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ホーム > NEWS > フランスの名匠アルノー・デプレシャンが大阪に! 「映画は人間をより良いものにすると信じている」 映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』 大阪舞台挨拶レポート


フランスの名匠アルノー・デプレシャンが大阪に!
「映画は人間をより良いものにすると信じている」
映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』
大阪舞台挨拶レポート

『そして僕は恋をする』や『クリスマス・ストーリー』などで知られる、フランスを代表する名匠アルノー・デプレシャンの最新作『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』が、シネ・リーブル梅田ほか全国にて上映中。憎み合い、5年以上顔も合わさずにいた姉と弟が、両親の事故をきっかけに再会する姿を描く家族ドラマだ。

『エディット・ピアフ 愛の讃歌』のマリオン・コティヤールと『私はロランス』のメルヴィル・プポーがW主演を務め、ゴルシフテ・ファラハニ、パトリック・ティムシットらが共演している。そんな本作の公開を記念し、9月19日(月・祝)、シネ・リーブル梅田で、アルノー・デプレシャン監督が上映後に登壇し、舞台挨拶を行った。

観客からの大きな拍手に迎えられたアルノー・デプレシャン監督が「日本には6、7回来ていますが、大阪に来られたのは初めて。今までは東京に閉じ込められていて、ようやく自由を勝ち取れました。ありがとうございます」とユーモアを交えて挨拶。

マリオン・コティヤールとメルヴィル・プポーというフランスを代表する俳優を主演に迎えたことについて聞かれると、まずメルヴィル・プポーについては「エリック・ロメール監督の『夏物語』は日本でも有名だと思いますが、この作品のメルヴィルを思い出すと、完璧な美青年であり理想の息子、理想の恋人を演じていました。しかし、年月とともに俳優としても人間としても深みを増して、そして今回、若い息子を亡くしてしまうという、人間にとっての最大の悲劇を背負った男を演じることができる俳優になっていました」と称賛。

続けて、メルヴィル・プポーが演じたルイという役については「彼はたくさんの弱点を持っています。アルコール中毒で薬もやっていて、暴力的なところも挑発的なところもある。粗野なところもある。しかし、その全ての悪い点、弱点が彼を魅力的な人間にしていると思います」と語っていた。

また、マリオン・コティヤール演じるアリスという役柄について監督は、「アリスという女性をジャッジするのではなく、彼女を解放したいと思っていました。アリスという女性は暗闇の中にいて、とても暗い感情を抱いている女性です。そうした感情を演じることができる女優をフランス映画の中で考えてみました」とキャスティングの理由を明かした。

そして、マリオン・コティヤールについては「彼女が出演している映画を見ると、マリオンが演じているその役を許して享受してしまう。そうした力を持っている、マリオン・コティヤールが演じるからこそ、アリスという女性を私たちは許してしまうというんだと思います。そしてもうひとつ付け加えると、アリスは信じがたいほどに複雑なところを持っている人間ですが、マリオン・コティヤールはそれをすごくシンプルに演じることができる。そういう才能を持っている女優だと思っています」と絶賛。

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本作も監督の故郷であるルーベが舞台になっていることから、ルーベという街について聞かれると監督は「ルーベという街は北フランスにある、フランスで最も貧しい街です。とても美しく、栄えた時期もあったんですが、今は経済的にも一番貧しく、朽ちているところもあり、荒れている地区も多い街になりました。パリに出た時は、ルーベの訛りを全部捨ててパリジャンになろうと努力した時期もあったんですが、デビュー作の『二十歳の死』を撮ろうとした時に、やはり自然とルーベに戻っていく自分がいました」と郷里への思いを語った。

さらに、「映画の力というのは、そんな見捨てられたような街をまるで魔法をかけたかのように輝く場所にすることができるんです。例えば、『クリスマス・ストーリー』という作品で、ルーベの街に雪が降ってくるシーンがありますが、雪によって街が輝き始めるんです。あるいは、本作でもルイが空を飛ぶシーンがあります。ルイが飛ぶことでルーベの街が輝いて見える。そういう映画の力によって、ルーベの街を自分自身も再発見しています」と映画の中でルーベの街を映し出すことへの思いを語っていた。

本作で描かれる姉と弟の確執の理由について監督は、「彼らの間のライバル関係は、両親にも結びついている関係で、強烈なほど兄弟の間に競争関係が生まれてしまって、まるで子どもが親を取り合って喧嘩をしてるかのようなものが続いてしまっている。彼らはあまりにも愛し合っているからこそ、それが恐ろしくなって憎しみ合ってしまったのかもしれない。ルイとアリスは大人のふりをしているけど不幸な子どもたちのようです。しかし、ようやく最後に大人になって、また子どもに戻ることができた、そんなふたりだと思います」と、姉と弟の関係性について話していた。

最後に、ジョン・カサヴェテス監督の作品へのオマージュについて聞かれると監督は、「映画監督には2種類あると思うんです」と前置きし、「ひとつは自分の映画しか興味がない監督。例えば、ロベール・ブレッソンは自分の映画しか興味がないタイプです」と笑わせ、自身は「ふたつ目のタイプ」だと言い、「私は自分の好きな映画を告白し、その影響を隠さないで、私自身も自分が観た映画によって作られているとはっきりと言えます」ときっぱり。それは、「映画は人間をより良いものにすると信じているから」だと断言。

「例えば、自分が演じている舞台から逃げようとしている女優を撮ろうとしたら、『オープニング・ナイト』を考えないわけにはいかないですよね。そこには、はっきりとその影響を隠すことなく見せてるつもりです。例えば、ルイが空を飛ぶシーンで、メルヴィル・プポーに演技をつけたら彼が「マルク・シャガールの絵画のようにね」と言ったんですが、私は「ううん、違う。『マトリックス』のようにだよと返しました(笑)」と笑顔で語り、舞台挨拶は終了した。

取材・文/華崎陽子




(2023年9月18日更新)


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Movie Data




(C) 2022 Why Not Productions - Arte France Cinéma

『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』

▼シネ・リーブル梅田、京都シネマにて上映中
▼9月22日(金)より、シネ・リーブル神戸
出演:マリオン・コティヤール、メルヴィル・プポー、ゴルシフテ・ファラハニ、パトリック・ティムシット
監督:アルノー・デプレシャン

【公式サイト】
https://moviola.jp/brother_sister/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/290742/index.html