森崎ウィン、ふたりだけのミュージカルで
「俳優として大きく成長したい」

1995年にオフ・ブロードウェイで初演されたミュージカル『ジョン＆ジェン』。『ワイルド・パーティ』『アダムス・ファミリー』など多くのオン／オフ・ブロードウェイ作品に携わるアンドリュー・リッパと、本作で初めて舞台作品の歌詞・脚本手掛けたトム・グリーンウォルドによるミュージカルで、舞台は1985年から現代にかけてのアメリカ。変わりゆく社会を背景に、親子や姉弟(きょうだい)という家族の関係性に焦点を当て、知性とウィットに富んだ台詞と、美しいメロディーが溢れる作品だ。

第1幕では姉と弟の幼少期から青春期を、第2幕では母親と息子とのすれ違っていく人生を描いた本作。舞台に登場するのはジョンとジェンのふたりのみ。ピアノ、チェロ、パーカッションの生演奏が奏でる旋律とともに、ふたりのハーモニーが家族の物語を丁寧に綴っていく。

演出・翻訳・訳詞・ムーブメントを手掛けるのは、文化間の壁を越えた舞台芸術をテーマに国際的に活躍する市川洋二郎。俳優としても定評がある市川が、日本初演となる本作に挑む。そして、ジョン[1幕＝弟、2幕＝息子]を森崎ウィンと田代万里生、ジェン[1幕＝姉、2幕＝母]を新妻聖子と濱田めぐみが、それぞれWキャストで演じる。

「役者ふたりだけですべてを作り上げていくことに魅力を感じた」という森崎ウィン。「舞台はめちゃめちゃシンプルです。観ている方がその世界観をちゃんと想像できるように、そこに何かが見えるように役者ふたりで提示していくことでもあるので、そこがすごく新鮮です」と声を弾ませる。

そして、本作に挑もうと思った真っすぐな思いを聞かせてくれた。「ふたりだけで舞台を作るのは、俳優としてはやりがいもあるけど、怖さもあります。特にこの作品は舞台上に何も頼るものがないので。でも、この作品をやれたら怖いものがなくなるんじゃないかなって、未知のものに対しての好奇心が掻き立てられました。僕の俳優人生は、ありがたいことに大きな作品に出させていただいて、ポップスからクラシックまでやらせていただきました。そんな中でこのお話をいただいた時、自分の俳優としての幅を広げたかったので、これだ！と思いました。これだけ難しい作品を通して、俳優として大きく成長したいという思いがすごく強かったです」。

脚本を読んでの印象を次のように語った。「家族の問題とか、自分にも通ずるものがあると感じています。親子関係、きょうだい関係で思うことは一緒なんだなって。自分の不甲斐なさとか、自分の足りないところとか、ジェンが自分と向き合って、理想の自分とどうやって手を組んで生きていくのかということがこの物語で大きく描かれているものなんだなと改めて思いました」。

クラシックをベースにした楽曲で構成されている。「セリフをほぼ歌にしていて、しかも変則的な拍子がすごく多くて、本当に気持ちと関連して作っていると感じられます。最後にもすごく良い曲があって、人によっては泣けると思います。でも、一方ではすっきりすると思うんですよね。"これでいいんだ"とか、"ゆっくり始めてみようかな"と、まさに一歩踏み出そうと思えるはず。この作品をエンターテイメントにして上演する意味はすごくあるんじゃないかなと感じています」。

取材・文／岩本

（2023年12月22日更新）