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南河内万歳一座の新作は
唐十郎へのオマージュを全開にした
幻想を取り巻く物語

今年、劇団創立45周年を迎えた南河内万歳一座の新作公演『予言者・H』がまもなく、大阪・一心寺シアター倶楽で幕を開ける。公演を前に取材会を開催、劇団主宰で作・演出を手掛ける内藤裕敬と、鴨鈴女、松浦絵里、市橋若奈が劇団や本作への思いを語った。

『予言者・H』の戯曲を書くにあたって、「「予言」というものがはらむ幻想性を考えるうちに唐十郎に行きついた」と内藤。「唐さんが亡くなったという実感はまだないのですが、唐さんに向けて書こうかなという気になりまして。唐さんに見てもらおうと思って書こうと決意しました。唐さんの(エッセイなどの)本なども読みながら、ひとつの要素を抜き出していくうちに、『予言者・H』のイメージが立ち上がってきました」。

内藤はこれまで、唐への思いは封印していたという。「やっぱりオリジナルの作品世界に到達しなければいけないので、ずっと抱いている唐さんへの憧れを自分の作品に持ち込むことはやめておこうと。ただ、影響は大きく受けていますので、唐さんの匂いがするような芝居になっていくことはもう避けられない。そこに抵抗はしなかったんですけど、今回はもうほとんど抵抗していません。"唐さん見てくれよ"という思いを全開にしています。唐さんほど大胆にいけないんだけどね。唐さんはやっぱり天才だから。でも、逆に自分らしい一つのまとまり方をしているかなと思います」。

駅の裏手にポツンと残された、朽ちた2階建てのアパートがある。空き家になって久しいこのアパートの周辺は、タワーマンションや駐車場に整備され、ここさえ立ちのけば大きな施設が建つ。アパートの立ちのきと撤去の担当になった区役所の坂田という男がある夜、踏み込むことに...。坂田をはじめ、アパートに密かに忍び込み、暮らす者たちや、迷い込んで入っている者たちなどが、今の自分を導く予言を探すという物語という。

「誰が住んでいるかわからないようなお化けアパートに足を踏み入れた坂田が、そこに眠っている様々な幻想性と出会っていくという話で。今まで自分の中であまり育まなかった幻想を膨らましてしまう。それ以外の登場人物は、自分の中に幻想が立ち上がらないので、予言者・Hの出現を、そのボロアパートでじっと待っている。そういう連中と絡むうちに、デタラメな幻想に発展していくという感じかな」と内藤。

劇団創立時から在籍する鴨鈴女も「今回は唐さんっぽいなと思う」と話し、次のように続けた。「謎めいた人物がいろいろ出てきて、後半で謎が解き明かされていくのかと思いきや、またそこでいろんな絡みが発生して。すっきりするのか、混乱するのか。万歳名物の集団シーンなどもありますけど、いつもの万歳とは違うテイストやなと思います」。

市橋若奈と松浦絵里も心境を語った。入団10年目の市橋は、「19歳で劇団に入って、今、29歳なのですが、この劇団に入るまでは想像することをあまりしてこなかったなという思いがあって。毎公演重ねるたびに、内藤さんは"イメージしろ、想像しろ"という言葉をかけてくださって。まだ想像が足りませんが、その言葉があったからこそ、少しずつ見えてくる景色があったり、自分でも遊べるようになったり、実験ができているなと思って、今はすごく楽しい稽古を過ごさせてもらっています」と充足感を浮かべた。

在籍20年の松浦は「内藤さんの作品のデタラメ加減は、日ごとに増している感じはするのですが、人が抱く違和感の一歩先を行っていて、"そこはそう考えてはるんや"と思うことが多いです。『予言者・H』のデタラメ加減も面白いので、ぜひ劇場に来てくださいませ」と誘った。

続けて内藤は、45年目の南河内万歳一座のビジョンを明かし、「単刀直入に言うと、本作から僕が新作を書かない限りやりません」と宣言した。本作以前の作品の再演も、南河内万歳一座の公演という形ではやらないという。この決断に込めた思いを、次のように語った。

「大阪で身の丈に合った小劇場公演をやり、力を溜めて、また東京や各地域に打って出るという準備をしようかなと考えています。ちゃんと自家発電できるようにやりたい。それは劇団をやめるつもりがないからです。長く続けたい。今はあちこちでお芝居を作りますけども、劇団で作るのが一番面白い。長く続けるためには、継続できる形で公演をやっていく。南河内万歳一座という看板は、今いるメンバーを中心にした新作でしか守れないのではないかと思っています。45年目からの南河内万歳一座は、質のいい新作をしっかりと発表することで継続していきたいと思います。今回の『予言者・H』も、大阪で初日を迎えますが、またどこかの都市で再演をするということも視野に入れて作りました」。

内藤は、劇団への思いをこう続ける。「自分にとっても、俳優にとっても、自由な実験ができるということが劇団の一番の面白みです。劇団員も気心の知れた連中だからコミュニケーションもそれなりに深い。妙な気を遣いながら稽古しなくて済むっていうのがいいかな。それと、劇団という集団だからこそ、あちこちに芝居を持っていける。行きたいところに気軽に行けるという、活動の自由さが好きかな。小劇場の演劇が商業的に成功するには、作品で勝負しなきゃいけない。作品が評価されて、ロングラン公演をしていくことで商業的にも成立していく。そこを目指さなければ、あまり意味がないんじゃないのかなと。そういう意味では、そこをずっと目指しますよ。何年か後に(劇団から)ヒット作が出て、"来年はそれで各地を回るんで、大阪での公演はありません"みたいなことを言ってみたいね(笑)」。

『予言者・H』では特に45周年を強く意識していないというが、「それなりの節目ではあるので、ロビーなんかで昔のチラシを展示したり、市橋若奈が"万歳ガチャ"も作ります」と内藤、祝祭感も楽しめそうだ。

大阪公演は一心寺シアター倶楽にて、5月28日(水)から6月1日(日)まで上演。PIA LIVE STREAMでの動画配信は、6月9日(月)から7月7日(月)まで。チケット発売中。

取材・文/岩本




(2025年5月27日更新)


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写真左より)松浦絵里、鴨鈴女、内藤裕敬、市橋若奈

南河内万歳一座『予言者・H』

チケット発売中 Pコード:532-227
▼5月28日(水)19:30
▼5月29日(木)19:30
▼5月30日(金)14:00★/19:30
▼5月31日(土)13:00/17:00★
▼6月1日(日)14:00
★=アフタートークあり
一心寺シアター倶楽
一般前売-4500円 U22(22歳以下・要証明書)-3500円 
シニア(65歳以上・要証明書)-4000円
[作・演出]
[出演]鴨鈴女/荒谷清水/福重友/松浦絵里/市橋若奈/有田達哉/丸山文弥/内藤裕敬/他
※未就学児は入場不可。
[問]南河内万歳一座■080-3578-1309


PIA LIVE STREAM

配信期間:6月9日(月)10:00〜7月7日(月)23:59
配信視聴券:3000円

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