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「三島由紀夫の分身の女性たちが
生々しくそこにいるように」
宮本亞門が『サド侯爵夫人』を演出

三島由紀夫の戯曲で最高傑作だとうたわれる『サド侯爵夫人』が宮本亞門の演出で上演される。登場人物は女性のみの会話劇で、サド侯爵夫人に扮するのは、昨年8年振りに俳優復帰した成宮寛貴。出演者全員が男性キャストで女性を演じる。これまで『金閣寺』『ライ王のテラス』などを演出し、三島作品に造詣の深い宮本が、三島への熱い思いや、デビューにもかかわった成宮について取材会で語った。

「『サド侯爵夫人』は日本の演劇史上、三島作品の中では最も名作だと言われていて、いつか手掛けたいなという思いがありました。三島さんは時代と共にどんどん考え方が変わっていくのですが、その中でもこれは彼が自決する5年前の作品。最後のセリフも含めて、自分が理解できるかなという思いがあり、これまで上演には至りませんでした」と話す。そんな中、成宮と偶然、再会した。成宮は2000年、宮本が演出した舞台『滅びかけた人類、その愛の本質とは...』で俳優デビュー。「オーディションで僕が選んで、自分が引き上げた人なんですが、それ以来、ほとんど連絡はしてなかったんですね。久しぶりに再会して食事に行ったとき、『デビューも亞門さんの作品でしたし、本気でできる舞台をやりたい』と言われ、その言葉にガツーンときた。それでこの作品を読み直したのが発端です」。

12年ぶりの舞台出演となる成宮に変化はあったのだろうか。「出会った時からイノセントな人なんですよ。恐ろしく純粋な人で、この世界ではやっていけないんじゃないかと思うぐらい。子どものころから大変な苦労をしている人で、よく今まで生きてこられたねと思う。いつもニコニコ笑顔なんです」。そのイノセントさが今も変わっていないことに驚いたそうだ。「いろんなことで傷ついたり、苦しんだりしたんだろうなというのが裏に見えるのは、やっぱり芝居で表現している時ですね。役者はいろんなことを経験していると、全部、厚みとして芝居に出てくるんです。成宮君は、今までの彼では表現しなかったような切なさや痛みが表れていて、すごく深くなってきました。稽古場でも絶対に弱音をはかず、自分で頭を叩きながら必死に挑んでいる。なかなかいい役者になってきて、将来の展望がより一層ある人だなと思います」と太鼓判を押す。

成宮のほか、東出昌大、三浦涼介、大鶴佐助、首藤康之、加藤雅也が集結する。「過去に蜷川幸雄さんもオールメールキャストで演出していて、いろんなバージョンがあるんです。この戯曲には三島さん自身の言葉がすべて入っていて、登場人物は三島さんの分身なんだと僕は理解しています。この言葉がしっかり強く響くのは、もちろん女性がやっても素晴らしいですが、三島さん自身が喋っているかのような強さでやってみたらどうかなと」。

三島は、稽古で自分の戯曲の本読みに入る前に、必ず俳優たちに自らセリフを読んで聞かせていたという。「とても説得力があったと出演した女優さんから聞いています。三島さんは、自決前にバルコニーで叫んでいましたが、僕がやりたいのは、叫んだり、大きな声で強く訴えたりするのではなく、彼がこの台本を書きながら何を考えて、どこに向かおうとしていたのかということ。それを作品で叫びたいんです」。

物語はフランス革命前夜のパリ。性的に倒錯し、悪徳の限りを尽くしたサド侯爵は投獄されている。彼の妻でサド侯爵夫人のルネ(成宮)は、世間の非難には動じず、ルネの母親のモントルイユ夫人(加藤)も離婚を勧めるが、応じようとしない。モントルイユ夫人はサドの無罪を勝ち取るため、奔放なサン・フォン伯爵夫人(東出)、敬虔なクリスチャンのシミアーヌ男爵夫人(大鶴)を招いて裏工作を企む。

宮本自身、作品を再読してオノ・ヨーコの言葉を思い出したそうだ。「オノさんは、どんな人間も男性性と女性性を持っていて、男性性が多いか女性性が多いかによって、その人の人格や生き方が変わってくると。オノさんの言葉をお借りすれば、この作品は、三島さんが女性性から男性性への決意をしていった、次の行き方が決まった戯曲だと思います。『金閣寺』もそうですが、史実が正しいかどうかではなく、史実を利用して、自分が今考えていることを露骨に、自分の生き方すらも戯曲に入れ込んでいるというのが三島さんの面白さ、正直さでもあり、これだけの名作を書くエネルギーになったと思うんです。三島さんは濁流のように、ある時は清らかな水のように、いろんなことを作り上げて生きてきたんだろうな」と思いを馳せる。

さらに特徴的なのは、物語にサド侯爵は一切、登場しない。ルネら女性陣の目を通して、その人物像が描かれる。「フランス革命が起こり、時代と共に、僕は三島さんとも重ねるんですけど、価値観が天動説か地動説かみたいにバーンとひっくり返った。モントルイユ夫人は、最初はルネに離婚を勧めるのに、サドをうまく利用すればいいと考えが変わる。周りのとらえ方が変わっただけで、サド自身は何も変わっていないんです。我々が正しいと思っていることが本当に正しいのか。もしかしたら異常なのは、正常といわれる人たちじゃないのか。三島さんはそう思わせる劇作がうまいんですよね。彼の母親が舞台を見て、『なんてくだらないもの作ったの』と言ったそうですが、三島さんの母親に対する挑戦状なのかなと思っています」。

また、三島は「最も聖なる美しいものと最も猥雑なものがぶつかった時に、美が生まれるという意識があるんです」と解説する。6人の男性陣が、宮本の演出でその対極のぶつかり合いを見せてくれるのだろうか。「三島の分身ということもあるので、生々しく本来の女性がそこにいるようにやってほしいとお願いしています。歌舞伎の女形は、男性が作った女性像でそれが美学ですよね。今回はそうではなく、男性がいない時に女性同士が喧嘩したら、すごいことってありますよね(笑)? 男性の方が社会や世間体を気にして、うまくまとめなきゃという意識が働くのかもしれない。女性は皆がそうじゃないけれど、恐れずにパーンといってしまうことが面白くて、そういう女性たちを僕はこの作品で求めている。自分の生き様を明確にして、ぶつかっていくというすごみを見せたいんです」。

衣装はきらびやかにせず、シンプルになるという。「黒をメインにシンプルなモノトーンの世界観。メイクも素顔じゃないの?というぐらい飾り立てることを排除する。でも、ある美意識はしっかりと作ります。僕が一番好きな三島さん演出・主演の『憂国』という短編映画は、見た瞬間、怖さや美しさ、猥雑さ、聖なるものがぶつかって鳥肌が立った。あの感覚やシンプルな世界観は、今回踏襲したいなという思いです。怖いものみたさと言うのは言い方が悪いですが(笑)、キャスト全員が今までのお芝居の印象とは違うかもしれません。スリリングでエッジが効いた舞台になると思います」と終始、温かさと変わらぬ情熱をたたえて話した。

取材・文 米満ゆう子




(2026年1月20日更新)


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『サド侯爵夫人』

【東京公演】

▼2月1日(日)まで上演中
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:537-276
▼2月5日(木) 15:30
▼2月6日(金) 13:00
▼2月7日(土) 13:00/18:00
▼2月8日(日) 13:00
森ノ宮ピロティホール
全席指定-11000円 
立見券-9500円 
U25-6600円(観劇時25歳以下対象、要身分証明書、当日引換券)
[作]三島由紀夫 [演出]宮本亞門
[出演]成宮寛貴/東出昌大/三浦涼介/大鶴佐助/首藤康之/加藤雅也
※未就学児童は入場不可。車いすスペースをご利用のお客様はチケット購入後、事前にお問い合わせ先へご連絡ください。
[問]サンライズインフォメーション■0570-00-3337

【愛知公演】

▼2月13日(金)・14日(土)  
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール


【福岡公演】

▼2月17日(火)・18日(水)  
福岡市民ホール 中ホール

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