大貫勇輔、ミュージカル『マチルダ』での悪役に
「痛快でしかない」

イギリスの劇団ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが2010年に製作し、100もの名だたる国際的な演劇賞に輝いたミュージカル『マチルダ』。原作は『チャーリーとチョコレート工場』でも知られるロアルド・ダールによる児童文学で、天才少女マチルダが放つ鋭い言葉と、自分の力で運命や周りの未来を変えていく姿に全世界で1100万人が魅了された大ヒット作だ。

3月に東京で日本初演を迎えた本作が、5月28日に大阪で開幕。主人公のマチルダ役は1000人以上のオーディション参加者から選ばれた嘉村咲良・熊野みのり・寺田美蘭・三上野乃花のクワトロキャスト。マチルダが入学する学校で、恐怖により子どもたちを支配する校長のミス・トランチブルを大貫勇輔・小野田龍之介・木村達成のトリプルキャストで、マチルダの担任で彼女の才能を見抜き、よき理解者となるミス・ハニーを咲妃みゆ・昆夏美、マチルダよりも社交ダンスに夢中な母親のミセス・ワームウッドを霧矢大夢・大塚千弘、中古車販売で詐欺行為を行っている父親のミスター・ワームウッドを田代万里生・斎藤司がそれぞれWキャストで演じる。大阪公演に向けて、大貫勇輔が本作の魅力をたっぷりと語った。

不思議な力を持つ5歳の少女マチルダをとりまく環境は過酷そのもの。学校ではミス・トランチブルの恐怖が待ち受ける。それでもミス・ハニーと出会い、自分自身の力で運命を切り開いていく。そんなマチルダの姿に胸を打たれると話す。「大人になって諦めてしまったことや失ったことが思い出されて、気がつくと涙が流れている。何ともいえないノスタルジックな部分や、一方で新しい気づきもあったり。自分自身の可能性も発見できました」。

ミス・トランチブルをはじめ、大人たちのユニークなメイクや衣装も印象的だ。「この作品の大人たちは、マチルダから見た大人で。演出家に"子どもから見るとすごく誇張されて見える世界観"と言われて。特にトランチブル校長は自分が思っているよりも100倍誇張してやってほしいと。この姿は子どもの目から見たトランチブルであって、もしかしたらリアルな彼女はもっと普通だったのかもしれません」。

子どもたちにひどい言葉を浴びせるミス・トランチブルに当初は共感できなかったという。だが、稽古を重ねるうちに変化が出てきた。「稽古が始まって2週間ほどは苦労しましたが、セリフが自分の中に定着して、彼女の人生を考えた時に、"こういう感じかな"という感覚が降りてきて、それから楽しんでできるようになりました」。

そして「今は痛快でしかない」と笑う。「東京公演の途中から楽しさだけになりました。子どもたちがリアルな反応をするんですよね。自分次第で子どもたちの芝居が変わるという、俳優としての挑戦心にも面白さを見出しました」。

楽曲にも注目してほしいと続ける。「マチルダが歌う『ちょっと悪い子（NAUGHTY）』は、初めて劇場で見た時に、小さな体でエネルギーいっぱいに歌う姿に泣けてきて。重圧を感じさせず、パワフルに演じていて、自分も負けていられないなと奮い立ちました。有名なブランコのシーンは『いつか（WHEN I GROW UP）』。あのシーンでも僕はなぜか泣いていて。子どもの頃の感覚を思い出していたのかな。言葉にできない感覚に襲われて、ミュージカルならではのシーンだなと思いました。最後の『スクール・ソング（SCHOOL SONG）』では、アルファベット順の歌詞が出てくるのですが、その振付と音楽が本当に素晴らしいです」。

子どもたちのエネルギー、悪態をつく大人たち、音楽と振付、舞台美術、そしてあふれるメッセージ性に、「本当に素晴らしい作品」」と声を弾ませる。「そんな作品を関西の人たちに届けられることが本当に嬉しい」と大貫、「満員の客席を観られたら最高です！」と劇場へいざなった。

取材・文／岩本

（2023年5月31日更新）