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ベートーヴェンの半生を現代バレエで描く舞台、再演

日本のコンテンポラリーダンスの先駆者であり、振付家・演出家の中村恩恵(めぐみ)。活動拠点をヨーロッパから日本へ移し、2017年に新国立劇場バレエ団で創作・初演した作品『ベートーヴェン・ソナタ』。高い評価を得て、2023年には貞松・浜田バレエ団と組み関西で初演、今回再演が決まった。ベートーヴェンをふたりのダンサーで表現し、その壮絶な人生と秘められた恋を、ベートーヴェンの11楽曲に乗せて描く舞踊作品だ。貞松・浜田バレエ団は、クラシック作品と創作作品を両輪に神戸を中心に活動を続け、今年結成60年を迎える関西有数のバレエ団。そこで活躍する水城卓哉がベートーヴェン役として踊り、バレエ団の芸術監督・貞松正一郎がベートーヴェンの「生きざまを見つめ、語りかける」ルードヴィヒ役で再登板へ。先ごろ神戸で公演の関連企画を開催した。「再演のたびに作品は成長していくもの」という中村から新たに届いたコメントを交え、作品と再演への思いを紹介する。

舞台上には1脚の椅子。天井から舞台上へ配置された白い布。シンプルな空間で、ベートーヴェンの葬儀から始まる。このプロローグのみ、音楽はモーツァルトのレクイエムだ。その後、1幕に6曲、2幕に5曲のベートーヴェンの楽曲が使われる。「己の命に向き合い、その定めを受け入れていく過程を描いた作品」と話す中村。ベートーヴェン自身の内面との対話、そして恋人への思いを、提示部・展開部・再現部というソナタ形式で織り上げた作品だ。些細なしぐさを巧みに取り入れながら、白い衣装で流れるように踊る振付が印象に残る。美しさの中に苦悩する心や恋の感情のほとばしりが伝わり、まるで会話が聞こえてくるように演劇的でもある。中村は観劇後「何とも言えない温かさを感じました。ルードヴィヒを演じる貞松さんから滲みだす人間性が、作品を大きく包み込んでいたのだと思います」。

その公演後、中村は新たなベートーヴェンの文献に出会った。「自分自身の作品解釈に変化が起こり、それを共有しているダンサーも、それぞれの演じ方に変化が出てくることもあるかと思います。今回の作品がどんな観劇体験を提供してくれるのか。本番に立ち会うのが今からとても楽しみです」。ベートーヴェンを取り巻く3名の女性たちは今回、バレエ団の選抜メンバーがWキャストで演じる。作品に大きな変更点はないが、今回新参加のメンバーに関して「世界的にバレエダンサーのキャリアは10代後半から40歳前後まで。今回のように2世代にまたがる重層的なキャスト編成は貞松バレエ団ならではと思います。成熟した表現と初々しい輝きの共演を楽しんでいただきたいと思います」。

今回初めて公演を観る方へのメッセージとして「この作品では、ベートーヴェンの伝記的側面が彼の音楽に乗って描かれています。観劇を機にベートーヴェンが生きた時代に思いを馳せていただけましたら幸いです。ベートーヴェンは大きなパラダイムシフトが起きた時代に生きた人物です。時代の荒波の中で自己と向き合い、他者を勇気づける音楽を多数生み出した彼の生きざまを見つめつつ、彼の音楽から今の激動の時代を生きるための"力"を受け取っていただきたいと願っています」といざない、前回の舞台を観た人に向けては「今回の再演に際し、作品が作者の手を離れ、それ自体の命を生き始めていることをしみじみと感じています。すでにこの作品をご覧になった方には、ご自身の人生の軌跡に交えつつ、作品が描く変化の軌跡をそっと見守ってもらえたらと思います」と語った。

取材・文/高橋晴代
撮影:岡村昌夫(テス大阪)




(2025年5月29日更新)


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貞松・浜田バレエ団『ベートーヴェン・ソナタ』

▼5月31日(土)15:00
▼6月1日(日)15:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
A席-5000円 B席-4000円 学生席-2000円
※未就学児は入場不可。
[問]貞松・浜田バレエ団■078-861-2609(平日10:00~17:00)

公式サイト
https://sadamatsu-hamada.fem.jp/beethoven2025/