ホーム > NEWS > 桂米紫、3度目のサンケイホールブリーゼ独演会で『百年目』に挑む
3月22日(日)、大阪・サンケイホールブリーゼで「桂米紫独演会」が開かれる。2024年の芸歴30周年を機に初めて同劇場で独演会を開催して以降、3年連続となる。桂米紫は「サンケイホールブリーゼは独演会の中でも一番気合いが入る」と並々ならぬ意気込みを語る。
前身のサンケイホールの時代から桂米朝が独演会を開催してきた、米朝一門にとって特別な場所だ。ネタ選びも特別な意味合いが宿る。今年は『無精床』、『餅屋問答』、そしてトリネタに古典落語の大ネタ『百年目』を披露する。
『百年目』に初挑戦する米紫、その理由をこう話す。「30周年の独演会では気合を入れまして、『柳田格之進』という約50分のネタをトリで出しました。中入り前には『宗論』と『厩火事』という自分の得意ネタで、1回きりやと思って、思いっきりやりました。翌年も独演会をやらせていただけることとなり、『らくだ』という約50分の大ネタを出しました。さあ今年はどうしようかと。それで『百年目』を選びました」。
『百年目』も米朝が得意としたネタだ。堅物で知られる船場の商家の一番番頭が、花見の場にいるところを大旦那に見つかり、もはやこれまでと覚悟するも、その大きな器に救われる人情噺。店の者をいたわる大旦那の優しさが心に沁みる傑作だ。それだけに大旦那の人物描写に力量が求められる難題でもある。
「『百年目』は弟子ができてからじゃないとやれないネタかなという思いがありました。今、おかげさまで、うちの師匠(桂塩鯛)もお元気です。師匠がおり、自分がおり、僕の弟子(桂音紫)がおりという状況で、上司の気持ちもわかるし、部下の気持ちもわかる。『百年目』の番頭と似たような立場ではないかなと思います。3月20日で私も52歳になります。独演会はその2日後ですし、そろそろやらせていただいてもいいかなという思いでトリネタに選びました。『百年目』はうちの師匠はもちろん、米朝一門で持ちネタにしている噺家も多いですし、それぞれの演者によって微妙に切り口は変わってくると思うんです。ただ、米朝も演じ、(桂)ざこばも演じ、塩鯛も演じたネタですので、先人たちの型でやりたいなと思います」。
じっくりと聞かせたいと意気込む一方で、「中入りまでは思いっきり笑ってほしい」と米紫。「『無精床』はコントのような噺です。ドリフターズのコントで"もしもこんな病院があったら..."など『もしもシリーズ』がありましたが、それに似ているように思います。もちろん古典落語ですが、そういう切り口で考えて、自分なりにどう面白くするか意識したネタです。『餅屋問答』はいわゆるシチュエーション・コメディーのように思います。禅寺に偽のお坊さんが入り込むのですが、そこにものすごく真面目な本物の坊主さんがやってきます。問答で負けたらこの寺を追い出されてしまうことになるのですが、偽のお坊さんが本物のお坊さんを負かしてしまうという噺で、倫理的にはおかしいですが、それがすごく爽快です。品行方正な主人公が良い行いをして万事解決するというのではなく、ダメ人間が真面目なやつを打ちまかすという意味でも好きですね」。
昨年5月に初の弟子である音紫が入門した。これから先、目指す師匠像については、こう話す。「僕は師匠が大好きで入門しました。僕は師匠に入門してよかったなと思うんです。だからうちの師匠みたいにありたいと思うのですが、師匠と比べると自分は人間的にまだまだなのではないかと思うところがたくさんあります。噺家は芸を教えてもらうだけじゃなく、師匠の人柄に惚れて、落語に対しての思いを知って、それらを全部含んでついていくというところがあると思うんです。そう思うと、弟子を取ったことで、自分は師匠としてまだまだだなと思いますし、師匠にものすごく迷惑をかけていたんやなと思うこともあります。目標はうちの師匠ですが、そこに向かってもっと人間性も高めていかなあかんなと思いますし、"こういう落語家になりたい"と弟子に思ってもらわないといけないとは思います」。
師匠として初めて挑むサンケイホールブリーゼでの独演会。『百年目』は、その覚悟の表れでもある。
取材・文/岩本
(2026年3月16日更新)