ホーム > NEWS > 星の王子様の出てこない『星の王子さま』をマイムで
サン=テグジュペリの小説『星の王子さま』を、言葉を用いず、身体表現で物語を立ち上げる"黙劇"で上演する、いいむろなおきマイムカンパニーの『ゾウをのみこんだウワバミの絵』。2009年、大阪市の市民参加事業のひとつとして新大阪のココプラザで初演、2011年にはマカオで海外公演も行った。昨年、伊丹のアイ・ホールでは内容を変え、カンパニーのメンバーで上演した。今回は兵庫県立芸術文化センター。劇場によって形を変え、ブラッシュアップして臨む作品。いいむろに話を聞いた。
もし近くにチラシがあるなら、裏から透かして見てほしい。ウワバミの中に6人のメンバーがぴったり飲み込まれて(?)いる。『星の王子さま』の冒頭に、パイロットが大人たちに見せる、象を丸飲みにした巨大な蛇(ウワバミ)の絵だ。今、公演情報は紙のチラシでなくネットの画像だけで見ることも多い。「だから敢えて紙のチラシを作る時に、おもしろいアクションを入れたいと思ったんです」と、いいむろ。自身は裏面にパイロットの扮装でたった1人で立っている。「たくさん人が出てきて、それがいろんなモノに変化したり、道具を何かの見立てに使ったりする。たくさんの人とモノが出てくるのに僕は孤独、というシーンを表して、チラシの時点から物語としてスタートさせました」。

今回の舞台は『星の王子さま』をモチーフにしたマイム劇で、7名全員が出ずっぱりで演じる80分。チラシのシーンもちゃんと登場する。創作の出発点は「もともとフランス文学をテーマにしようかと思い、調べる中で聖書の次に世界で一番翻訳されている小説が『星の王子さま』だと知って。多くの人が読んでいるものを使うのはどうだろうと考えました。でも、僕はひねくれもんで(笑)、『星の王子さま』はちょっと説教臭くて好きじゃないところがあるんですね。それなら、王子様を出さない『星の王子さま』を作ってみようと」。
小説の物語をマイムでなぞって見せる、という舞台ではない。「サン=テグジュペリが書いた時代への思いを、僕の気持ちや今の時代を考えて再構築しました。僕の想像力で原作になかった部分を膨らませたり、多重的に見せていくという感じです」。今回で4度目の上演となるが「作品の強度が上がっていく」と再演好きのいいむろ。「お話自体は、いつものカンパニーの作り方なので、笑いもあり、楽しいものです。その中に、原作の純粋な部分だけでなく、深味や苦み、気持ちがザワッとするような手触りの部分とかを、今の時代に合った形で入れていけたら」。

小説には"大切なものは目に見えない"とある。その"大切なもの"とは?「僕はそれを想像力だろうと捉えています。マイムの中で浮き彫りにされていく物語を観るのに大切なもの。それもやっぱり想像力だと思うんですよね。観終わって家に帰ってからでも、作品のいろいろなパーツを想像してもらえるような、そんな広がりのある作品になるといいな。僕のコンセプトはあるけど、それを観たお客さんがどう想像するか。そのすべてが正解だろうと思っています」。これまでの上演で、いいむろは「僕、『星の王子さま』が大好きな人に嫌われるんじゃないかなと思っていました」と話す。「王子様は出てこないし、おっさんみたいな狐が出てくるし、全然ちゃうやんって(笑)。でもアンケートで、読んだことのある人は『なるほど、と思った』とか、読んだことのない人たちも『星の王子さま』を読んでみようと思った、という人がかなり多くて、それはとてもうれしかった」。
今回は兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールでの上演。「僕、ここの大中小ホールに立っているんです。全制覇したのがうれしくて(笑)。僕にとってホームのような場所です」と喜ぶ。「言葉を使わないマイムって、わかりにくいかもって思う方もいらっしゃるかもしれないですが、ぽけ~っと観に来て、わぁ~おもしろかった、というノリで楽しんで観ていただける作品です。サン=テグジュペリの『星の王子さま』が好きな人も、読んだことがない人も、きっとこの世界を楽しんでもらえると思います。この劇場を出る時に、少し心が軽くなるような、そんな作品であるといいなと思っています」。想像力を働かせる素敵な楽しみがここにある。
取材・文/高橋晴代
(2025年11月 6日更新)