「主人公は僕の分身」
福田雄一が『サムシング・ロッテン！』を再演出

コメディ道まっしぐらに、数々の大ヒット映画やドラマ、舞台を手がけ、快進撃を続ける福田雄一。2018年に福田演出で日本初上演、大爆笑をさらったミュージカル『サムシング・ロッテン！』が7年ぶりに再演される。個人的にも思い入れが深いという同作や、再演にかける思いを語った。

『サムシング・ロッテン！』（以下『ロッテン！』）は、2015年にブロードウェイで幕を開け、ミュージカルの名シーンのパロディやシェイクスピアの名セリフが随所に盛り込まれた作風が笑いと評判を呼んだ。日本版でもキャストの個性が冴えわたる福田流の演出で、福田ミュージカルの傑作のひとつとなった。「初演でやりきった感があったのと、非常に飽き性だから僕はめったにミュージカルを再演したいと言わないんです。でもこの作品は内容と曲が好きすぎて、普通にお客さんとしてもう一回見たいなと。見たいんだったら自分で演出しなきゃいけないし、やらせてほしいとお願いしました」と話す。

ルネサンス時代のイギリスで、劇作家のニック（中川晃教）とその弟のナイジェル（大東立樹 CLASS SEVEN）は、売れない劇団を運営している。文豪でスーパースターのシェイクスピア（加藤和樹）がもてはやされる中、ニックは彼に嫉妬と憎悪の炎を燃やす毎日だ。劇団の資金繰りもうまくいかず、すべてに行き詰まったニックは、妻のビー（瀬奈じゅん）に隠れて、予言者ノストラダムス（石川禅）のもとを訪れる...。

「僕の境遇と似ていて、主観的な思い入れがものすごく強い作品なんです。ニックと僕は重なる。だって僕が35年間座長を務める劇団ブラボーカンパニーは売れてないから(笑)。来年2月に東京で公演があるんですが、チケット売り切れないんですよ。もう、重なりまくります(笑)」。

ブラボーカンパニーは、2019年に初の大阪公演を開催したが、笑いすぎて椅子から転げ落ちそうになるほどだった。「なぜ売れないのか、本当に謎でして。迷宮入りしそうです(笑)。もしブラボーが売れたら、僕は映画もミュージカルも作るのをやめます(笑)。正直、どの仕事もブラボーの集客につながればと思ってやっているくらいです」と冗談めかして語る。だからこそ、初演から中川演じるニックの複雑な感情が痛いほど分かると自虐気味に言う。

「アッキー（中川）は、すごくいい子だから、普段、怒らないと思うんです。でも、ニックは1幕の頭で、『何で俺の劇団、売れねぇんだよ。なんでこんな言葉で台本書いてんだよ』とイライラしていちいち怒っているんですよ。アッキーはちょっと気を抜くと、素のやさしさが芝居に出てしまう時があるんです。初演の稽古場でアッキーに、『あのセリフはもっと怒んなきゃダメ。お客さんに愛される怒り方をしてほしい』と毎日、言い続けていましたね。忘れられないですね」。

初演の中川は憎めないキュートなニックを作り上げた。「売れない劇団の座長としてアッキーは、ちゃんとイラつくところはイラついて、浮かれているところは浮かれて、最終的にはうまくいったなと思います」と振り返る。

今回は中川と瀬奈以外、新しいキャストで挑む。ニックと敵対する自意識過剰で傲慢で、おまけに書くネタに困っているという、癖の強いシェイクスピア役には加藤を抜擢した。「かずっきー(加藤)は、僕から言わせると、いつもちゃんとしたミュージカルをやっている(笑)。顔も相まって、だいぶハードコアでシリアスなイメージがあるんですが、内面はおとぼけで、面白い人なんですよ。だって、おかしくないですか。あの顔でしょっちゅう、『ラーメン二郎』を食べてるとか(笑)。友達も引き連れて行くらしいですよ」。

再演のシェイクスピア役は加藤しか念頭になかったそうだ。「1幕であれだけアコギでナルシストでカッコよかったシェイクスピアが、2幕でぐずぐずになる。これは本当にかずっきーが何気に一番得意なんじゃないかと思っています(笑)」。

しかし、「コメディや変化球は苦手」と加藤が以前の取材で語っていたことに触れると、「いや、絶対やりたいはずです！僕の組に来て、『苦手です』と言ってやらなかった人はひとりもいないです。僕は、この人はコメディをやったら絶対に化ける、という嗅覚は外したことがないんです。そこには自信があります」と、力強く答えた。

そのシェイクスピアとニックのバカバカしくて噴飯もののタップダンスの対決シーンも注目だ。「ブロードウェイ版のようなパワーアップしたバージョンにしたいですね。アッキーがすごくやる気だし、かずっきーも問題ないはずなので、めっちゃ面白い見どころのシーンになると思います」。

また、福田のミュージカル愛も詰まった、有名ミュージカルのパロディを歌とダンスで綴るビッグナンバーはお待ちかねのシーンだ。それに加え、「劇中劇のシーンでは日本のお客さんがよく知っているような有名ミュージカルを連想させるセリフがたくさん出てくる。ミュージカルおたくとしてはたまらない快感です」と腕が鳴っている。

来年も映画やミュージカルなどの大作が目白押し。その飽くなきモチベーションはどこから来るのだろうか。「単純に役者さん、ひいては人が好きなんですよ。ものすごく惚れっぽいんだと思います。『この人、面白っ、好きっ！』となったら、犬体質って呼んでるんですけど、ずっと尻尾を振り続けている（笑)。それは昔からで、ずっと追っかけ続けている。その一方で、かなり人の好き嫌いが激しいんです。でも、父親から『嫌われる勇気がない人間は誰からも好かれない』と言われていて。その言葉はずっと根底にあるんですよね」。福田組に多くの人気俳優が喜んで参加する所以だろう。

毎回、人を笑わす天才的なアイデアやネタが尽きないことにも驚かされる。「いや、『ロッテン！』のシェイクスピアの気持ちもバカほど分かるんですよ。本当に誰か面白いセリフをくれないかな、それで台本書くのに、というのは絶対ある。あるんですけど、どうしても僕の根幹はニック。再演でも僕の分身であってほしい」と言う。大笑いしながら、そんな視点でも『ロッテン！』を楽しんでみよう。

取材・文／米満ゆう子

（2025年12月18日更新）