ホーム > NEWS > ウォーリー木下、新作『1995117546』で 自身の被災体験を30年越しに作品化
阪神・淡路大震災から30年という節目の年に、演出家・ウォーリー木下が自身の被災体験を題材にした新作舞台『1995117546』を発表する。上演の場となるのは、震災を経験した兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター。30年前の1月17日、神戸・新在家周辺で被災し、生き埋め状態から救出された過去を持つ木下にとって、この地での開幕は特別な意味を持つ。
「震災から30年というタイミングでこの作品を上演できたら、自分にとっても、もしかしたら社会にとっても、水に投げた石が波紋を広げるように、いろんなことにつながっていくかもしれないと思ったんです」と動機を明かす木下。
1995年当時、大学5回生だった木下。2階建てアパートの1階で就寝中に地震が発生。2階部分が崩落し、横向きに寝ていた体の上に梁が落下した。「息はできるけど、全く身動きが取れない状態でした。助けを呼んでも誰も来ない。6時間ほどして劇団の仲間が来てくれて、最後は大人の方を呼んでジャッキで上げてもらい、助けてもらいました」。
その後の搬送も困難を極めた。壊滅的な状況の神戸市街で病院はどこも満床。偶然通りかかった軽トラックの運転手が協力し、山の上の労災病院へ運ばれた。到着時には右足が激しく腫れ上がり、切断の可能性が告げられた。しかし、当時"クラッシュシンドローム"を卒業研究として扱っていた若い医師が症状を見抜き、壊死した細胞だけを取り除く手術を実施。集中治療室で1〜2週間の治療を経て奇跡的に回復し、後遺症も残らなかった。
九死に一生を得た木下だが、この"人生最大のトピック"をこれまで作品化してこなかったのか。「ためらっていたわけではなく、なぜかそんなに重要なことだと思ってこなかったんです」。
それでも"書く"と決めた背景には、演出家として20年以上のキャリアを積み、東京2020パラリンピック開会式など大規模な演出を務めた後の心境の変化があった。「ある時ふと、『このまま震災のことを書かずに終わっていいのか』と思ったんです。劇作家として自分には"何もない"と思っていたけれど、本当は自分の中にいろいろな経験があった。それを形にして残すべきじゃないかと」。
しかし、記憶は鮮明ではない。「当時のことを思い出そうとしても、なかなか思い出せなくて、断片的な記憶しかなかった。その断片をつなげながら戯曲を書いてみたら、自分が経験していないこともたくさん出てきて、その経験していないことの中に自分が本来持つ興味が隠されていたんだなと気づきました」。
被災体験の全容を再現するのではなく、視覚・聴覚・身体感覚が遮断される瞬間の質感を、演劇の方法として再構築していく。「真っ暗な中でセリフを話すとどうなるか。逆に身体の動きだけで何が表現できるのか。あえて制約を設けて、その中で演劇の可能性を探っていこうと思います」。
ワークショップ形式を採用し、6人の出演者と共に議論を重ねながら形にしていくという。「戯曲はありますが、わざとはっきりしない本を書きました。作品そのものが劇団の話でもあるので、30年目にして、もう一度みんなで劇団を立ち上げるような気持ちです」。
出演者には、須賀健太、中川大輔、斎藤瑠希、前田隆成、田中尚輝、小林唯が名を連ねる。この6人を、次のように紹介した。「須賀さんがいなければ今の自分の演出家としての達成はなかったと思います。パワフルで、熱心で、芝居が上手です。中川さんは、とても正直で、どんな役も"自分の本音"として演じるタイプ。今作との相性も良いと感じています。斎藤さんは物語の読解力や解釈力、提案力に優れていて、幅広いアプローチができる方。ユーモアもあり、座組に柔らかさをもたらしてくれる存在です。前田さんは、オーディションの時、ダントツで存在感が強かったので即決しました。田中さんもオーディション組です。6人の中で一番真面目で、みんなが「もっと稽古しよう」と思うようなリーダーシップを発揮してくれるのではと期待しています。小林さんも初顔合わせです。真面目ですが天然な一面もあり、ふわっとした空気を作ってくれそうな存在。稽古も楽しみにしています」。
最後に、作品を通じて届けたい思いを尋ねると、木下はこう語った。「30年前の出来事を思い出してもらうことはもちろん大事です。でも、それだけではなく、『こんなふうに物語にすることができるんだ』と、未来を感じてもらえる作品になればいいなと思っています」。
30年という時間を経た今、木下が初めて描き出す震災の物語は、どんな新しい景色を見せてくれるだろうか。劇場でぜひ確かめてほしい。
取材・文/岩本
(2025年11月26日更新)
チケット発売中 Pコード:536-237
▼12月13日(土)12:00/17:00
▼12月14日(日)12:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
全席指定-9500円
[作・演出]ウォーリー木下
[出演]須賀健太/中川大輔/斎藤瑠希/前田隆成/田中尚輝/小林唯
※未就学児童は入場不可。
[問] 芸術文化センターチケットオフィス■0798-68-0255
公式サイト
https://www.1995117546.com/