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これまで家族の絆を描き続けてきた山田洋次監督が
初めて家族の秘密に迫った大人のラブストーリー
『小さいおうち』会見レポート

 『母べえ』『東京家族』など家族の絆を描き続けてきた名匠・山田洋次監督が、中島京子の直木賞受賞小説を映画化した『小さいおうち』が1月25日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。そこで先月、山田洋次監督、女優の松たか子、倍賞千恵子が出席し行われた合同会見の様子をお届けいたします。
 
 山田洋次監督にとって82作目となる最新映画である本作は、昭和モダン溢れる華やかな時代(昭和11年頃)~戦争直後を舞台に、東京の山の手の郊外に建つ赤い屋根の家で暮らす家族の秘密が、60年の時を経て、当時の想い出を綴ったノートから紐解かれていく切なくミステリアスな物語。
 
――この時代を描こうと思った理由はありますか?
山田洋次監督(以下、山田監督):戦前の時代を描きたいというわけではなく、小説がとても素晴らしく、面白くて魅力的だったから。これを映画にできないかなと思ったのが始まりです。
 
――山田監督が小説を気に入られて、その後、ご自身で原作者の中島京子さんにお手紙を書かれたと伺いましたが、そのときの中島さんの反応はいかがでしたか?
山田監督:原作のある作品を映画化することが僕は割合少ないけれども、原作のある場合、最初は僕からお願いするのが筋だし、俳優さんにも直接お願いしたいといつも思っているんです。特にこの作品は直木賞受賞作だし、既に映画化が決まっている可能性もあったので、一刻を争うのではないかと慌てて手紙を出しました。それで「まだ映画化は決まっていません。是非お願いします」というお返事をいただき、やれやれと思いました。
 
――松さんが今回演じた時子は男性からも女性からも憧れられるような存在。この役にどう向き合って演じられましたか?
松たか子(以下、松):掴みどころのない女性ですが、女中のタキちゃんから憧れや興味を持ってもらわなければいけないし、板倉さんからも好きになってもらわなければいけない。どうすればそうなるんだろうと悩みました。
 
山田監督:どうもしなくてもいいよ(笑)。そのままでいい。
 
松:監督や(黒木)華ちゃんや吉岡(秀隆)さんに「お願いします。そう思ってください」と念じるような気持ちで。私が具体的にできることは何もないので、時子はどんな人かと想像しながら演じました。
 
――倍賞さんは平成パートのタキを演じ、久しぶりの山田組となりましたがいかがでしたか? 
倍賞千恵子(以下、倍賞):居心地が良かったです。
 
――特に思い出に残っている台詞やシーンはありましたでしょうか?
倍賞:最後の方の、手紙を書いているシーンで山田監督が近くに立ってブツブツ言っているので「何ですか?」とお聞きすると、「私、長く生きすぎたのよね」とおっしゃったんです。「それは誰が言うんですか」とおもわず聞くと「君だよ」と言われて。それで「えっ、私が言うんですか」と返すと、「僕も長く生きすぎたかな」とおっしゃって(笑)。それでスタッフ全員で「そんなことないですよ」と言ったんです。それがわたしはすごく印象に残っています。
 
――その台詞にこめた思いを教えていただけますか?
山田監督:タキばあちゃんは手紙を届けなかったことを後悔し、生涯苦しみ抜いたわけで、早くこんな人生を終わりにしたかったという想いがあったに違いない。それにも関わらず、この歳まで生きてしまったという意味の台詞だと思っています。
 
――松さんは昭和10年代の女性を演じるに当たって、現代とは違う言葉遣いや所作などあったかと思いますが、何か参考にされたりしたんでしょうか?
松:特に何かを参考にした訳ではありませんが、強いて言えば、母や祖母など着物を特別扱いせず、日常着として着ていた人たちの姿をちょっと思い出しました。所作を目立たせるわけではなく、自然に見えればいいなと思いながら演じました。
 
――山田監督は、具体的に原作のどの部分に強く惹かれ映画化したいと思ったのか教えていただけますか?
山田監督:ひとつは著者の中島京子さんは戦後生まれなのですが、この時代を実によく調べたなと思うぐらい正確に描いていて間違いがないんです。まざまざと昭和10年代の東京の暮らしが表現されている。そしてもうひとつは、山形県から上京してきた本当に初々しい女中のタキが見たこと体験したこと。特に奥様の身に起きた出来事が、彼女にとっては大事件だった。この原作を読んで、その大事件を僕は映画で描くんだ、そういう映画にしようと思いました。映画は多かれ少なかれ事件を描きます。中には地球が滅んでしまうというような大事件を描く映画もありますが、この映画においては奥様の帯が解かれたのが初めてではないと知ったタキにとっては、目の前がクラクラするような出来事だった。それが昭和10年代の東京の郊外にある片隅のちいさな家で起きた。タキの心の中をじーっと見つめると、大きな当惑と驚愕、彼女を包み込むその時代の東京と日本、さらに世界という1940年代前半の人類の歴史すら感じ取れるような映画になればいい、そんなことをしきりに思いながら脚本を書きました。
 
――本作においての戦争の描き方で留意された点は?
山田監督:戦争そのものを舞台にして描いたり、戦争にはいろいろな描き方があります。この映画も今から70年前の太平洋戦争を描いていますが、タキの心や、時子や夫の暮らしにどのように反映していたのか、それを通して巨大な歴史が見えればいいのではないかというのが基本的な態度ですね。
 
――倍賞さんは時代的に松さんとの共演はありませんでしたが、昭和初期に複雑な胸中を抱えた時子を演じた松さんの演技はどのように映りましたか?
倍賞:昭和パートのタキ(黒木華)と時子が玄関を出ていくまでのシーンを見学させていただいたことがあったんですが、松さんはそこにいらっしゃるだけで、原作の時子のイメージそのままで「時子さんがいる」と感じました。撮影待ちをしているタキと時子にも声をかけがたい不思議な感じを垣間見ました。それで、わたしが演じた平成パートのタキはどんなふうに奥様(時子)のことを思っていたのかなと考えると、すごく色っぽい松さんが思い浮かんで、とても美しい奥様にタキは仕えていたのだな、ふたりはそうやって生きてきたのだなととてもよく理解できました。
 
松:本当にありがたいです。私にできることは何もないという状況で現場に入ったので、倍賞さんに、ありのままの姿を見ていただくしか術が無かったので…。自分で自分のことをまったく色っぽいと思っていませんが、そういう想像力を持って観ていただけることで、なんとかあの時わたしは生きていたのだなと思います。ありがたいです。
 
――倍賞さんは、どういう想いで大事件だったという若い頃の出来事を秘めたまま生きる女性を演じたのですか?
倍賞:原作を読んだ後、山田監督に「ミステリーロマンみたいですね」とお話したんですが、タキばあちゃんは胸の中にたくさんのことをしまってあるのだなという想いがだんだん分かってきて、一番最後の「私、長く生きすぎたのよね」という一言に全てが入っているという気がしました。どれだけのものを小さなおうちの中で見て感じていたのか、とても素敵な経験をした人だったのではないかと思いました。
 
山田監督:むしろ悲しい想いをしたのではないかな。奥様や旦那様が生きていれば戦後の長い付き合いの中で関係を修復したり、謝ったり誤解を解いたりすることもあったんでしょうけど、ふたりは死んでしまったのでタキは謝罪のしようもない。それがタキばあちゃんにとっては辛かったんじゃないのかな。この罪の意識を生涯背負って生き続け、これ以上生きるのが辛いという想いを持っていたに違いないのです。同時に、もしかして板倉さんのこと嫉妬していたのかもしれないし、あるいは奥様のことを嫉妬したのかもしれないと、そう考えるとタキばあちゃんは辛い事ばかりだったんですね。そんな風に僕はタキばあちゃんを見てました。そういう思いを大事に生きてきた素晴らしいおばあさんだと思います。
 
 
 ぴあ映画生活にて、映画『小さいおうち』の魅力を分析! 特集ページも是非ご覧ください→こちら



(2014年1月23日更新)


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山田洋次監督
松たか子
倍賞千恵子

Movie Data


Ⓒ2014「小さいおうち」製作委員会

『小さいおうち』

●1月25日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開

出演:松たか子/黒木華/
   片岡孝太郎/吉岡秀隆/妻夫木聡/倍賞千恵子 
原作:中島京子「小さいおうち」(文春文庫刊) 
監督:山田洋次 
脚本:山田洋次・平松恵美子 
音楽:久石譲

【公式サイト】
http://www.chiisai-ouchi.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
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