ホーム > NEWS > 「第19回繁昌亭大賞」各賞が決定! 2月に受賞記念落語会を開催
天満天神繁昌亭では、さきごろ「第19回繁昌亭大賞」が発表された。繁昌亭を中心に活躍した入門25年以下の協会員(落語家)を顕彰する「繁昌亭大賞」と「奨励賞」、入門15年以下の「新人賞」が決定。今回は残念ながら大賞は「該当者なし」となったものの、奨励賞には露の紫と桂三実の2名が、新人賞には笑福亭智丸が選ばれた。記者会見では、喜びの声とともに来年に向けての抱負などを熱く語った。
「役への入れ込み方が他より一段優れている。色々な男性を演じていくという自身の会を継続し、芸域が広がった。新作や古典ともに非常に安定感があり、実力が高まっている印象」などの審査員評で奨励賞に輝いたのが、露の紫だ。彼女は2008年10月に露の都に入門。落語家になる前はリポーターやキャスターを務めていたというユニークな経歴の持ち主。受賞の感想を聞かれると「以前、5つ賞があった時に"輝き賞"をいただいたんですが、熱でぶっ倒れてて、そろそろ回復やという時に『受賞しましたよ』と。今回もインフルエンザでぶっ倒れてたんですよ。なんか悪いもんをポンと落として、ええもんがやってくるというか」と笑わせた。そして、「繁昌亭で『とりどり男紫』っていう、特に男の人を演じることを強化した会を2年間にわたってやったことで、自分の芸も変わってきたような気がします。また、新作落語をくまざわあかねさんに書いていただいて。あんなハマる出合いもないと思うんですけど、あの作品に出会って表現の幅が変わってきたというか、振り切るってこういうことやな、みたいなのを新作で体験することができました。また繁昌亭で受賞ウイークに結構、出番をいただきまして。そういうとこで、私のこともちょっとずつ知っていただけたという。これからもコツコツと積み上げていきたいなと思っております」と喜びをかみしめた。
もうひとりの奨励賞が、桂三実。こちらも「独特の切り口で笑いを生み出している。毎月のように創作落語をネタ下ろししているが、みなそれぞれ質が高い。彼の新作は古典落語になりうるのではという意味で、普遍的な創作落語を作っている」との高い評価を得た。彼は2012年5月に六代桂文枝に入門。自作の新作落語を数多く手がけ、今年はNHK新人落語大賞も獲得している。しかし、「楽屋で先輩方と『今年の繁昌亭大賞、ダレやろな』みたいなことを言い合うぐらい、全く自分のなかでは予想だにしてなかったので、嬉しさよりも驚きの方がデカいかなと思います」と意外な心境を明かした。さらに、「2年前に新人賞をいただきまして。そっから自分では意識してなかったんですけど、お客さんとか先輩方に『舞台に余裕が出てきたな』と、よく声をかけていただくようになりました。たぶん賞とかいただいたのが、どこか自信になってたんじゃないかなと。それがいいように転がって、NHKとかもとらせていただいたり。今回の奨励賞は、戻ると新人賞のおかげかなと思っております。そこから、あんまり緊張しなくなりましたし、前まではウケるかなという不安の方がデカかったんですけど、今はどっちかというたら『どうぞ見てくれ』という感じの方がデカいというか」と自信をみなぎらせる三実。ちなみに、阪神タイガースの藤川球児新監督にソックリとあって「マクラには困らなくなりました」とも。
新人賞には笑福亭智丸が輝いた。「古典にも新作にも意欲的に取り組み、落語に対する真摯な姿勢を評価する声が多く聞かれた。また審査員のなかには、『新作落語を聞いていると、詩人らしい切り口というか雰囲気が漂っている』とも」というのが審査員評。
彼は2013年4月に笑福亭仁智に入門。学生時代に中原中也賞の候補に挙がったという経歴を持ち、現在、詩人としても活動。「私は繁昌亭で落語会というのをガッツリ初めて見まして、それに感動して繁昌亭でアルバイトもしていた経験があります。ですから繁昌亭の名前を冠した新人賞をいただけるのは、本当に嬉しく思っております。また今年は一門の智六兄さんが亡くなった年でもありまして、ちょっと寂しい雰囲気がございましたので、師匠に何より明るい報告ができたのが一番嬉しく思っております」と語った。さらに「私はどっちか言うたら『高座で落ち着きすぎ』と言われることが多かったので、新人賞をとってフレッシュな気持ちで、もっとはしゃいでいけたらいいなと思っております。落語を頑張るスイッチが入ったと同時に、詩の方にもスイッチが入りまして、12年前にとり逃した中原中也賞も来年は詩集を出して目指したいなと」と、高らかに二刀流宣言。
さらに3人に今年の収穫と来年の目標をたずねてみると、明確な答えが返ってきた。「寄席の昼席でトリまでバトンを繋げるという。2つ目、3つ目とか、トリ前の出番になって来た時に、自己満足で『今、自分がこれウケてるからやる』とかではなく、流れの中でお客さんは何を求めてはるんやろうというのを、やりながら考えられたというのと、流れの中で見事にハマったなというのもあって。満足してるわけじゃないですけど、『こういうことなんやな』というのがつかめた1年だったような気がします」と紫は今年を振り返る。そして、「来年はやっぱりたくさんの人に来てもらいたい。なんで来てくれへんねん。なんで私を知らへんねんではなく、ほんとにひとりでも来てくださった方に感謝の気持ちと、やっぱりコツコツしかないなと。ひとりでも多くの人に、紫の落語が聴きたいな、繁昌亭に行きたいなと思ってもらえるような落語を届けていきたいなと思います」とキッパリ。
一方、三実は「今年1月時点で、自分の作った落語が70作ぐらいだったんですけど、年内に100作を目指そうと。今まで作ってきた落語のパターンが枯渇してきたというか、同じようなネタばっかりかなというのがあったんで、何とか違うネタもできるようにと追い込んで、今年は20作以上を作ってきました。『このパターン、今までなかったな』みたいな落語が何作かできたので、それは良かったかなぁと。創作落語の幅を広げようと思った1年でした」と大きな収穫を得た様子。来年に向けては「吉本に所属してるんですけど、NHK新人落語大賞を受賞してから祇園花月とか今まで出たことのない、落語会以外のお客さんの前でやる機会をいただくようになりました。お客さんも若いし、落語を初めて見る方が多いので、そういう機会が来年はどんどん増えるように頑張って、落語を知っていただいて繁昌亭に来ていただけるような1年にしたいと思います」と決意を新たにした。
智丸は「勉強会をコツコツと色々なところでやらせていただいてまして、その集大成として独演会という名前で初めて繁昌亭でさせてもらいました。いっぱいのお客さんに来ていただき、継続と発表が一緒に実を結びだしたかなという1年になりました。また、2023年から大阪芸大に講師としても行くようになりまして、文学を教えております。落語家なんですけど、落語じゃなくて詩を教えるという。改めて文学の熱も上がってきてまして、来年は詩集を出すという目的もあるんですけど、西行法師のネタとかもやってるんで、そういう実在の人物を描いた新作落語を作っていきたいなと思っています」と意気込みを語った。
取材・文/松尾美矢子
(2024年12月27日更新)