ホーム > NEWS > 第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で 反響を呼んだ、“どのように生きるのか”という 本質を突きつけるドキュメンタリー 『Coming Out Story』梅沢圭監督会見レポート
第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映され、反響を呼んだ『Coming Out Story』が、6月1日(金)までシアターセブンにて、6月2日(土)より8日(金)まで元町映画館にて、その後京都みなみ会館にて公開される。長年の夢だった性別適合手術へと向かう京都の公立高校で教鞭をとる土肥いつきさんの姿をとおし、生きにくさを感じながら生きる誰もの心に“どのように生きるのか”という本質を突きつけるドキュメンタリーだ。本作の公開にあたり、梅沢圭監督が来阪した。
元々、2010年度の日本映画学校の卒業制作として作られ、その年の最優秀監督に贈られる今村昌平賞を受賞した作品を、梅沢監督が卒業後再編集して完成したのが本作なのだが、まずは、本作を作ろうと思ったきっかけについて聞いてみるとー
梅沢圭監督(以下、梅沢):元々、セクシャルマイノリティについての映画を作りたいとは思っていたんです。それで、関東周辺のセクシャルマイノリティ、特に性同一性障害の団体が増えてきているので、そういう団体の方と会っていきました。でも、個人個人はすごく魅力的なんですが、そもそも“男とは何なのか”“女とは何なのか”と、そこまで突き詰めて格闘している方は中々いらっしゃらなかったんです。そうした時に、関西方面で何人かお会いしようと思っていた人の中に土肥いつきさんがいらっしゃったんです。そして、いつきさんにメールで連絡を取ったら、「会ってもいいですが、お酒を飲みながらか、珈琲を飲みながらか、どっちにしますか?」と返ってきて、ちょっと変わった人だと思いながら、会いに行ってお酒を飲んだら意気投合してしまって、しばらく追わせていただくことにしました。
セクシャルマイノリティについて興味を持っていた理由は?
梅沢: 2010年に埼玉で性同一性障害の小学生が学校に入学を許可されたというニュースがありましたよね。小学生の男の子が女の子として通学することを許可されたんですが、その新聞記事の写真が、その子の後姿のちょっと暗めの写真で、写真に写るのに、なぜこんな姿で写っているんだろう、と思ったことがすごく印象に残っていたんです。映画にしたいと思ったのは、この時がきっかけだったと思います。
本作は、土肥さんの姿を追うだけでなく、土肥さんの影響を受けて、自らの胸のうちを告白するスタッフの姿や、監督自身の告白までもが映されている。それは、元々の構想としてあったことなのだろうか。
梅沢:当初は、いつきさんのマイノリティの活動や、いつきさん本人が抱えるマイノリティの当事者としての問題や、周りの人たちとどう繋がっているのかを追うつもりだったんですが、性別適合手術のことを聞いた時点でだいぶ変わってしまいました。そこから、(スタッフの)豊島くんの告白などもあって、元々の構想からは大幅に変わってしまいました。僕がバイセクシャルであることも、映画の中で言うつもりはなかったですし、豊島くんの発言は本当に想定外でしたね。
「本当に想定外だった」と語る監督だが、取材をしていくうえで驚いたことは多かったのだろうか。
梅沢:最初、いつきさんとお会いした時は性別適合手術をするという話は聞いてなかったんです。お会いして1週間ぐらい経ってから、「手術しようと思う」と聞かされまして。最初は、全く違う作品になるイメージだったんですが、これはどうなるかわからないけど追わなきゃいけないと思いました。普通、何も知らない人間からしたら、身近な人間が手術すると聞かされれば驚くと思うんです。僕は、いつきさんは自分らしさにこだわっている人だから、敢えて手術しなくても自分自身が女性だと思っていればいいんじゃないかと思っていたんです。でも、いつきさんにとっては、他人が自分をどう見るかよりも、自分がお風呂場などで自分自身の身体をどう見るのかは別物だったんです。そして、いつきさんが手術したことを自分の生徒に伝えることで、関係性も変わってくるのかと思って見ていたんですが、全然変わらないんですよね。それは、とても驚きました。生徒にとっては、先生が男か女かということは第一義的な問題ではないということですよね。
では、この映画の本質はセクシャルマイノリティについてではなく、“男とは何なのか”“女とは何なのか”あるいは“どのように生きるのか”という、生きることの本質を問うことなのだろうか。
梅沢:僕は、単なるセクシャルマイノリティの映画を作りたかったわけではありません。性同一性障害とは何なのかとか、当事者がいかに苦しんでいるかとか、そういうことを描こうとはしてないんです。結局のところは、色んな人との出会いの中で、自分の内面を照らし合わせていくことで、新たに自分の中に何かを発見するという連鎖反応を描きたかったんです。そういう、人と人との関わりあいや絆を描きたかったんです。
(2012年5月29日更新)
●6月1日(金)まで、シアターセブンにて公開
●6月2日(土)より8日(金)まで、元町映画館にて公開
【公式サイト】
http://www.coming-out-story.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158397/