「小津さんの映画をなぞりながら作ってみると、
日本の今の家族の姿が見られるんじゃないか。
それは小津さんが描いた60年前とはまた違うもの
なんじゃないのか、そんなことを思いながら
この映画を作りました。」山田洋次監督
小津安二郎監督の代表作『東京物語』を現代の設定に置き換えた家族ドラマ『東京家族』が1月19日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開。橋爪功、吉行和子、西村雅彦、妻夫木聡、蒼井優など実力あるキャストを迎え、監督50周年となる山田洋次がメガホンを執る。田舎から上京してきた夫婦と東京で暮らす子どもたち、生活のリズムが違う家族が再会することで生まれる絆を、本作は時に愛おしく時に儚く描いていく。黒澤明監督、新藤兼人監督に次いで映画監督としては3人目となる文化勲章を受章し『幸福の黄色いハンカチ』や『男はつらいよ』シリーズなど、現代の“家族”と向き合い続けてきた山田洋次監督と本作にて夫婦役で出演する橋爪功、吉行和子が来阪、試写会にて舞台挨拶が行われた。
――まずは、ご挨拶から。
山田洋次監督(以下、山田監督):2011年の秋から準備を始めましたが、クランクイン直前に東日本大震災が起こり撮影を延期せざるを得なくなりました。そして、2012年の3月から撮影を再開して、ようやく完成しました。大阪での初めての試写会を迎えることが出来て感慨無量です。
橋爪功(以下、橋爪):私は芸歴は長いんですけど、このような映画のキャンペーンで舞台挨拶をしたのは初めてです。生まれも育ちも大阪の東住吉区でございまして標準語しゃべったら怒られそうな気がしますね(笑)。終戦後の私が子供の頃は、昭和町、針中野、西田辺の辺りにもたくさん映画館があって、ヨーロッパやアメリカの映画の3本立てなどを観に行って映画館に入り浸ってるような少年でした。僕の時代ではスクリーンというよりも銀幕という言葉がふさわしくて、そんな銀幕に自分の顔が映るのはこっぱずかしくてしょうがない(笑)。ものすごく不安な気持ちでいっぱいです。是非とも優しい気持ちでご覧になっていただけましたら幸いです。
吉行和子(以下、吉行):山田監督も橋爪さんも大阪の出身なんで、わたしはちょっと肩身が狭いです(笑)。今回、とみこという役を演じたんですけど、この人は本当に心が広くて優しい人なんです。ですから、わたしも撮影中はとてもいい人でいました(笑)。一生懸命演じましたから優しい気持ちで観ていただけたら嬉しいです。
――では、監督50周年を迎えられた今のお気持ちを聞かせていただけますか?
山田監督:“長生きも芸のうち”と言いますが、よくこの歳になるまで頑張って映画作って来られたなという思いはあります。巨匠というのはそんなにたくさん作らないものなんですが、僕はちょっと作りすぎてるんじゃないかと思いますけどね。別に長くやってるということはそんなに威張ることじゃないと思っています(笑)。
――『東京家族』の元となった『東京物語』の小津さんへの思いを聞かせてください。
山田監督:小津さんの大変な傑作で世界一と言われてる『東京物語』。この映画は60年前に家族というものがだんだん崩れていくんじゃないか消えていくんじゃないかそういう不安をふと思わせるような映画でしたね。だけどそれから60年、その小津さんの予言が当たって、今の日本は家族の繋がりが薄くなってきている気がします。そんな時にもう一回小津さんの映画をなぞりながら作ってみると今の日本という国や日本人がどんな思いで親を思ったり子供を思ったり兄弟同士でいろんな感情を抱いたりしてるんだろうか、日本の今の家族の姿が見られるんじゃないか。それは自ずと小津さんが描いた60年前とはまた違うものなんじゃないのか、そんなことを思いながらこの映画を作りました。
――夫婦役についてお互いどのように感じてらっしゃいますか?
橋爪:実は吉行さんと夫婦役を演じるのは3本目なんです。だから“吉行・橋爪夫婦3部作”と勝手に呼んでるんです(笑)。舞台でも何度かご一緒したこともありまして、私がアメリカ人のおばあちゃん、吉行さんが日本から来た留学生のお嬢さんという、わけの分からない役もありました(笑)。ですので、俳優同士の遠慮や緊張感というのがなく、今回も山田監督に「奥さん役は吉行さんだよ」と言われた時に「はー良かった」と心から思いました。何にも考えなくていいと言うと変なんだけど(笑)、そのままで、すぐ夫婦役が演じられました。
吉行:本当にそういう意味では、愛してるんですよ(笑)。10年以上前にも長く連れ添った夫婦という役で共演してますし、本当に長いこと一緒にいた夫婦という感じです。撮影の待ち時間に、橋爪さんがだらけた格好で足を投げ出していたんですが、その足が白くて毛がひとつもなくて綺麗なんですよ。それで思わず「ちょっと触るわよ~!」とか言って平気で触ってました。橋爪さんも平気で触らせてまして、こんなこと普通出来ませんよね。長い付き合いで信頼しあって、愛し合っているのがそういうところでも分かるような気がします。
――この映画には故郷というのも大きなテーマとしてあるように思いましたが。
山田監督:僕は寅さんシリーズを28年続けてきて日本中あちこちをロケーションして歩きました。それで、地方都市の商店が閉まってどんどんシャッター通りになっていくのを目の当たりにしたんです。『東京家族』の故郷は瀬戸内海の大崎上島という島ですけどもここも同じで、そんな状況をずっと胸を痛めながら見てきて、5年先、10年先はどうなるんだろうという不安を持ちました。地方に故郷を持つ人たちは、みんなそう思ってるんじゃないのかな。どういう解決策があるのかは、なかなかみつからないまま今日に至ってるというわけなんですけど。『東京家族』を観て、そんなことを考えていただければと思います。
――では、最後にこれから観られる方にメッセージをお願いします。
山田監督:様々な年齢の方が、それぞれいろんな思いをお持ちになるんではないかと想像しますが、僕たちは幸せだったのか? そして今幸せなんだろうか? 僕たちの未来は幸せが待っているのだろうか? あるいはそういう方向に僕たちの暮らし、国は向いてるのだろうか? そんなことをみなさんが上映後、ふと考えてみることがあればいいなと思ってます。楽しんで観ていただけることを願っています。
(2013年1月17日更新)
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