたら面白くなるだろうし、自分の中の暗い部分も大切にしてあげてねって思う。僕も外では明るく振舞っているから「いつも元気ですね」とか「悩みなさそうですね」って言われるんだけど、一人のときはめちゃくちゃ暗いので。そういう好感があったなぁ。

石塚

（悪い芝居の）山崎さんにも同じようなことを言われました（笑）。一人でいる時間が多いんだなっていう印象を受けたって。

土田

うん。でもそれは悪いことじゃないからね。せっかく一人でいるんだったら、天井を見ている時間で本を読んだらいいよ。

石塚

そうですね。その時間で本をたくさん読みます！