ホーム > NEWS > 「今、鎮めて共存していこうとする部分が大切では」 古き芸能の力で楽しみながらナマズ(地震)を鎮める
大阪・関西万博で6月、"THE FUTURE in TRADITION~伝統の中にある未来~"をコンセプトに、日本の伝統文化をあらゆる世代に伝えようと、伝統文化未来共創Projectの催しが行われた。人間国宝の大倉源次郎(能楽小鼓方 大倉流十六世宗家)がこのプロジェクトに参画し、立ち上げたのが「五節句の会」。春の「ひな祭り」に続き、「重陽の節句」を神戸の湊川神社神能殿と東京の矢来能楽堂で開催する。源次郎が、伝統芸能のナビゲーターとしても引っ張りだこの落語家・桂吉坊と共に、今回の催しを通して伝えたい思いを語った。
「五節句の会」というネーミングは「伝統文化の中に未来を見つけましょうという、プロジェクトのコンセプトからタイトルにしました。今は恵方巻やハロウィンなどのイベントに押されている状態。経済で作られた文化は経済と共に滅びますが、宣伝しなくても生活の中にある五節句のように、文化で作られている経済は非常に腰が強い。豊かで厳しい自然と対峙しながら2000年の歴史を育んできたものを、今、しっかりと見直していく大事な時期ではないかなと思っています」と源次郎。
プログラム1部は『能楽 ~能楽より一調一声「三井寺」を実演~』。謡(観世流シテ方大槻裕一)と小鼓(源次郎)のみで、親子生き別れになった母親が、京都より三井寺まで満月の中を訪ねる場面を上演。小鼓によって、心が乱れつつも糸筋に子を思う心が仏に届く様を奏でる秘曲だ。第2部は『対談』。聞き手は源次郎。大槻裕一と高砂神社の小松守道宮司を迎え、源次郎が謡曲"高砂"の能楽のゆかりを紐解く。大阪・関西万博では、リング上で西の海を眺めながら祝言曲"高砂"を謡うという、物語に登場するロケーションが眼前に広がる場所でプロジェクトを行った。今回は「"高砂"をみんなで謡うコーナーを作ったり、鼓もエア鼓で演奏したりという趣向で、観客参加型の楽しい公演にしていきたいと思っています」と源次郎が抱負を語る。また、酒造りプロジェクトを手掛ける坂本尚志も対談に参加。談山能奉納「翁」万博公演に際し、ポップアップステージで「翁」を上演、天下泰平と国家安寧を祈って献上した御神酒"翁"のエピソードを語る。
そして第3部が『~能楽堂でCo-GIGAKU(こぎがく)~ 子どものための創作伎楽「鯰(なまず)しづめ」』。伎楽(ぎがく)とは無言の仮面劇。飛鳥時代、聖徳太子の仏教伝来の中で輸入されたが、鎌倉時代には芸系が途絶えた芸能だ。今回は、分野を越えて集結した精鋭が子どもたちと共に新たに創作し、大阪・関西万博会場で初演した作品を能舞台バージョンとして再演する。"Co-GIGAKU"の"Co"は、子どもの"Co"であり個性の"Co"という意味を込めた。吉坊が江戸時代から伝わる物語を伎楽に取り入れ、脚本を担当。さらに狂言回しとして、前説を中心にナビゲーターやお囃子などにも出演する。作品のスト-リーは、江戸時代に伝わる物語から創作した。地震が多い日本で、安政の大地震の折、ナマズが地面を揺らしているという噂から、ナマズ絵が流行った。鹿嶋大明神と香取大明神が要(かなめ)石でナマズを抑え込み、おだやかな国になったという伝説がもと。全国の神様が集まるという出雲の神無月、鹿嶋・香取大明神が留守の間、留守番をしていたのが、えべっさん。えべっさんは出雲の国の餅を盗み食いしたために出禁となっていたとか。が、酒好きのえべっさんが居眠りをしていてナマズが暴れ出し、そこへ鹿嶋・香取大明神が帰って来て...というストーリーだ。「一見すると、鹿嶋・香取のナマズ退治の物語ですが、完全に滅するのではなく"鎮める"。非常に日本的と言いますか、鎮めて共存していこうとする部分が、今、非常に大切ではなかろうか、と」。
伎楽面とナマズを新たに創作し、子どもたち約10名が出演する。登場するナマズは3匹。約90センチで尻尾が付いた「めちゃめちゃ可愛い」小ナマズ2匹の立体的な面を小学校低学年の2人がヘルメットのようにかぶって演じ、さらに長机2台分ぐらいで伸び縮みする「大変迫力ある」大ナマズは、尻尾はクネクネとリアルに動き、大人2人が操作する。また音楽面では、用いる楽器が少ない伎楽だが「なるべく本来伎楽が持つ音楽性を損なわずに、今の人も口ずさめるような歌を作っていただきました。歌うのが照れ臭い人は手拍子でも。それでみんなでナマズを鎮めましょうと、観客参加型で一緒に楽しんでいただけるように作っているところです。今の人が観て楽しめるようにというのがコンセプトですので、伎楽の前知識なく来ていただいて大丈夫でございます。むしろ前知識を調べすぎると、だいぶほつれが見えます(笑)」。
伎楽を今によみがえらせようと、ジャンルを超えてさまざまなプロたちが共に協力して作り上げる舞台。子どもたちも参加し、創作過程を経験しながら学び、成長しているようだ。源次郎は「伎楽は、楽しんでみんながひとつになっていくというのがもともとの意味だと思います。その芸能の立ち上がりに立ち会っていただきたいですね。これが日本の楽しさの原点のようなものを思い起こすきっかけになればうれしいなと。日本の先端部分を紹介する万博に対し、私たちは伝統文化に携わる者として根っこの部分をしっかり伝えていきたいと思います」。連携公演として10月に東京の矢来能楽堂でも出演者とプログラムを変えて開催。チケット購入者は催しの後、希望すれば両公演の収録動画を無料で視聴できる。
取材・文/高橋晴代
(2025年9月19日更新)
チケット発売中 Pコード:536-344
【1部】能楽 一調一声「三井寺」 大槻裕一/大倉源次郎
【2部】対談 聞き手:大倉源次郎 出演:大槻裕一/小松守道/坂本尚志
【3部】能楽堂で『Co-GIGAKU』
▼9月21日(日)14:00
湊川神社 神能殿
S指定席-10000円 A指定席-7000円 学生席-3000円(中学生以上は当日要学生証)
※未就学児は入場不可。
[問]五節句の会 gosekkunokai2025@gmail.com