ホーム > インタビュー&レポート > 朝美絢が永遠を生きる少年エドガーに。 雪組新トップコンビ大劇場お披露目公演『ポーの一族』
2018年、萩尾望都の同名漫画を原作に、宝塚歌劇で初めて舞台化されたミュージカル・ゴシック『ポーの一族』。かねてよりミュージカル化を夢見ていた小池修一郎が脚本・演出を手がけ、明日海りお主演の花組公演として上演された本作は、大きな反響を呼んだ。その完成度の高さゆえに「ふさわしい役者なくして再演不可能」とも言われてきた名作が2026年、トップスター・朝美絢(あさみ・じゅん)率いる雪組により、8年ぶりに兵庫・宝塚大劇場にて幕を開けた。
物語は、永遠の時を生きるバンパネラの一族に加わった少年エドガー・ポーツネルが、時空を超えて旅を続けるゴシック・ロマン。人間の時間と、年を重ねることのないバンパネラの時間。決して交わることのない二つの時間の中で、エドガーと妹メリーベル、そして彼らに関わる人々の運命が動き出す。始まりは、1964年の西ドイツ・フランクフルト空港。3人のバンパネラ研究家によって、100年以上語り継がれてきたバンパネラ伝説が幕を開ける。そして時は遡り、1865年。霧が立ち込める深い森の奥で、一人の男性が不可解な事件に遭遇する――。
朝美絢演じる少年エドガーが、人ならざる者の気配を漂わせて舞台に現れる。無邪気さ、孤独、人を惑わせる妖しさなど、エドガーの揺れ動く心情を中性的な魅力で浮かび上がらせていく。いつしかエドガーがすっと首元へ手を伸ばすたびに緊張が走る。生気を吸い取られているのは、舞台上だけの出来事ではないのかもしれない。その一挙手一投足を夢中になって追ううちに、こちらも異世界へと連れていかれるような感覚も覚えた。エドガーの妹メリーベルを演じるのは、新トップ娘役の音彩唯(ねいろ・ゆい)。メリーベルの可憐さと儚さを、澄んだ佇まいで魅了する。そして、朝美とともに醸し出す、秘密を抱えた兄妹ならではの空気感は唯一無二。エドガーと同じ時を生きる存在として、物語の核となる兄妹の結びつきをしっかりと立ち上げた。

フランク・ポーツネル男爵を演じるのは瀬央ゆりあ。抑えた所作と落ち着いた声色で、長い時を生きてきた者の重みを感じさせる瀬央。男爵が舞台に現れるたびに時間が止まったような気配が漂い、貴族的な佇まいと堂々たる存在感で、バンパネラの世界に妖しい輪郭を与えた。また、エドガーやメリーベルを見つめるまなざしにも、一族を率いる者の矜持を宿した。その妻シーラ・ポーツネル男爵夫人を演じるのは小桜ほのか。ポーツネル家に嫁いだシーラの覚悟を、場面を追うごとに深めていく小桜。少しずつ変化する表情から、シーラが背負ったものの重さが伝わってきた。
一方、人間の側からエドガーに接近していくアラン・トワイライトを演じるのは縣千(あがた・せん)。反発心を抱えたアランが、エドガーに少しずつ心を開いていく様には、危うさを帯びた美しさがある。エドガーと出会う前と後では、まったく異なる表情を見せるアラン。二人きりになる場面では、静かな高揚が劇場を満たした。
当代随一の霊能者・ブラヴァツキーを美穂圭子、ポーの一族の長である大老ポーを奏乃はると、捨て子だったエドガーとメリーベルを育てた老ハンナを透真かずきが演じるなど、エドガーを取り巻く人物たちも厚みを持って描かれ、幻想譚にとどまらない奥行きをもたらした。美穂は本作をもって宝塚を卒業する。「貴婦人のイメージが強い美穂だからこそ、異色の役柄で掉尾を飾ってもらおう」という小池の粋な計らいにも注目だ。
衣装や場面転換の美しさも、本作の大きな魅力だ。時代を超えて旅を続ける物語だけに、場面ごとの色調、衣装、群像の動きが、生活や文化の変遷も伝えていく。どの時代にも変わらず、人間の世界には業や俗が入り混じる。その人間の世界があるからこそ、バンパネラとして永遠を生きる者たちの透き通るような美しさと、抱え続ける痛みが際立ち、儚くも妖しい世界を醸成した。
フィナーレでは、『ポーの一族』のモチーフにもなっているバラの精によるロケットや、紳士と淑女によるアダルトなナンバー、ダイナミックな群舞が展開される。朝美と音彩によるデュエットナンバーも晴れやかに、新体制となった雪組の新たな幕開けを華々しく飾った。
取材・文/岩本
(C)宝塚歌劇
(2026年8月 3日更新)
【兵庫公演】
▼8月23日(日)まで上演中
宝塚大劇場
SS席-14000円 S+席-10500円
S席-8000円 A席-5500円 B席-3500円
【東京公演】
8月9日(日)一般発売
▼9月12日(土)~10月25日(日)
東京宝塚劇場
SS席-14000円 S席-11000円
A席-5500円 B席-3500円
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