戦時下の日本に、
命がけで“本”を守った人々がいた…
知られざる歴史に迫ったドキュメンタリー
『疎開した40万冊の図書』が公開に
「すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する」という哲学者アリストテレスの言葉ではじまるドキュメンタリー映画『疎開した40万冊の図書』が、5月10日(土)より大阪九条のシネ・ヌーヴォにて公開される。第二次世界大戦の戦況が悪化した1944年、日比谷図書館館長・中田邦造の指揮により約40万冊にわたる蔵書が“命がけの疎開”によって守られた実話を知った金髙謙二監督が、3年間の取材や資料研究を経て知られざる歴史に迫る。
ナレーションに長塚京三を起用。当時リュックや大八車で奥多摩や埼玉県の農家の土蔵に何度も足を運んだ都立一中(現・日比谷高校)の生徒たちや疎開を受け入れた人たちの証言、元国会図書館職員の作家・阿刀田高らの証言を交えながら、何百年も前の貴重な蔵書をはじめとした文化遺産がどのように守られたのか、その意義が明らかにされる。疎開で焼失を免れた現存する古書の一部も図書館員の説明と共に紹介され、図書館で時代を超えて受け継がれる蔵書に、映像を通して触れることができるのも新鮮だ。また、作家で東京大空襲・戦災資料センター館長の早乙女勝元は、東京大空襲の生々しい記憶を語り、蔵書疎開の記憶と共に我々が伝えていくべき記憶をスクリーンに刻みつける。

金髙監督(左写真)は、「文化財は、戦争だけではなく人災や災害で失われることもあるので、失われる記憶を残すためにはどうしたらいいか」という考えのもと、イラクのバスラで3万冊の本を守ったアリア・ムハンマド・バクルさんのエピソードや、絵本を5万冊寄贈された福島県飯館村の取り組み(東日本大震災1か月前の取材も含めて)の映像、そして震災の津波により多大な被害を受けた陸前高田市の図書館および被災した本の映像も挿入。現代における本を守る地域や人々の物語は、今の私たちでもできることがあるのではないかと思わせる説得力がある。
作品中で図書館員が「本が子どものように思える」と語っている通り、このドキュメンタリーを観ていると、いつの間にか本が非常に愛おしく思えてくる。金髙監督は「取材で陸前高田に行ったときに図書館の方に案内され、砂まみれでうず高く積み上げられた本を見て、人間が培ってきた歴史的な部分が否定されているような気持ちになり、本当に胸が痛くなった。それを人為的に戦争はやっている訳で、全く論外だと思う」と取材時の感想を語った。人間にとって本という存在がいかに大切であるか、未来に受け継ぐ財産であるかを再認識する機会を与えてくれる作品だ
(2014年5月 8日更新)
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