ホーム > NEWS > 演劇界・映画界のホープ 加藤拓也が描く”価値”や”肩書”とは? 『ドードーが落下する』を再演
「た組」を主宰し、2022年に初演した『ドードーが落下する』で、第67回岸田國士戯曲賞を受賞した脚本家・演出家の加藤拓也。演劇界や映画界で活躍する加藤が、同作品の再演に向け、取材会で語った。
物語は芸人として活動する夏目(平原テツ)が主人公。彼は世間から相手にされていないが、相方や友人たちからは面白いと評価されていた。ある日、夏目は自分だけに聞こえる声に気が付き、病院に入院する。そのことで、夏目と友人たちとの関係が変わっていく。
モデルは加藤の友人だという。「僕らの関係をそのまま書いているわけではないですが、久しぶりに会った友人とどういう距離感で接していたのか分からなくなったのが書くきっかけだった」と明かす。「どうやって彼と接し、何が楽しくて一緒にいたのかが分からなくなって、初演はそこに話の中心がありました。書くことで答えが出るわけじゃないんですが、自分がどう感じていたかを整理できると思います」。
上演してみると、「社会的な職業における肩書が個人的な悩みを透明にしているというのがより際立ったので、そこにポイントを置いて書き直しました」と、今回改訂した。「彼がおかしなことをしても、それがケアを必要としていたことじゃなくて、お笑い芸人という面で面白くしようとしてくれていると。ただ、本人は笑ってほしくてやっていることでもあるので、一概に僕らが否定も肯定もできないんですが」。
ファミリーレストランで隣の人の会話を聞いているような、リアルさとおかしさと残酷さの交じった会話が胸に迫る。「セリフをセリフじゃないようにしゃべってもらうため、役の状況を信じ、俳優の言葉になるように、言葉の意味を理解した上で無意識に落とし込んでいく作業をリハーサルでディスカッションしながらやっています」と語る。
「実は価値が無いものは見えない方が世間はすごく良くなるんですよ」と夏目が吐露するシーンがある。社会的な価値や肩書で人を判断しがちな世の中で、老若男女問わず、自分は無価値だと思う人は多いはずだ。「あれは書いている中で出てきたセリフで、僕が世間に対して思っていることではないですが、社会的な価値だけに依存したくはない。そこに重きを置いて何かを判断し、ジャッジするのは良いと思っていなくて、好きではないですね」と断言。
終始クールながらも最後は、「思っているより暗くない話なので、気負わずに見に来ていただきたい」と確かな自信と笑顔をのぞかせた。
取材・文/米満ゆう子
(C)迫村慎
(2025年1月15日更新)