ホーム > NEWS > 「5年という時間は、僕がこの映画を撮るためのとても 大事な時間でした」監督の映画へのこだわりが 詰まった5年越しの衝撃作『セイジ-陸の魚-』 伊勢谷友介監督来場舞台挨拶レポート
太宰治賞を受賞した辻内智貫のベストセラー小説を、伊勢谷友介が『カクト』に続く監督第2作として5年の歳月を捧げて映画化した『セイジ-陸の魚-』がテアトル梅田ほかにて公開中だ。若さゆえの自分探しの旅とその記憶を、美しい自然に囲まれた映像の中に描き出す。森山未來演じる、大学最後の夏休みに自転車でひとり旅をしていた“僕”と、西島秀俊扮する、今はもう寂れてしまった国道沿いのドライブインで純粋に生きる男セイジとのひと夏の日々を映し出す。公開に先立ち、伊勢谷友介監督が来阪し、舞台挨拶を行った。
伊勢谷監督が登場するや、満席、立見も含めて約120人の観客から「おおきに~伊勢谷さん」と声が上がるものの、当の伊勢谷は「えっ!?何て言ったの!?」と“おおきに”の意味がわからなかったようで、びっくりしていたようだが、大阪の温かい歓迎に笑みがこぼれていた。そんな大阪ならでは(!?)の大声での歓迎を含め、朝から関西ローカルのテレビに出ずっぱりだった伊勢谷に大阪の印象を聞いてみると、「早朝に東京を出たので、ほとんど眠った状態でテレビ局に入ったんですが、みんな声がでかい(笑)。朝の声量じゃないですよ。声に圧倒されました。普通の人にインタビューしても、普通の人の声量も大きいし、ちゃんとお笑いの“かぶせ”みたいなことをやってくるし、自分でネタ振って、ちゃんと後で拾うし、ほんとすごいと思いましたし、僕が学ばなければいけないことがたくさんあるなと思いながら見ていました」と大阪人のノリの良さに感嘆のコメントが飛び出した。
そして、伊勢谷監督が前作『カクト』から8年ぶり、そして5年の歳月をかけて映画化を果たした本作へと話題は移っていった。まずは、「編集者が選ぶ泣ける本」としてオールタイムベスト10にも選ばれている原作の印象について聞いてみると、「最初に原作を読んだ時は、映画化するのは難しい本だと思いました。そう思いながらも脚本を書いたんですが、なかなか簡単にお金が集まる映画ではないので、ちょっと頓挫していたんです。セイジは特殊な目線を持っている人で、それをどのように映画で表現するのかも非常に大変でした。原作の中では、セイジはもっとたくさん話すし、神様の設定だったりするんですが、僕は絶対セイジを人間にしたいと思ったので、その辺りは原作と変えています」と原作の印象を語っていた。
また、見事な身体を披露しているセイジを演じた西島秀俊と“僕”に扮した森山未來という、日本を代表する俳優の奇跡の共演については、「脚本を書いた時点では100点じゃなくて、映画を撮った時点で100点になってくれると嬉しいんですが、それはなかなかないことなんです。今回は、西島さんと森山くんが僕の書いた拙い脚本を、ふたりが結実させてくれて、120%、150%になって、自分が想像していたよりももっとすごいものを役者さんたちが作ってくれたんです。それが見られたのは、本当に嬉しかったですね。身体作りについては何も言ってなかったんですよ。西島さん演じるセイジは、絶対に太っていてはいけない役だとは思っていましたが、まさかあそこまで作ってこられるとは思ってなかったので、僕もびっくりしました。森山くんは、150kmぐらいの距離を自転車で3日間かけて現場まで来たんですよ。ただ、あいつは携帯を持ってないので、居場所を突き止めるのが大変で、マネージャーが旅館で必ず電話するように言っていたみたいですが…マネージャーは泣いてましたね(笑)」と、撮影秘話を絡めたエピソードも披露してくれていた。
そのように、本作は西島と森山をはじめとするキャスト陣の素晴らしい演技に加え、ラストに待ち受ける壮絶な事件も話題になるなど、観た人それぞれに捉え方が違う、多面的な作品となっている。伊勢谷のツイッターには、映画を観た方からの感想も寄せられているそうだが…、「絶句してしまう人もいましたね。観た方それぞれによって捉え方が全然違うんですよ。この間ツイッターで17歳ぐらいの子が感じたことをたくさん書いてくれたんです。僕は、正直若い子にはわからないんじゃないかと思ってたんですよ。経験を積んだ40歳ぐらいの男の人が観ると、今までの経験から色んなものを感じられるんじゃないかと思って作ったんですが、17歳の子にものすごく響いたりしているので、あながち経験だけがこの映画を理解できる要素ではないことがわかったので、すごく嬉しいですし、監督冥利に尽きますよね。なかなか自分の作ったものが人に伝わることを実感できることってないですし、それを感じることができたらほんとにやってて良かったと思いますよね」と感無量の様子で、この日の観客にも「どんどん感想送ってね!」と声をかけていた。
そんな中、伊勢谷自身が「こうやって俺が話をするより、いっそのこと質問を受け付けようよ」と言い出し、突如観客からの質問タイムへと移っていき、伊勢谷監督ならではの映画へのこだわりについて質問されると、「今回は特に、 1作目に出来なかったことを今回は絶対結実させてやるという思いは強かったです。だから、あんまり役者さんには演出をせずに、フレームワークやカメラワークにこだわったと自分では思っていたんですが、西島さんにはすごく細かく演出されたって言われました(笑)。役者さんには、なるべく少ない言葉で本質的なことを伝える方が、彼らに自由度が生まれるんです。全部説明して外堀を埋めてしまうと、ガチガチの芝居になってしまうので、その辺は自分も役者をやっているので、なるべく素晴らしい監督がやっているような方法で演出したいと思ってやってましたね。僕は映画の中で、長々と説明することはしたくないんです。映画は、ニュアンスで伝えるものだと思っていて、出来るだけ説明しないようにしてるんだけど、絶対に入れなきゃいけないんですよ。それをどういう風に撮っているのかを観てもらいたいです。それが一番こだわってる部分です。ヒントを言うと、ハイライダーという照明を高く上げる機材があるんですが、普通は音なしで上げないと音声も一緒に録れないんですけど、それにカメラをつけて撮ったシーンがあるんです。そこはこだわったシーンですね」と、役者としても活躍する伊勢谷監督ならではのこだわりを語ってくれた。
そうして、突如観客からの質問タイムも飛び出した、盛り上がりを見せた舞台挨拶も終わりに近づき、最後の挨拶となった。「試写会でよく、「この映画をいいと思ったらもう1回観てください」って言う人がいるんですが、僕はこの映画を5年ごとに観てもらいたいんです。僕は、この映画を作るのに5年かかりました。その5年の間に、自分がすごく成長したと思うんです。5年間、私生活の中で切磋琢磨したからこそ、主人公のセイジという人間を本質的に捉えることができたと思うし、僕がこの映画を撮るためのとても大事な時間になったので、ぜひみんなの中の5年という大事な時間がどうなっていくのか、この映画を観るとわかってくると思うので、また5年後に観てくれたら嬉しいです」と、最後まで伊勢谷監督らしいコメントで締めくくられ、舞台挨拶は終了となった。
本作『セイジ-陸の魚-』は、“生きるとは何なのか?”“食べることの意味とは?”“人を救うとは?”という永遠のテーマと、ヒリヒリするほど不器用にしか生きることのできない男たちのひと夏を描く、伊勢谷監督が全身全霊を傾けた衝撃作だ。
(2012年2月22日更新)
●テアトル梅田ほかにて上映中
【公式サイト】
http://www.seiji-sakana.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156821/