ホーム > NEWS > 第20回OMS戯曲賞は激戦!
3名の受賞者が喜びのコメント
第20回OMS戯曲賞は激戦!
3名の受賞者が喜びのコメント
関西発信の戯曲賞として、全国的にも注目を集める「OMS戯曲賞」。第20回を迎えた今年は、58作品の応募の中から、大賞に『追伸』の中村賢司(空の驛舎)、佳作に『はだしのこどもはにわとりだ』の肥田知浩(甘もの会)、特別賞に『タイムズ』の林慎一郎(極東退屈道場)が選出された。
主催者曰く「今年は完成度が高く、激戦でした。議論も長時間にわたり、従来であれば大賞や佳作を受けたであろう作品が惜しくも賞を逃しています。20回にふさわしい作品が揃いました」とのこと。そんな優れた作品の中から大賞に選ばれた中村。'03年の第10回で佳作に選ばれ、以来、幾度となく最終選考に残りながらも大賞受賞には届かなかった。今回の大賞受賞を受けて「一番獲りたかった賞をようやく頂くことが出来ました。13年前に初めて最終選考に残り、それから10回、最終選考に残らせて頂きました。毎回毎回戯曲を出させて頂き、このOMS戯曲賞が私を育ててくれたと思っております。劇団員、私を支えてくれている人、私を育てて頂いた伊丹AI・HALL、そして師匠である北村想さん。それから、15年間ずっと背中を見ながら作品を作ってきました、桃園会の深津篤史さんに感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました」と、最後は感極まり、言葉を詰まらせながら感謝の意を述べた。
また肥田は、初の最終選考にして佳作を受賞。ノイズミュージックに興味を持ったことをきっかけに、戯曲を書いたという。「ノイズミュージックは、いろんな聴き方が出来る音楽。この戯曲も、ひとつの見方だけではなく、いろんな視点から見られる戯曲が書きたいと思って書きました。次は、今年8月に娘が生まれたので、出産や妊娠、記憶、時間をテーマに書いているところです。来年上演予定なので、ぜひ観に来てください」。
そして今回は、従来の大賞と佳作に加え、8年ぶりに特別賞が選出。受賞した林は、2年前にも大賞を受賞している。「8年前、僕が初めて最終選考に残らせて頂いたとき、今回と同じような形で、ごまのはえ(ニットキャップシアター)君が特別賞を受賞したのを見て、すごく悔しくて腹の中で大きな舌打ちをしていました(笑)。今回、こうして素晴らしい賞を頂きましたので、さらに頑張って書いていきたいと思います。この作品は、2年前に大賞を受賞した直後に発表させて頂いたもので、大阪にある日本一高いコインパーキングで、朝9時から夜の10時までずっとカメラを回し続けながら考えた作品です。その労が報われたような気がします(笑)。これからも言葉をしっかり磨いて、立ち向かっていきたいと思います」とコメントした。
例年通り、最終選考の審査員は、生田萬、佐藤信、鈴江敏郎、松田正隆、渡辺えりの5名。『追伸』と題した中村の作品は、3作のオムニバス。亡くなった人に対して、生きている人に対して、“言えなかった”ことを感じさせる作品。渡辺は「ほぼ毎年のように何作も読ませて頂いて、今回は、技術面だけでなく精神的、心情的にも成長を感じました。人間の身体の細胞、機能がひとつずつ失っていくことの意味を問いかけながら、人間の存在の大きさを丁寧に描いている。その感覚に感動しました」とコメント。佐藤も「セリフでしか表現できないものを書いている。2回目に読み返したときに、セリフでしか描けないリズム、時間、空間を非常に感じさせられました」と称賛した。
肥田の『はだしのこどもはにわとりだ』は、「いろんな見方が出来るような作品を」という肥田の狙い通り、選考委員もそれぞれに捉え方が異なった。渡辺が「認知症の老人を介護している人の芝居だと思った」と語れば、鈴江は「主人公の女の子の幻を描いたと読んだ」と話し、「同じ作品を読んでいるのに、みんな全然理解が違う。けれど、共通して面白いと感じた。読んでいて説明しがたい感動がありました」と、コメントした。
林の『タイムズ』については、松田が「戯曲を読んで打ちのめされるということはなかなかないが、読み進めるうちに段々興奮してくる作品。会話と語りのせめぎ合いが最高に面白かった」と評し、佐藤も「林さんが過去に大賞を獲っていなかったら、きっと大賞に値する作品だったと思います」と賛辞を呈した。
次回のOMS戯曲賞より、松田正隆に替わり、演出家の鈴木裕美が選考委員に就任。また、今回の受賞作、詳細な選評、選考経過をまとめた本が、2014年3月に出版予定。
取材・文:黒石悦子
(2013年12月28日更新)
Check
写真左より、甘もの会・肥田知浩、空の驛舎・中村賢司、極東退屈道場・林慎一郎。