「芸術の秋」以降も――
映画界では、まだまだ続く「アート映画」
映画を通して楽しむ「アート」に注目しよう!
様々なアート表現が大阪の街を彩った「おおさかカンヴァス」、映画だけでなく美術や造形なども取りあげられた《京都国際映画祭》が終わり、イベントも一段落。でも映画界では、作品や人物に迫る話題作がまだまだ多く、「芸術の秋」は真っ盛りだ。
アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされた『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』は、謎多き写真家ヴィヴィアン・マイヤーの実像をとらえようとしていくドキュメンタリー。オークションで安値取引されたネガ・フィルムが、写真史にのこる作品としてフォーカスされる、その奇跡的な展開。さらに、マイヤーの意外な素性が語られていくミステリアスな構成に妙味を感じる快作だ。
現代美術家・内藤礼を追いかける『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』は、『はじまりの記憶 杉本博司』で高く評価された、中村佑子監督の最新作。「追いかける」と先述したが、実際、取材半ばにして中村監督は、「撮られると、つくることが失われてしまう」と撮影拒否を告げられてしまう。そこで、上京してきたモデル、顔にけがを追った編集者など、どこか生きづらさを抱えている5人の女性にピントをあわせ直し、彼女たちが内藤作品『母型』を訪ねる旅を映すことで、「内藤礼」という人物を追いかけていく異色のアプローチがなされている。
アクション映画だが、『ミケランジェロ・プロジェクト』も、美術を題材にしていて観逃せない。歴史建造物や作品を守る特殊チームが、略奪された作品を追跡、奪還する物語。活劇ではあるが決してバイオレンスではなく、ユーモアをまじえながら、美術品への敬意、愛情がきっちり織り込まれている。ミケランジェロの『聖母子像』、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』といった名作に関するネタも観て欲しい。
1981年の傑作が美しくよみがえった『愛と哀しみのボレロ デジタル・リマスター版』は、ルドルフ・ヌレエフ(バレエダンサー)、エディット・ピアフ(歌手)、ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮者)、グレン・ミラー(音楽家)という4人の芸術家をモデルにした巨編。この偉人たちが波瀾万丈の中で運命によって結ばれていく姿をドラマチックに描いており、またジャン=ルイ・ポヴェーダの美術は今観ても目を奪われるほど、豊かで繊細。世界観に陶酔する。
映画を通して楽しむ「アート」。美術館に行くような感覚で映画館へ足を運んで、「芸術鑑賞」をじっくり堪能してみてはどうだろうか。
文:田辺ユウキ
(2015年11月 7日更新)
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