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東西重鎮の大ネタ競演に、若手も自信の演目で力演!
『噺家八景』夜の部レポート

MBSの『らくごのお時間』が昨年10月に番組10周年を迎えたことを記念する落語会が、今春オープンしたばかりの新劇場「SkyシアターMBS」で4月29日に開催された。新劇場としては、初めての落語会となる。

落語の前には、『らくごのお時間』の案内人である福島暢啓MBSアナウンサーが登場し、昼夜ともに即完だった本公演の豪華な布陣について説明したうえで、番組の10年を振り返り感慨深げ。なお、お茶子は藤林温子MBSアナウンサーが務めた。

夜の部のトップバッターは、笑福亭たま。まずは一作が30秒でオチまで完結する、彼オリジナルの「ショート落語」を名刺代わりに次々と披露していく。あるあるネタから、ダジャレ、奇想天外な展開のネタまで、突拍子もない発想に客席から笑いと拍手が沸き起こる。客席を温めたところで、平家物語をモチーフにした地噺『源平盛衰記』を。上方落語界の実態(?)など、分かりやすい例えや創作ギャグをふんだんに織り込みながら、テンポの良いパワフルな語り口で"たまワールド"を炸裂させた。

続いて登場した立川談春は、この日の演目『文七元結』について、「三遊亭圓朝が、『江戸っ子とは、どういうものか』と作った噺です」と解説。ところが、今回は「渾身の一席」をリクエストされたが、番組のオンエア上、時間制限があると聞き「テレビサイズのために出直してくる」と、何と再び舞台の袖に引っ込んでしまった。このサプライズには観客も驚きながら拍手喝采!? 何事もなかったように再び現れた談春は、すぐさま本編へ。主人公は、腕はいいが博打好きがたたって家内は火の車という左官屋の長兵衛。にっちもさっちもいかなくなると、心根の優しい娘のお久は...。酸いも甘いも知り尽くした、吉原の大店の女将の言葉が一つ一つ粒立ち、厳しさの中に垣間見える深い情け心が胸を打つ。片や長兵衛の一見、身勝手なように思える純な"江戸っ子気質"も、複雑に揺れる心模様を丁寧に描いて秀逸。泣き笑いの人情噺を届けた。

開口一番「みなさまのおかげで、何と大入り袋をいただきました」と報告したのは月亭八光。「触った感じで500円かなと」と笑わせ、落語界の古いルールをマクラで振って、『住吉駕籠』を語り出す。2人組の駕籠屋が登場するのだが、その一人の何とも頼りないこと! だが、その頼りなさが自然体で愛嬌たっぷりとあって憎めない。さらに、明るく華のある芸風で、茶店の親父や無理難題を吹っ掛ける酔っ払いなど、登場人物を律儀なまでに描き分け、滑稽味あふれる明朗な笑いを表出。おおらかなタレントの顔とは少し違った、生真面目な落語家・八光として『住吉駕籠』を半ばまで演じた。

夜の部のトリは、桂南光。「待ってました!」の声で迎えられると、新劇場の感触を確かめるかのように会場の隅々まで見渡し深々と一礼し、すぐさま『らくだ』へ。『文七元結』が江戸を代表する落語であれば、『らくだ』は上方落語屈指の大ネタ。 "らくだ"の異名を持つ"ムチャ"者の死から噺は始まる。たまたま、らくだの住む長屋へやって来た兄貴分の熊五郎は葬式を上げてやりたいと、否応なしに紙屑屋を巻き込んでいき...。適所に織り込まれた独自のセリフや工夫が効果的で、『らくだ』という噺の負のイメージを払拭。紙屑屋が熊五郎を怖がりつつ、茶目っ気たっぷりにピンチを面白がる様子も痛快な演出だ。さらに紙屑屋がらくだの思い出話を語るくだりでは、生きることの大変さややるせなさに共感し嘆きながら、人間愛があふれ出す。鮮やかな酔いっぷりや立場の逆転など、見どころ、聞きどころ満載。ドラマチックなラストシーンが夢見心地の余韻を残すお開きとなった。

取材・文/松尾美矢子
撮影/福家信哉




「らくごのお時間 噺家八景SP」オンエア決定!
満員の観客を沸かせた貴重な公演の模様を、番組案内役を務める福島暢啓MBSアナウンサーのインタビューを交えて、順次放送。
第1弾は、上方落語の大御所・桂南光の上方屈指の大ネタ「らくだ」を56分ノーカットでお届け。

▼5月12日(日)午前5時~(予定) 
 桂南光『らくだ』
▼6月9日(日)午前4時半~(予定)
 立川談春『文七元結』、柳家花緑『中村仲蔵』
▼6月16日(日)午前5時半~(予定)
▼7月14日(日)午前5時~(予定)   など順次放送

【出演者の演目およびコメント】
〈昼席〉
笑福亭鶴光『竹の水仙』
「SkyシアターMBS」こんな豪華な劇場が出来て、あったかいお客さんで、我々落語家は幸せでございます。また今後とも、いろんな企画でやらせてもらえるとありがたいなと思います。その時はまたぜひお越しくださいませ。

柳家花緑『中村仲蔵』
番組をご覧のみなさん、きっと私とあなたとはご縁があると思いますので、チャンネルを変えたりしないように、オチの最後までお付き合いいただきたいと思います。よろしくお願いします。

月亭方正『茗荷宿』
私、噺家になりまして15年になりました。15年、15歳、青春真っ只中です、噺家として。この青春真っ只中の僕の落語、ぜひご覧ください。

桂二葉『つる』
今日は「つる」というネタをやらせていただきました。アホが大活躍するお噺でございます。ぜひご覧ください!

〈夜席〉
桂南光『らくだ』
「らくごのお時間」私もですね、たまに見てるんでございますけど。私の「らくだ」はちょっと長いんですが、「渾身のらくだ」だと。これはディレクターがそう言うてるだけです。私、こんなもんじゃないと思うんですが、そこそこやと思いますんで、よろしかったら長いんですが見てください。お願いします。

立川談春『文七元結』
(芸歴40周年を迎えて)40周年ね、なんかこう幾らかやってきたものを肯定して、形にしなきゃいけないと思って、数多く独演会をやってたんですが、発見ばっかりです。「あれ?これこう変えたらいいんじゃない?」とか、そんな風になっちゃって。もしかするとそれだけ、世の中の動きが変わっているのかもしれない。ありがたいことに課題は見つかってます。

月亭八光『住吉駕籠』
番組をご覧の皆さま、僕はめったにテレビで落語をすることはございませんので、ぜひ目に焼き付けていただきたいと思います!

笑福亭たま『源平盛衰記』
できるだけ面白く頑張りましたので、ぜひ見てください!

(2024年5月10日更新)


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