200万部を超えるベストセラー詩集が映画化
90歳からの詩人、柴田トヨの半生を描く感動作
八千草薫、武田鉄矢、深川栄洋監督が出席した
『くじけないで』会見レポート
90歳を過ぎてから書き始めた詩が多くの人に生きる勇気を与えた詩人、柴田トヨの詩集を題材にした映画『くじけないで』が、11月16日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。そこで先月、大阪の某ホテルにて合同会見が行われ、主演を務めた八千草薫、息子の健一役の武田鉄矢、深川栄洋監督が出席した。
詩集『くじけないで』は、柴田トヨが98歳のときに刊行された処女詩集で、第2詩集『百歳』と合わせると200万部を売り上げたほか、ドキュメンタリー番組も放映されるなど幅広い年齢層から支持を集めた。本作は、今年の1月に101歳の天寿を全うし、天国へと旅立った柴田トヨの詩集『くじけないで』『百歳』に収録された詩にのせて、詩を書くきっかけになった物語や、詩集の背景となった家族のドラマなど、柴田トヨの半生を描いている。
深川監督は「この映画は詩集が原作になった珍しい映画。なので、この映画がここに誕生したことは映画界にとっても意味があるものになったのでは」と自信たっぷり。この作品で初めて脚本に挑戦したことについては「脚本家が書いたものに、監督として手を加えるのは毎回やるんですが、ゼロから脚本を書いたのは今回が初めて。客観性が持てなくなるのであえて避けていたが、この詩集と出会い、映画の構成やディテールが頭にパッと浮かんで、これは自分でやるしかないなと思いました」と映画化の経緯を振り返った。現在37歳の深川監督にとって、自身よりずいぶん上の世代の話を描いたことになるが「自分の知らない世代の映画を作るのは『60歳のラブレター』(2009)で経験していて、抵抗は無くまた新しい勉強が出来るとドキドキしました。柴田家を描きつつ、以前、私の祖父母や両親などに訊いた話も混ぜながら書いたので深川家の話でもあります。この映画を観た両親は「恥ずかしくて見てられなかった」と言っていました。自分の身の周りの話を映画で描いたのは今回が初めてです」と、情熱を持って脚本執筆に挑んだ裏話を語りながら笑顔を見せた。
58年ぶりの映画主演となった八千草薫は「撮影が終わり何ヶ月も経ちますが、ずっとその時の思いが残っています」と感慨深けな表情。そして「トヨさんの詩を繰り返し読む内に、本当に素敵な方だなと思いました。また脚本を読むと登場人物に愛情の深さや温かさを感じて、こんな気持ちになれることが最近少なくなってきたなと思い、それで出演させてもらった」と出演に至った経緯を明かした。そして、役柄の上で「息子から詩を書くことを勧められるまでは何もすることがなく、これでいいのかしらと不安でしたが、詩を書き始めてからは気持ちも楽しくなりました。とてもありがたい経験でした」とトヨさんの言葉かのような感想を穏やかな表情で話した。また「トヨさんの詩には苦しいことや悲しいこともフッと明るく柔らかく変えるような特徴があって、私もそういうのがとても好きです。“コタツに入って テレビを見て 笑っている倅の横顔 若い頃の夫にそっくり クッキーと紅茶を前にして 横顔盗み見ながら 得した気分の冬の午後です”などと、明るくさせて下さる詩だと思います」とトヨさんの詩の魅力を語った。
そのトヨさんの息子は、根は優しくて母思いだが周りに心配ばかりをかけてしまう男。そんな健一を人間味溢れる名演で見せる武田鉄矢は「健一はいわゆる平凡な庶民。そんな人が抱く様々な感情、手触り、戸惑い、悲しみ、怒りをどう演じるか。今日どうやって食事をするか、母親をどうやって喜ばせるか、どうやって定職に就くか。周りから見れば小さなことに本人は大きく悩む。そういう人物を演じるのはなかなか難しかったです」と庶民的で繊細な演技に苦労した様子。
このキャスティングについては「トヨさん自身が、八千草さんが好きという話を聞いたのですが、その話を聞く前から第一希望は八千草さんでした。トヨさんの詩はとても可愛くて品があって、観音様に見えたんです。そのイメージを全て持ち合わせているのは八千草さんしかいないと思い、プロデューサーにも話していました」と深川監督。続けて、武田については「何もいいところがないんじゃないかというくらい小さな男だけど、優しくて母親のことが好き。そういう人物を演じられる人を思い浮かべて出てきたのは武田さんでした。『幸福の黄色いハンカチ』(77)の青年や『刑事物語』の朴訥としながらも瞬発力を持って周りを蹴散らしていく姿が印象的で。今回、エネルギーの塊のような役なので武田さんに演じていただければ面白いだろうなと思った」とコメント。
最後に、八千草から「この映画はトヨさんだけじゃなく、息子やお嫁さん、夫や両親、家族がたくさん出てきます。その家族が相手を思い、愛しているのを私はとても強く感じました。今は離れ離れで暮らす家族が増えていますが、一番安心できる、心を許していられるところが家族だと思うんです。ぜひご覧になってください」と本作をPRした。
(2013年11月14日更新)
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