ホーム > インタビュー&レポート > 20周年を前に劇団初のふたり芝居! 空晴・岡部尚子が語る『先生の部屋、父の部屋』
――亡き父をめぐって息子と元生徒が出会う設定は、どこから生まれたのでしょうか。
先生って、人それぞれに思いがあると思うんです。良きにしろ悪しきにしろ、「先生」と言われた瞬間にいろんな人を想像しますよね。幼稚園から学校まで、ほとんどの人が何人もの先生に出会っているし、ドラマや映画でも先生はよく題材になる。「先生」という言葉には、人それぞれの記憶や感情を呼び起こす力があるなと、ずっと思っていました。私自身も以前から養成所や専門学校、大学などで教える立場を経験してきて、今年からは梅花女子大学でも教えています。そういう中で「先生」という言葉を掘り下げてみたいと思ったんです。
――教える立場になったことは、作家や演出家としての自分にも影響していますか。
すごくあります。人に何かを伝えるには、こんなに言葉を知らないといけないんだと思いました。知識としての言葉だけじゃなくて、共通言語だったり、「これを説明するにはどう言えばいいんやろう」という言語化の仕方だったり。私は大学で演劇を座学として学んだ人間ではなく、現場でいろんな演出家の方から学んできました。今は演劇のメソッドも勉強していますし、能に触れる中で、昔から伝えられてきた考え方からも学んでいます。教える相手が増えるほど、いろんな言葉を知っておかないといけない。それは脚本を書く時にも、演出する時にも、演じる時にもつながっていると思います。
――今回は空晴にとって劇団初のふたり芝居です。なぜ今、この形になったのでしょう。
活動している劇団員が上瀧と私の二人になって、最初は客演を呼ぶことしか考えていなかったんです。空晴は第5回公演以降、劇団員だけで作品をやっていなくて、その時にやりたいものを客演の方と一緒に作ることがベースになっていたので。でも小川菜摘さんに話した時、「二人でやればいいじゃん。私、見たいよ」と言われて、「そうか、二人でやるというのもあるんや」と気づかされました。劇団員がもっといたら、たぶん挑戦していなかったと思います。だから20周年を前に、このタイミングでやれてよかったと思っています。
――作・演出をしながら出演するふたり芝居。稽古はいかがですか。
めちゃくちゃ大変です。今までは自分が出ていない場面を前から見たり、自分のところだけ代役を立ててもらったりできたのですが、今回は二人しかいないので、それができない。台本も、稽古しながら「ここは説明が足りないな」と思ったところを書き直していて、演出しながら作家の自分に注文を出しています。早く形にして誰かに見てもらいたい反面、じっくり時間をかけたい。その二つが反比例している感じですね。
――相手役の上瀧昇一郎さんと、二人で向き合うことで見えてきたことはありますか。
役者としては、私とは本当に真逆ですね。極端に言うと、私は勘でやるタイプで、上瀧はしっかり組み立てて緻密に作るタイプ。水と油みたいです。私が「こう」と言うと、上瀧は「こう考えていました」と返してくる。それを聞くと「なるほど、そういうのもあるか」と納得できる。長く同じ劇団にいても、全然違う作り方をしているんだなと改めて感じています。
――タイトルの通り、一つの部屋が息子にとっては「父の部屋」、元生徒にとっては「先生の部屋」になります。この狙いは?
空晴はもともと、場所がほとんど変わらない芝居をずっとやってきたんです。舞台装置が大きく変わる面白さも好きですけど、舞台上は何も変わっていないのに、最初と最後では違うように見えてくる、というのが好きで。視覚的に「変わりました」と見せるんじゃなくて、お客さんの想像力を借りて、そう見えてくるようにしたいんです。今回も、舞台上に出てこない人が何人もいます。母親もそうですし、亡くなった父もそう。出てこない人を作ることで、お客さんそれぞれに違う人物像を想像してもらえる。帰り道に話してみたら、全然違う人を想像していてもいいと思うんです。「私はもっとボケボケな人だと思ってた」「私はもっとちょっと意地悪だと思ってた」とか。でも全然いいと思う。それが面白いんじゃないかなって。みんなが同じものを見て、同じように感じるわけではない。その余白が演劇の面白さだと思っています。
――父が亡くなってから「22年」という時間を置いたのには、どんな意味がありますか。
かなり時間が経っていてほしかったんです。空晴は旗揚げ公演の直後に旗揚げメンバーを一人亡くしていて、来年で20年になります。10周年の時には『遠くの花火』という作品を書きました。私は「近しい人が亡くなって20年近く経つ」という時間は知っている。だから今回は、自分が知らない時間にしたかった。それで22年にしました。自分の経験だけで「私だったら」とならない時間をやってみたかったんです。
――そうなんですね。この公演を、来年の旗揚げ20周年へどうつなげたいと考えていますか。
20周年を前にふたり芝居をやれたことは、原点に立ち返るような意味があると思っています。10年はなんとなく勢いでやってこられたけど、20年となると、やっぱりいろいろ考えます。コロナ禍を境にお客さんの動きも大きく変わって、劇場を小さくしたり、なるべく公演回数を増やして、口コミを聞いてからでも来てもらえるようにしたり、劇団のやり方も変えてきました。来年はまた二人ではなく、すでに何人かに声をかけていて、劇団の今の状況や、旗揚げメンバーが亡くなってから私たちが過ごしてきた20年の時間を書けたらと思っています。ただ、重いだけの作品にはしたくない。空晴の作品は、全部が解決してハッピーエンドになるわけではなくて、実はちょっとビターなんです。でも「明日のことは分からないけど、分からないからこそ、明日もちょっと頑張ってみよう」と思えるところには行き着きたいです。
――空晴の作品は笑いも多いですよね。笑いを大切にしている理由は?
笑わせるって、むちゃくちゃ難しいんですよ。でも、笑っている時って幸せやなとも思う。誰かが笑うと、つられて笑うこともあるじゃないですか。そういうところも面白いし、幸せやなと思うので。難しいけれど、これからも芝居の中で「笑うこと」には挑戦していきたいです。
取材・文/岩本和子
(2026年8月17日更新)
チケット発売中 Pコード:543-447
【大阪公演】
▼8月21日(金)19:30
▼8月22日(土)13:00/17:00
▼8月23日(日)12:00/16:00
▼8月24日(月)19:30
▼8月25日(火)14:00/19:00
in→dependent theatre 1st
【東京公演】
▼9月5日(土)15:00
▼9月6日(日)13:00/17:00
▼9月7日(月)14:00/19:30
▼9月8日(火)14:00
一般-4500円(指定) U-22-3500円(指定、要身分証明書)
[脚本・演出]岡部尚子
[出演]上瀧昇一郎/岡部尚子
※未就学児童は入場不可。
【問】空晴 karappare@yahoo.co.jp