20年の時を経て、『いま、会いにゆきます』が
舞台版でよみがえる

2003年に刊行後たちまちベストセラーを記録、映画化やドラマ化もされて一大ブームを巻き起こした小説『いま、会いにゆきます』（市川拓司作、小学館）。日本中を感動で包んだ夫婦と親子の物語が、20年を経た今、新しい舞台版としてよみがえる。主人公の巧役には、脚本家・演出家で、俳優・声優としても活躍する浅沼晋太郎。その妻でヒロイン役となる澪役には、本作が舞台出演2作目となる女優・タレントの川村那月が挑む。2023年の今だからこそ求められている、優しい愛の物語。稽古も佳境を迎えた浅沼と川村に、その意気込みを聞いた。

最愛の妻・澪が世を去ってから1年。巧は町の小さな司法書士事務所に勤めながら、6歳の1人息子・佑司とひっそり暮らしていた。再び巡ってきた雨の季節に、町はずれの森へ佑司と散歩に出かけた巧。そこで2人が出会ったのは......。

巧役を演じるにあたり、「有名な作品ではあるけれど、映画もドラマも20年近く前になるので、20代のお客様の中には知らない方もいるはず。せっかくこのスタッフで、この共演者でやるのなら、舞台版ならではの"いま会い"を一緒に創り上げたい」と浅沼は語る。「原作には、泣けるシーンや、キュンとするシーンなど素敵な部分がたくさんあるので、そこはきちんと押さえつつ。あとは僕と川村さんが演じるからこその巧と澪の空気感や、息子を持つお父さんのちょっと微笑ましいところも表現できれば、と思います」。

川村もうなずきながら、「私も今回の台本を読んだ時に、原作の素晴らしい部分を残しつつ、新しい作品のようにも感じられることに驚きました。こうやって稽古場に入って演じてみると、その予感は間違っていなかったなと思います。親子や夫婦、恋人への愛はもちろん、いろいろな愛の形として受け止めることが出来るのが、この舞台版の魅力だなって思いました」と言う。

稽古も佳境に入ってのインタビュー。稽古場の様子を2人に聞くと「僕が普段創っている舞台はコメディなので、『今回は恋愛もの...！』と肩に力が入っていたんです（笑）。川村さんとも、息子の佑司役の加部愛里桜ちゃん、竹内ひなたちゃんとも、いつの間にか夫婦や親子みたいな関係になれたのがすごく新鮮でしたね」と浅沼。川村も、「私も舞台は2作目なので、やっぱり緊張がありました（笑）。でも浅沼さんはじめ共演の皆さんがすごく温かくて面白い方ばかりなので緊張がほぐれましたし、周りの方から『本当の家族に見えるね』と言っていただいてホッとしました。まだまだ舞台での芝居は勉強中なのですが、普段は人見知りだけど、ここぞというときだけは強くいく、という澪の性格は自分と似ているように感じるので、澪を通してお客様に伝わるように愛を表現できたらいいなと思います」と意気込む。

「私は役にグッと入り込んじゃうタイプなので、舞台は本当にその場で2時間なら2時間、その役として生きられるのが楽しいです」と話す川村に、「"舞台"の魅力ってそこだよね」と返す浅沼。「ここ数年、公演やイベントが中止になったり延期になったりして、僕自身も悔しい気持ちを味わった中で、『推しは推せる時に推せ』っていう言葉を実感していて（笑）。それは"いつか"ではなくて"いま"、本当に今が大事なんだということ。だからこのタイミングで『いま、会いにゆきます』という作品をお届けできることがとても幸せですし、観に来てくださる方も、ぜひ特別で贅沢な"いま"を感じていただきたいです」と、浅沼は改めて舞台への想いを口にした。

演出は、2020年に若い世代の俳優たちと共に「関西演劇祭」に参加、最優秀作品賞を受賞しているほか、韓国でも活動を続けている金哲義。本作ではその確かな手腕をもとに、オリジナルシーンも追加される予定だ。哀しい未来を予感しながらも、大切な時間を紡ごうとする巧と澪の姿がどう描かれるのか、その行方に注目したい。

取材・文／藤野さくら

（2023年6月26日更新）